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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第2章 関西海峡 沈む大阪
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第9話-3 関西海峡 沈む大阪

 すると、小型船の無線機にSOS信号が入ってきた。

 その方向は、銃声の聞こえる方だ。

 すぐに気持ちを切り替えて、出発の態勢に移る。


「ちぃ、タイミング良すぎるんか! いや、悪すぎんねん!」


 佐藤教官は操舵し、ギリギリまで船のスピードを速めた。

 俺の頭の中に、ヨツジさんたちは無事に逃げられただろうか、と余計な考えが浮かぶ。

 ばら撒かれた問題点と問題点が、大阪水没の発生によって線につながっていくようだ。

 梅田のビル街が傾き、少しずつ崩れながら海へ沈んでいく。

 今なお、関西の地盤沈下は進んでいるらしい。

 俺たちの小型船からでも、半壊している大阪城が海上に浮かぶ奇妙な光景が見えてきた。

 向こうから逃げてきた救命艇がたくさん近づいてくる。次々と俺たちの船を通り過ぎて行った。

 ふだん明るい大阪人でも、悠長に景色を見ている余裕さえないんだ。

 退避していく救命艇に乗る大阪人の魂の抜けた目を見るだけで、昨日と今日では世界が違うように俺は思えた。

 ここで災害だけじゃなく、別の何か別の問題が起きているのと、呑気な俺でも分かった。


「煙が立っているのは、おそらくハルカスの方ね」

「ナガモン、この辺りどこなんやろか」

「たぶん、難波のビルから見た限り、この辺が道頓堀かしら」

「もう道頓堀に飛び込まれへんな。全面、海やもん」


 ナガトとホウセンは感情がなく、淡々と会話している。

 その傍らで俺は黙り、腕組みして突っ立っていた。

 大阪城を基点にして、沈みかけの高層ビルや建築物を目印に、俺たちの船が進む海上がどの辺か想像つく。

 さっきまで、浮かんでいる水死体の1人1人を息があるかと、俺たちは確認していた。

 だけど、もう止めた。

 海から退避していない大阪市民は、高層ビルにいる生存者たちを除くと、もういないようだ。

 水没した大阪市内は、俺たちから話す気力を奪いつつあった。

 佐藤教官でさえ、硬い表情のまま黙って船を走らせる。

 通天閣の頭が海面から出ている。向こうに見える超高層ビルは、あべのハルカスだろうか。

 突如、現実世界に出来た海が、USJの人気アトラクションよりリアリティがない。

 現実に見える景色と脳内の思い出の景色のギャップで、俺たちの精神状態は崩壊寸前だ。

 追い打ち。

 ここは、動物公園があった周辺だ。

 高速移動艇が穴だらけになって浮かんでいる。焼け焦げた血の臭いもする。

 この海上が煙で覆われて、一面が火の海になっていたんだ。

 そこで、佐藤教官が怒りの声をあげた。その独り言に、返事がある。


「SOS信号……。ミカサのアホッ! 連絡は生きとるうちに寄越せやッ!」

「ゲホッ。アホはお前だ、佐藤。俺はまだ生きている」


 白煙の中に漂う小舟が現れた。人の影が見える。

 その船上には、右腕を片方失い、口から血の筋を流すミカサ少将がいた。そして、こんなところで会いたくなかったヨツジさんと、そのお孫さんだ。

 まず俺たちは、顔面蒼白なヨツジさんたち2人を救助した。

 ミカサ少将は、俺たちの船へ移ることを横に首を振って拒否した。

 そして、荒い呼吸のまま、彼は小さく笑った。最期の伝言があったからだ。


「お前ら、俺の最期に……良いことを教えてやる。化け物はここにいるぞッ!」


 ミカサ少将は大声で叫ぶと、渾身の力で最期に立ち上がった。

 海面が動いた。現れた亀のような頭が、小舟ごとミカサ少将をかみ殺した。

 奴の真っ赤な2つ瞳が俺たちを睨む。

 ひ、琵琶湖の化け物だ! やっぱり大阪の海はリアル化け物パークじゃねぇか!

 佐藤教官と俺、ホウセン、ナガト、ヨツジさんたちを乗せた船は方向転換し、その場から全速で逃げる。


「あああ、あかんッ! 退避やッ! 退避ッ!」


 恐怖で俺たちの視野が狭まる。これ、生存本能だ。

 視界から入る情報を減らし、人間が逃げる道だけを見ることに全力を出させるんだ。

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