第8話-1 不穏な大阪帰り
あれから考え事を続けていた俺は、めっきりと口数が減っていた。
意味が分からない現象に、俺の頭がついて行っていなかったからだ。
叔父さん、世の中の流れを知り過ぎている。ホウセンに毒されたわけじゃないけど。
どうして豊川駐屯地に俺がいるって分かったんだろう。
それに、どうやって交通の便が悪い中、俺の前に現れたんだろうか。
そして、この日本刀はなぜか懐かしい感覚がする。
運命を引き寄せた結果だとしたら、俺は何か大事なことを忘れている。
愛知県内を俺たちの車は移動していた。俺の考え事の間も、当然、時間は進む。
じれったそうに、ナガトが足踏みをしている。
渋滞。
前方で被災民の車の列が止まっている。
無線機でナガトはどこかと連絡していた。その通信が終わってから、俺は彼に尋ねた。
「どうかした?」
「えぇと、関ケ原インターで軍の検問よ。まぁ、一般感覚では移動制限ね」
「何だか、デジャブする光景だ」
「ふふ。悪夢の再現かしら。イツキは最近、寝てばかりだもの」
この先、関ケ原インターに自衛軍の検問所が出来ているようだ。それで、どうやら俺たちの車両も足止めになったらしい。
ナガトは車外に降りるようだ。顔色の悪いホウセンへ声をかけた。
「関所の軍人さんがこっちに来るらしいわ。この先の道をしつこーーーーーく確認してみるわね。ホウセンも外の空気吸いに行きましょう」
「なんやねん。ほな、先輩も行こ?」
車外へ出る用事に追加した言葉は、オネエ軍人さんであるナガトなりの気配りだろう。
確かに、ホウセンの思いつめた顔は、すごく気持ち悪そうだ。俺より思いつめて困った顔をしている。
でも、独りで考え事をしたい俺にも、妹分のホウセンは声をかけた。
ナガトじゃ役不足かな。流石にちょっと……、俺の心も揺らぐ。
元々、気が強いフリをする娘だから、素が出ている彼女の状態を見ると、俺も心配になったんだ。
その直後、なぜかナガトに、俺の気持ちは見透かされた。
俺は深く考えないで、留守番を受け入れた。一瞬の違和感より、長年の信頼が勝ったからだ。
「さすがに誰かが車に残っていないといけないわ。イツキ、お願いできるかしら」
「あぁ、構わないよ」
発煙筒を持ったナガト、その後にホウセンが続く。2人が道路上に出て行って、俺は車内に1人きりになった。
なのに、知らない女性の声が、俺の近くで聞こえた。俺はスマートフォンを取り出したが、全く充電していないので黒い画面だ。
『やぁ、シノノメイツキ君』
「電話……じゃない……か」
『そういうボケはいいから。私の話を聞いてくれ。君は覚醒者であることを忘れていないか』
「覚醒者……って、なんだっけ。で、貴女はどこから話しているんだ?」
『あぁ、申し遅れたね。私はバイオロイドのミズキ。君の十字架さ』
「この十字架、スピーカーでもついているのか?」
『あぁ、もうまたボケた。関西の空気で君は変わったのかい。あぁ、面倒くさい! 強制は好きじゃないけど、同期開始!』
ミズキと名乗り出した十字架が喚いた。同時に青い光を出す。
鈍器で殴られた頭痛が俺を襲った。
痛ッ!
俺は両手で頭を押さえた。
軽い情報から重たい情報まで、一気に頭へ流れてくる。
違う世界線で、東京を走っていた俺の記憶を、今の俺はランダムに思い出した。
近未来から現れた青年軍人のキール。
同じ日に囚われた女性研究員のホウライナツキさん。
覚醒者、クリーチャーウイルスに適合して超能力を得た者。
バイオロイド、未来の人工知能。
俺の親父は研究に溺れて、クリーチャーウイルスを作ったテロリスト。
そして、叔父さんは瞬間移動できる覚醒者だったのか。
妹のユウナも、俺も、異能使いで、覚醒者なのかよ。
今ここにいる俺は、時間の門を超えて、こっちの世界に来た。
『はい、同期解除。前の世界を思い出してくれた? これから私も厄介になるよ。じゃあ、彼らが戻ってきたようだから、私はしばらく黙るね』
「あぁ、また俺は光を見失うところだった……」
一方的に、俺の記憶を書き換えて、ミズキは物言わぬ十字架に戻った。
先ほどあった俺の疑問は晴れた。




