表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第2章 関西海峡 沈む大阪
38/72

第11話-1 大阪から西へ

 そこは軍人、話の切り替えは早い。

 教官は咳払いをして、大事な話をする。ナガトは一瞬、目をつぶってから返事をした。


「俺は今、関西防護大学を預かる身や。福岡には一緒に行かれへん。自分らに任せることになる。たとえ何らかの罠だとしてもや」

「佐藤教官、ナガト曹長、慎んで任務をお引き受けいたします」


 佐藤教官とは、大阪でお別れだ。

 ナガトの敬礼に合わせて、俺とホウセンも敬礼をする。

 煙をあげていた車は修理が間に合わなかったので、代わりの軍用車用を佐藤教官が手配してくれた。

 律儀に見送りへ来た教官に、俺たちは笑顔で応えた。


「クモミネ、シノノメ、ニシオリ、気ぃつけいや。唐揚げが美味いかどうか、分からんくなったらあかんで」

「はは、また飯食わしてくださいよ」


 俺は口にしたほど冗談でなく、本気でまた佐藤教官が作った唐揚げが食いたい。

 乗車する俺たち、後ろで佐藤教官が寂しそうに手を振っている。

 ナガトが黒いサングラスをかけて、軍用車用のエンジンをかけた。

 俺は日本刀を抱えて席に座り、車の進む動きに身体をゆだねた。ホウセンが隣に座り、そわそわと両手をこすり合わせている。

 被災地になってしまった大阪を離れる。

 軍の任務とはいえ、被災地の支援を中途半端にしていく。ふいに俺の頭の中で、大阪で被災者と明かした夜の思い出が蘇る。

 その寂しさで心が満たされないように、俺は意識を西へ向けることにした。


 アメリカンな街並みを車が走る。

 第2コザ市と揶揄される広島だ。この港町にある在日アメリカ軍の基地に、ナガトは立ち寄ってくれた。


「イツキ、広島基地に寄るわよ」

「流石、ナガトは気が利く。そういえば野暮用があった。2人ともちょっと付き合ってくれ」


 黒サングラスの向こうで、俺の心は読まれていた。

 個人的な用事に、ナガトとホウセンを付き合わせることになる。

 ナガトがクモミネ大将の息子で、俺がその甥であると、無茶苦茶な英語で捲し立てる、と在駐アメリカ兵は戸惑いながらも俺の要件を聞き入れてくれた。

 雲峰大将(サークラウド)の権限は、今の日本がこんな状態でも、アメリカが無碍にしない程度あるようだ。


「イツキ、待たせたね。キール・トッシュという軍人は駐日軍にいないようだ。お役に立てず、すまないね。サークラウドによろしく頼むよ」

「そうですか……、ありがとう。大将に伝えておきますね」


 情報をくれたアメリカ兵と俺は握手を交わす。

 ただ、探し人のキール・トッシュは、在日米軍には所属していなかった。

 心のしこりは取れた。キールの奴、この世界のどこかにいるのか、もしくはいないのか。

 広島湾から見える空を眺めていた。

 俺の悩ましい表情を見て、ホウセンが励ます。


「先輩って英語話せるんやな」

「あぁ、中華語も合わせて、3か国語は話せるな」

「さっすが、うちの先輩や。で、キールって誰や?」

「あぁ、キールは行方不明の……友達かな。在日アメリカ軍に、彼はなかったみたいだ」

「また会えるとええなぁ」

「この空はつながっているからな。また会えるさ」


 和中5年7月末、相変わらず曇り空だけど、広島の海は凪いでいる。

 とても穏やかな景色だった。

 俺の心の荒みようからすると、今の時間は平和すぎる。だから、まだ序の口だと言っているような気もした。


 ややあって、ナガトは西へ向けて車を出す。

 俺たちは、山口の防府基地まで来た。ここは航空自衛軍の基地だけど、陸上自衛軍の臨時本営がある高崎と連絡を取ってくれた。

 ここで叔父さんを待つために、2週間以上、俺たちは待機となった。

 和中5年8月を迎えていた。

 忙しい叔父さんは、まだ現れない。新兵である俺たちの不安は募るばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ