表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第2章 関西海峡 沈む大阪
37/72

第10話-3 大阪、後日談

 救護テントがあった医療検査場には、佐藤教官の姿は見当たらなかった。

 俺の同期の衛生兵にも、佐藤教官を見たか聞いたけど、今朝は見かけていないとのことだった。

 まさかと思い、大学の講義棟の中にある教官室へ行く。

 ここで正解。

 暗号文を解読する教官と、それを見守るホウセンがいた。

 教官は少し疲れた笑顔で、俺たちを手招きした。

 この手の秘密暗号文には口外に関する軍紀があるだろう、とナガトは深読みして黙る。

 だけど、俺は興味本位で尋ねた。当然、ナガトは渋い顔をした。

 人たらしの教官は、そこまで細かく気にしないタイプだ。


「佐藤教官、おはようございます。ずいぶんとレトロな暗号通信ですね」

「おはようさん。せやねん。本営さんが俺宛に暗号文を寄越してん。」

「何が書いてあったんですか」


 ミズキに言われて、俺は薄々と感じていた。次の派兵先だろう。

それで正解だった。

 簡単に言うと、福岡に入った鹿島首相の警護をする任務だった。

 ナガトは意味が分かったらしい。ただ、その意味を深く考えるために黙った。

 俺はナガトの肘を小突いた。

 察しの良い情報屋さんに黙られると、俺には真意が分からない。その理由が曖昧でも、ナガトの直感が正しいことは多い。

 佐藤教官に目配せをしてから、覚悟を決めて彼は重い口を開く。彼は根っからの軍人気質で、発言の順番など上下関係を大事にする。


「胡散臭いのよ。私たち見習いとは言え、軍が日本国内で要人警護をするのは過剰な任務じゃないかしら」

「あー、言われるとそうだなー。戦場でもないし、警察の案件のような気がするなー」

「適材適所、職務越権を起こさないって暗黙のルールよ」

「でも、俺たちの班に本営からの任務命令なんだよな」

「それもおかしいでしょう。例えば、特殊作戦群までとはいかないでも、場数を踏んだ軍人に頼るでしょう」


 拾った情報を冷静に分析しているナガトは、流石、雲峰大将の息子だ。

 一方で、危ない橋と分かっても突き進むのは、東雲一族の俺が持つ悪癖だ。

 運命に試されている、と俺の勘が言うんだ。何だか、心が燃えてくるようだ。

 それに叔父さんだって、本当に危険があれば、瞬間移動して止めに来るだろうさ。


「ふーん、そうかな。何か理由があって俺たちの方が役立てるのかも。ナガトは、親父さんを信用できないのか」

「そんなことないわよ! お父さんがいないと日本はとっくの昔にペッタンコよ!」

「俺も叔父さんを信用している。それに必要あれば、俺の目の前に現れるだろうさ」

「はぁ、罠と分かって進むのも、私たち軍人には貴重な経験ってことね。……で、どうしてホウセンの目は動揺しているのかしら」


 ん、ホウセンの動揺って。ナガトは視野が広い。

 おかしな軍令で佐藤班が紛糾しているのに、さっきからホウセンは黙り込んでいた。

 一番、茶々を入れそうなのにな。今朝の彼女は不思議なほど静かだ。

 彼女の黄色い瞳の奥を覗き込んだ。その心を読んだナガトは、急に真っ赤な顔になった。

 俺は何か分かったのか、とナガトに聞いた。


「何か分かったのか?」

「うーん、分からない。もーう、分からないってことにしたいの!」

「もう少し、俺が分かる日本語にしてくれないか」

「乙女心は読んでも言わないの! イツキは鈍感なんだから!」


 朝から密かな思慕をして呆けていただけ。

 で、誰に? 鈍感な俺は困った顔だ。

 ナガトの反応に気づき、今度はホウセンも真っ赤な顔になる。

 お花畑。真っ赤な顔が2輪だ。

 ここで察した佐藤教官が無言で、俺の頭を引っぱたいた。

 佐藤班で、俺だけ空気読めていないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ