第12話-2 竜宮城の玉手箱、北九州へ
浦島太郎ってネーミングセンス、俺だけが吹き出しそうになって息を殺した。
生ける屍の浦島太郎になる前に鹿島首相を生還させるってこと、だ。
そして、玉手箱は開けずに破壊する。
叔父さんが権威ある陸軍大将でなければ、軍人たちは話す人の正気を疑う。
任務遂行の難しさ。絶望の空気。各基地、駐屯地の士気の低さ。
命知らずの軍人たちが何も話せないんだ。
苦渋の選択をしたようで、各司令官たちが浦島作戦への参加を断る。
「アメリカは作戦の参加を辞退する」
「防府基地も作戦を辞退します」
「山口駐屯地も動けません」
「下関基地もご期待に応えられません」
なるほど、それで伊丹の俺たちに暗号文か。ようやく叔父さんが俺たちを呼んだ理由がわかる。
ただ俺は腕組みをして、酸っぱい顔をする。
ほぼ確実に死んじゃうのか。でもナガトに、俺が役立つチャンスなんて言ったし。
迷いを捨てて、俺は立ち上がった。
ホウセンとナガトが、俺に続いて立ち上がる。
「俺、やります!」
「うちも行くで」
「はぁ、私も任務をお引き受けいたします」
若手軍人3人に発奮されて、揺れていた軍人たちのうち何人かが作戦の志願をした。
クモミネ大将……叔父さんは、理不尽な現実に対する憤りで顔を震わせていた。
命を捨てる覚悟の将兵たちに感謝しているのだろう。その将兵たちに火をつけたのは、大将の家族なのだ。
俺が叔父さんだったら、現実を拒絶したくなり、強い葛藤で胸が痛くなるだろう。
ただ一国の現首相を見捨てるわけに行かないのだ。作戦の成功には、日本の国家としてのメンツがかかっている。
軍の会議が終わった。
志願兵は階級問わず、みんな下関基地に集まった。
酒を飲み干すと皿を割っている将兵たちは、俺たちと同じく作戦へ赴くのだろう。
死んでも魂は帰って来よう……か。
今の時代は、東方大将軍による戦時下じゃない。本来、死ぬのが前提じゃないんだ。
それでも怖い。
日本刀で俺は身体を支える。俺の手は震えている。
叔父さんの手が、俺の手にそっと添えられた。ナガトとホウセンも、俺の傍らに立っていると気付く。
やはり叔父さんは軍人でなく、子供たちに対する親心としての心配を口にした。
息子のナガトは、泣き言を漏らしそうな口をがんばって動かす。
「ナガト、イツキ、それにニシオリくん、君たちには関門海峡を越えて、福岡市内へ向かってくれ。そして、玉手箱を探して破壊してもらう。向こうの地は、軍も救護が追いつかないほど酷い有様だ。無理なら山口へ引き返しても構わない。自分の命を優先してくれ」
「拝命……いたします」
クモミネ大将、目の前に立つ成人男性の存在がいつも強い。
ナガトにとっても、尊敬する父親であり軍人だ。
俺から手を離すと、叔父さんはナガトの頭を無骨な手で撫でる。