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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第2章 関西海峡 沈む大阪
35/72

第10話-1 大阪、後日談

 ややあって。

 約1日間で、いつも俺が帰る場所はなくなっていた。それが大災害の後だ。

 俺たちを乗せた船は、伊丹の端に仮設した港へ到着した。関西防護大敷地内に、仮設で大規模な医療検査場が出来ている。

 怪我人の手当がメインだが、ここで息を引き取った遺体も見られた。

 やはり俺の救えた命は多くない。やるせない気持ちになる。

 そんな俺とホウセンの姿に気づいて、泣きそうな顔のナガトが駆け寄ってきた。


「イツキ! ホウセン!」

「ナガモン!」

「あ、ナガ……」


 俺は軽く手をあげたつもりが、急に立ち眩みがした。

 ホウセンとナガトが叫ぶ声がして、すぐに俺の視界が真っ黒になる。


「うわ、先輩! ナガモン、どないしょ!」

「落ち着いて! 救護テントに運びましょう!」


 情けないことに、俺は失神したようだ。

 2人によって、救護テントへ俺は運ばれたらしい。

 完全に体はオーバーワーク。

 そこに心労がどっと来て、俺はまた倒れてしまった。

 さきほどの自信は、ただの慢心だった。

 覚醒能力をまだ完全に、俺は使いこなせていなかったんだ。


 不思議な話だけど、関西地方ではクリーチャーウイルス災害が併発しなかった。

 クリーチャーらしき化け物は、あの巨大亀みたいな化け物だけだった。


―――


 目が覚めると、当然、和中5年7月23日の朝だった。

 何でもない朝ほど、ネガティブな気持ちがひどくなる。

 前日の夜から休んでいた脳が、大量の情報処理結果をぶっきらぼうな感じで、翌日の朝に俺へ突きつけるからかもしれない。

 あぁ、大阪が水没したんだ。夜明けを迎えられなかった人も多くいただろう。

 救護ベッドの上で、俺は横になっていた。灰瞳の目から頬に涙が伝った。

 不意に、十字架のミズキが語りかけてきた。

 天井を見つめるのが精一杯の俺は、曖昧に笑うことしかできない。のどに言葉が詰まるんだ。それでも詰まりながら言葉を口の外へ出す。


『本気でためらわなくなったとき、イツキは死んじゃうかもね』

「……はは、慰めてくれないのかよ」

『イツキは覚醒者だけど、元々はクリーチャーウイルスの感染者でもある。良かったじゃん、楽に死ねないね』

「ひどい奴」

『京阪神と福井で発生した災害では、被災者でクリーチャーウイルスに感染しても発症しなかった人だけみたい。だから災害関連死はあっても、二次的な感染で不幸な死に方はなかったようだよ』

「……?」


 俺に辛辣な言葉をかけながら、急にミズキは本題を話す。

 東京とは違って、大阪ではクリーチャーウイルス関連の二次災害が全く起きていないようだ。

 でも大災害には、ウイルスをまき散らす時間の門(ポータル)がかかわっているんだろう。

 不幸中の幸いだけど、寝ぼけた俺には意味が分からなかった。


『不顕性感染という状態。言った通り、ウイルスに感染しても症状が出ないことだ』

「何年後か、いずれ発症するのか?」

『しない。そのまま、ウイルス抗体になる。大阪の人たちは、過酷な環境に上手く適合できたんだね』

「そうか。良かった」

『でも、自然界ではウイルス変異で強毒化することがあるからね。その例外だけ、頭の片隅に置いておいて』

「あぁ、知らせてくれてありがとう」


 人目を避けた夜でなく、朝にミズキが話しかけることは珍しい。

 その危険を冒してまで、心が衰弱している俺の心配を人工知能である『彼女』はしたようだ。

 マザーバイオロイドの干渉が薄くなっているから、とツンデレな『彼女』は言いかけて黙り込んだ。誰かに話を聞かれていた。

 あぁ、なるほど。白いカーテンの向こうに、黙って立つナガトの気配がする。えぇと、何でナガトだって、俺は分かったんだろう。

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