第6話-2 第1ルート終了
一方、あれほど激怒していた彼でも、俺の変わりように、恐怖を抱く度量はあるようだ。
つべこべ言わせず彼を背負い、ヘリポートへ向かって俺は疾風のように駆けた。
逃げる親父を討つ最後のチャンスかもしれない。
何だか、ためらいがなくなってから、俺の直感が働く。
スピードを殺して止まる。
靴はまた黒煙を上げていた。高速移動に耐えられず、すでに軍靴はボロボロだ。
そんなことは、今どうでもいい。
全てを終わらせるため、飛び立とうとするヘリコプターの前に立っていた。
親父である東雲波郎博士、漆黒の双眸が闇よりも深く感じる。
そこに対峙して立つ、銀瞳と橙色の瞳だ。
瀕死のキールは俺の背中から下りると銃口を俺の父、東雲博士に向けた。
「死ね」
「往生際が悪い奴らだな。その拳銃、すでに弾はなかろう」
キールの狂言はバレていた。
さっきの牛頭との戦いで拳銃の弾は撃ち尽くしていたようだ。
そこに、不意打ちだ。
東雲博士を残して、ヘリコプターが飛び立ったんだ。
俺も油断してしまい、抜刀のタイミングを失った。
騙された。
東雲博士だと俺が思ったのは、ただの銅像だった。
どういうカラクリだろうか、俺たちは幻想を見せられたようだ。
おおよそ、ヘリコプターが離陸するまでの時間稼ぎだろう。
「けっ、読まれていたか」
「……」
空から青い光の破片が降り注ぐ。
川崎第六研究所の敷地内、その異空間化が崩壊していくようだ。
ヘリコプターに飛び立たれてしまえば、俺が刀を投げようとも届く気がしない。
確実に、博士を仕留められない。それでは、殺し屋として上手くない。
三流の暗殺者にもなれなかった俺は失敗を受け入れた。
逃亡するヘリコプターは、そこに出来た穴へ上手く入り、異常空間から脱出した。
すっかり赤い瞳になったキールの諦めた声で、俺が次にやることを決めた。
「あーあ、失敗か。なぁイツキ、俺を殺してくれ」
「……わかった」
地上に残った俺は、キールが異形化していくのを介錯することにした。
俺もその後、潔く自害するつもりだ。
激しい揺れ。俺のポケットから十字架が地面に落ちる。
「今さら生きる道があるっていうのか」
そんな些細なことで、俺の思考が切り替わった。
さらに狭まった俺の視界も広がる。
先ほどまで俺たちがいた研究施設は、青い光の帯に突き刺され、白い空間に飲まれていった。
さて、目の前だ。生きるにしても、死ぬにしても、次の行動がある。
異形化したキールが赤い双眸で俺を睨む。クリーチャーとなった彼は、黒い獅子のような四足の体躯をしていた。
どうするか。俺は生きる道を全力で考え出す。
俺は切っ先を地面に向けて軽く上げ、十字架を手のうちに拾った。
考えること数秒程度だっただろう。高速移動の俺には、それで十分だ。
「ガルルルッ」
「キール、お前を殺すのは止めた。俺はお前に、もっとひどいことをしようと思う」
親父のダミーになった銅像を切り飛ばし、破片を黒獅子のキールに当てた。
怒った黒獅子は、猛然と俺に向かって走ってきた。
俺は刀をしまうとボロボロの靴底で、黒獅子を白い世界へ向けて蹴り飛ばした。
0と1になって、黒獅子クリーチャーは消えた。
「なるほど、白い背景そのものが時間の門みたいだな」
とっさに俺が考えたことだ。
時間の門に落ちれば、別世界へ渡れる可能性がある。
現にキールは、それで過去へ渡った。
この世界は崩壊していく。
でも、不思議と怖くない。死よりも生を選んだからだろうか。
青い光の帯が津波のように押し寄せてきた。
崩壊世界で、追いかけっこ。俺なら余裕で勝てるだろう。
笑い出した俺は、少年のような気持ちで駆け出して、白い世界へ向かって大ジャンプした。
0と1になって、俺の身体はこの世界から消滅した。




