第11話-2 大阪から西へ
ナガトの顔色が日を追うごとに悪くなっている。
俺は状況確認したかったけど、それよりも彼の体調を心配した。
「ごめん、複雑すぎてどこまで話せるか分からないのよぉ」
「じゃあ、いいや。ナガト、ちゃんと寝ているか」
「少し寝かせて」
「俺たちはちょっと防府市内を散歩してくるよ」
ホウセンが紙コップで水をナガトに渡す。すぐに飲まないで、彼は疲れた顔で笑った。
階級レベルで情報統制があり、話せることが限られるらしい。察しの悪い俺でも、北九州の方で何か起きていることは分かっている。
その情報の輪から、下っ端の俺とホウセンは弾かれていた。
暇を持て余していたので、ナガトが寝ている間に、俺たちは防府市内を散歩する。
しばらくブラブラと歩いて、向島から九州の陸地を眺めることにした。
大分県国東半島に浮かぶ姫島に対して、こちらの島を婿島と呼ぶらしい。だから、向島ってか。
たぶん、あれが国東半島だろうか。曇っていて、よく見えない。
薄っすら笑顔を浮かべて、俺は立っていた。
彼女は体育座りの姿勢で地べたに座り込む。どこか浮かない顔の彼女は、俺とは違う。
いつも通りの空気が読めない俺で、彼女に話しかけるか。それとも勇気を出して俺は、悩んだ顔の彼女を気遣うか。
珍しく俺は悩んだ。
すると、彼女の方が俺の顔を見上げて、困った笑顔になっていた。
「先輩、悩んだ顔しいひいんでな」
「あ、悪い。ホウセン、姫島が見えるぞ」
「海の向こうに、お婿さんは迎えに行かへんのな」
「島が動いたら不気味だろう。でも、彼だって心はきっと彼女の側にいるよ」
「うちはこの世で独りきりや。お父さんは義理やし、もうこの世にいーひん。信用できる家族がいーひん。うちの安心できる場所はあらへん」
「難しい話だな。まずホウセンの心が救われないといけない気がする」
「先輩……。あかん、話せへんみたいや」
ホウセンは錦織博士の養女だった。
それは他人から聞いていて、俺は知っていた。
琵琶湖で失踪した錦織博士は、周囲の話を聞く限り、かなり気難しい人だった。少し勉強が苦手な彼女に、関西防護大学の主席卒業を要求していた。
バディとして俺も、数か月だけど彼女のフォローはしてきたつもりだ。
関西防護高校の3年生になり、防護大へ進む道を選ぶと、バディ制度で大学1年生のサポートを受けられる。
今年、西東京の特別警務高校から伊丹の関西防護大学1年になった俺は、同期生になったナガトと1番2番を争うくらい学力に問題はなかった。
けど、高校時代の評価は、関西防護高校から直接上がったナガトの方が断然良かったと、俺は聞いている。
それを知りつつも、ホウセンは自ら俺を推薦したと、佐藤教官から笑い話にされたこともあった。
一目惚れちゃう? って、冗談だろう。