第7話-3 富士山爆発、静岡県浜松市のはずれ
駐屯地の隊舎内で、顔色の悪いソウジ少尉と俺は鉢合わせた。
何日か前、ほぼ確定事項が書面の回覧板で、逃亡兵たちに事前通知されていた。
喧嘩会議だったらしい浜名湖サービスエリアで、ソウジ少尉が進言した被災民受け入れ態勢を関西地方に作ることだ。
このままだと予備役の全員、大阪の伊丹にある関西防護大学へ強制送還だ。何もせずに戻るのは、元学生でもちょっと気まずい。
それもあって、今後の不安を俺は口にする。少尉の目は、どこか上の空だ。
「皮肉なもんですね。関西地方での被災民受け入れを想定して、緊急で伊丹に配属転換なんて」
「イツキ君さー、それ、君ら予備役だけでやってくんない」
「はい? お言葉ですが……」
「俺はよ、目の前で死んでいく人を見るのに疲れた」
「特警高の鬼軍曹だった貴方が、どうして自分の生に執着するようになったんですか!」
「そもそも、誰かを指導するなんて、俺には向いていなかったんだよ。じゃ、俺からナガト君に権限移行しとくから、後は君らで好きにやってね」
「ソウジ教官ッ、貴方はいったい何を見て、そんな人に変わったんですかッ!」
バイバーイ、と背中越しに手を振り、振り返らずにソウジは去って行った。
怒り、失望、何とも言えない不快な感情、俺は壁をこぶしで何度も殴った。
「クソッ、クソクソクソがッ!」
俺とナガトの世代、それに下のユウナたちの世代は、西東京の特別警務高校で、当時のソウジ軍曹の指導を受けていた。
そのころの彼は明るい褐色瞳で、眼鏡はしていなかったと思う。
少し前、関東防衛大に知り合いがいるという、関西防護大の予備役の奴から話を聞いた。
俺と同じ新兵の彼曰く、だ。
数か月前に何か事件があって視力が下がったソウジさんは、教壇から現場へ唐突に復帰した。
そのときに昇進し、軍曹から少尉になったのだろう。そして悪いことに、自らの保身に走るようになってしまったらしい。
何があったってんだよ。俺は少し凹んだ壁を灰色の瞳で睨んだ。
悪いことに、今の怒声を聞かれた。俺の背後に上官らしい強烈なプレッシャーを感じた。
怒りの表情を崩さず俺は振り返る。
銀瞳の覚醒者だ。その上官の正体である叔父さんと再会した。
「また会ったな、イツキ」
「叔父さん、いえ、クモミネ大将。失礼いたしました」
「そう、かしこまるな。私は軍人であるが、家族としての対応を優先する。それでも、ソウジのように嫌なことを言うかもしれないがね」
「俺たち、伊丹の防護大に戻ることになります。でも軍人として、それでいいんですか」
「良いか悪いか、ではない。ただの運命だ。君の人生を私ごときが強要しない。ただし、運命は君に命の選択を強要する」
「ただの運命。なんて残酷な響きでしょうか」
「あぁ残酷なのが世の中だ。今、君が人生の道の困難を切り開くには、もっと力が要るだろう。君の武器、日本刀『六紋村正』だ。ぜひ使ってやってくれ」
叔父さんは俺に、どこか懐かしい感じがする日本刀を手渡した。
滞留している風を強く感じる。
俺の武器、日本刀『六紋村正』っていうのか。
ありがとうございます、と俺はお礼と共に頭を下げる。
頭をあげるまで数秒程度、もう叔父さんは目の前にいなかった。
事前通知で停滞していた内容が、正式の通知になった。
豊川駐屯地司令の権限ではなく、陸上自衛軍の大将である叔父さんの権限によって、俺とナガト、ホウセンの3人は先発として大阪の伊丹へ向かうことになった。
おっと、ナガトは軍用車両を運転できたのか。少し意外だった。
「お父さんに運転免許は取れるもの全部取れって言われていたのよぉ。ほんと、時間がなくて大変だったのよ」
「大将は世の中がこうなるって分かっとったんちゃうん?」
「あっはっはーのはー。ホウセンったら、お冗談が素敵すぎるわよー」
「あ……。ナガモン、かんにんな」
黄色い瞳が揺れるホウセンは、元気ない口調で顔を下に向けた。
黒いサングラスをかけたナガトは気にせず、俺たち3人が乗り込んだのを確認してすぐ、軍用車両の運転を始める。




