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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第2章 関西海峡 沈む大阪
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第9話-5 関西海峡 沈む大阪

 翌日の朝、念のため拝借していたSOSの発煙筒を俺は使ってみた。

 それを海軍が発見してくれた。

 海軍の救助ヘリコプターで、このビルの屋上にいた被災者全員、順番に救助されたそうだ。

 一方、俺はまた『同期開始』をした。

 銀瞳になってからも、高くなった身体能力を安定して使えるようになったかもしれない。昨日の化け物討伐で、単純な俺は自信がついた。

 俺の肩にホウセンは猫化して乗り、ヨツジ少年を俺は抱えて、3人で海上の船へ飛び降りた。

 まるで、アメコミのヒーローのような帰還だ。ストンと、無事に着地成功した。

 さすがに放心した顔で、佐藤教官が俺の顔を見ている。 

 えぇと、幽霊に見えたのだろうか。ちゃんと両足があり、俺は生きています。

『同期解除』、と。灰瞳に戻す。

 俺は敬礼をした。ホウセンも慌てて敬礼をする。ヨツジ君はしばらく俺たちの様子をうかがっていた。


「佐藤教官、東雲一稀と錦織紡千、要救助者1名と共にただいま帰還しました!」

「おぉ! シノノメ、ニシオリ、よう帰ってきた!」


 正気に戻った佐藤教官から、俺たち2人は強烈な抱擁を受けた。

 陸の熊さんは、馬鹿力すぎる。

 しばらく、教官の感動の涙は止まりそうにないな。

 少しだけ頬を赤く染めたホウセン、その黄色い瞳は空を眺めていた。

 へぇ、嫌がらないのか。

 なので、先輩の俺も無視を決め込む。

 今のうちに出来る報告をした。神戸基地のエンブレムをつけた武装服の海兵へ、淡々と俺は話す。

 そこで、やっと我に返った教官が俺たち2人を離してくれる。圧倒的解放感。


「えと、謎の水棲生物は俺が駆除しました」

「先ほど、爆ぜた死体の一部を確認しました。実弾が利かないと報告がありましたが、どうやって1人で……」

「なんか倒せちゃいました、あはは」

「はぁ……? でも、事実ですよね。陸自のシノノメさん、後で海軍宛に討伐報告書の提出をお願いしますよ」


 ヘラヘラと笑うことしか、灰瞳の俺は出来なかった。

 ちょっと頑張ったら、なんか地球を救えちゃいました、の漫画キャラクターみたいなノリだ。

 一方で、現実世界は戸惑う。

 広島の海軍特殊部隊を壊滅させた化け物を、陸軍の新兵でしかない俺が容易く駆除してしまったんだ。

 この神戸基地の海兵のように、ただ戸惑うのがふつうの反応だと思う。気持ちを切り替えた彼が操舵し、すぐに船を出す。


 化け物がいない関西の海は凪いでいる。曇り空の下、俺は物思いにふけた。

 そもそも俺自身、この覚醒能力に戸惑っているんだ。自分の手のひらを見ても、ふつうの人間にしか見えない。

 ふと、俺へ少年の声がかかる。


「お兄ちゃん、スーパーヒーローなんだね! 僕を助けてくれて、ありがとう!」

「はは、どういたしまして!」


 ヨツジくんは熱い視線を俺に向けていた。そっと頭を撫でてあげる。

 そのお礼の一言だけで俺には十分だ。

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