第6話-3 第1ルート終了
白い世界を、俺の魂は流されているようだ。
人間の形を失い、俺はドロドロの状態になっていた。
この世に未練が有り過ぎた。
だから、さまよう魂なのか。どうだろう。今の思いを解き放った。
それに対して、女神なのか、大人の女性の声が答える。
『どうせなら、次の世界では母さんを助けたい。ホウライさんとキールにはまた会いたいかな。その代わり、俺の能力をただの暴力だなんて言わない。俺がちゃんと能力を出せば、世界だって救えるから』
『ふん、人間風情が思いあがるなよ』
『お前が神か。俺はもう真っ黒な闇じゃない。白い世界の光だ』
『ふーん、それ意外と悪くないかも。じゃあ、私とともに地獄の世界を歩こうか。イツキ、また会おう』
また会おうって、お前は俺の叔父さんじゃないだろう。お前、誰だよ。
時間の門の先で出会った彼女の意識に、ツッコミを入れる間もなかった。
白い世界が、黒い世界に変わる。そっか、転生って呆気ないんだ。
まぶたの奥に、また違う世界があるらしい。
俺の耳から、大型車両のエンジン音が入ってくる。
またやり直そう。俺は目を開けた。
「イツキ、あんたったら、こんなところでよく寝れるわね」
「ナガト、俺って恰好いい?」
「なーにを言い出すの。この、すっとこどっこい」
「……冗談だよ」
俺は知らない装甲車両の中にいる。また軍服を着ていた。
状況判断。
どうやら陸上自衛軍の車両移動中だ。目の前の景色に、俺は少し戸惑う。
叔父さんの息子、雲峰長門がオネエ口調で小言をくれた。
軍服を着たナガトの顔を見るのは、久々じゃない気がした。
「先輩、おはようさん。少し元気出た?」
「あぁ、ホウセン。寝かせてくれてありがとう。おかげ様でな」
そして傍らに座る、ショートカット金髪、黄瞳の軍服少女が俺の目を見て笑った。
たしか、彼女は錦織紡千、俺の後輩だ。
後輩? あれ、それってどういう……。
急に記憶が襲ってきたことで、俺は頭痛が起きて両手で頭を押さえ呻いた。
「痛ぇッ」
「全然あかんやん! 先輩、うそつき! ナガモン、どないしょ!」
「はいはい、慌てないの」
和中5年6月30日。
俺たち自衛軍関西方面隊の後続は、京浜大震災が起きた関東地方の救援を断念した。
なぜなら、昨日起きた別の大災害のせいだ。
富士山の山体崩壊を伴う噴火及び東海地震の発生が起きた。
ちょうど浜名湖サービスエリアで、俺たちが車両待機をしていたときだった。
浜松市内の津波被害は深刻だったが、すでに俺たち以外の部隊が第1救援隊として現地へ入っている。
俺たちは連絡待ちだ。
そう、もっと深刻な話。
静岡市内に入った自衛軍の先発支援隊が大変な状態らしい。富士山の周囲は、一般人と兵隊問わず、全滅かもしれない。
記憶の齟齬が消えた。
ナガトに看護されて、ホウセンに見守られて、俺は横になって寝ていた。
「関西防護大学生、予備役から軍曹、それが今の俺か」
「先輩、まだしんどい?」
俺のアンニュイな雰囲気を感じて、大きい黄瞳で見つめるホウセンは心配そうに声をかけてくれた。
事実、俺は軍人になっても、また多くの命を救えないんだ。
それでも、俺は新たな記憶と、第2の世界を受け入れた。
だから、もう頭痛はない。
「何を寝ぼけている。邪魔だから、お前はまだ寝ていろ。夢と現実の区別が出来るようになってから合流しろ」
「はい、ありがとうございます」
俺の上官である曹司雄飛少尉は、眼鏡の奥に覗く闇のように黒い瞳でどこかを見つめながら、俺に冷たく言い捨てた。
その彼は、ナガトやホウセンたちを引き連れて、軍事ミーティングへ向かった。
一方で、俺は寝ているように言われた。
みんな出て行った車内では、少し広く横になれる。
夢と現実が分かっていないか。さっきのソウジ少尉は、的を射ていた。
災害発生時なのに、俺の気持ちは夢心地でフワフワとしている。
気を抜くと灰色の瞳の上からまぶたが落ちてくるんだ。
あれだけ寝ていたのに眠い。いいや、起きよう。
灰色の瞳に力を入れた。
俺は強張った身体を起こし、首にかかった紐を引っ張り上げた。
一瞬、首元が光る。あぁ、この世界でも十字架は俺の持ち物か。
1つ気になるところだけど、日本刀は手元から消えている。
あー、なるほどー。
この世界では、叔父さんにまだ会っていない。だから、武器がまだ手元にないんだ。
ただ分かるのは、この世界も終末に向かい出している。
経験がある分、俺は闇の中でも、絶対に光を見失わない。
半分、寝ぼけた俺の中で、ルート2が開始した。




