第6話-1 第1ルート終了
すると突然、ユウナは悲痛に叫んだ。彼女は俺のために堪えていたのだ。
俺を見捨てて、東雲有奈は走り出した。
俺が……決めないから……ホウライさんは死んだのか……。
焦げた血の臭いが、赤い色の廊下に立ち込めている。
ホウライさん、貴女の死で、俺は目が覚めた。
あれほど恐怖があったのに、今、身体の震えが止まったんだ。
俺が殺す。もう、ためらわない。
ゆらりと立ち上がり、俺は覚醒能力を発動した。
「同期開始」
キールが向かった廊下の奥へ、風のように駆ける。
割れた窓ガラスの破片が舞い、旋風を起こす。廊下の柱がガタガタと鳴いた。
目の前に、道を塞ぐドアが見えた。
俺は抜刀した衝撃波を使い、ドアを前へ吹き飛ばして、強引に開けた。
急ブレーキ。
靴底が黒い煙をあげて、俺の両足を止めた。
黒い金属質な壁だけの長方形の広い部屋だ。
何かの実験室だろうか。
不可解な部屋に視線を奪われ、俺は油断していた。
俺の足を掴む手。
反射的に武器に頼ろうと構える。
感情がなくなっていた俺は、刀の先で切り捨てようとした。
だけど、その手の主に、気づいて止めた。
「キール、どうした」
「お前の方がどうしたんだ。人が変わっちまったな」
「あぁ、それはどうも。何か奥にいるのか」
「博士の番犬だ。俺たちは嵌められたようだぜ」
徐々に、薄い青の瞳が赤くなり出していたキールは、全身に青あざと裂傷があった。
電気膜の防御壁は、彼の全身から消えていた。
彼の防御を破壊するか、もしくは打ち消したか、とにかく敵が強すぎたのだろう。
向こうで大きな影が動く。
牛頭のような大男が現れた。確かに見た目、強そうではある。
元人間だとは思うが、東雲博士の番犬と言える。
奴はカタゴトの日本語で、俺に向かって話している。
「ナツキ、盾ニナッタ。オレモ博士ノ盾ニナル」
ナツキ。ホウライさんのことか。
俺の銀色の瞳は、床に落ちていた研究員証を見た。
京極樹。
俺でないイツキ君。あぁ、ホウライさんの彼氏か。
お前がホウライさんを守らないで、逆に、死に際の彼女に守らせようとした。
単調な怒りが沸いた。こんな奴に、あれこれ考えるのが惜しい。
ためらいなく、俺は刀を牛頭に向けて振った。
日本刀に滞留していた風の刃が、牛頭の胴体に大穴を開けた。
「お前ごときが、盾を名乗るな」
「……ッ!?」
どんなに強いフリをしようが、俺の怒りが牛頭を瞬殺した。
こいつには断末魔を許さない。地球上の酸素を1ミリも与えたくない。
化け物の身体の中から、風が吹き出し、サイコロのように肉片になって爆ぜた。
日本刀を鞘に戻す。
ここぞとばかりに、俺の変わりようを見て、キールは恨みを吐く。
助けたわけではない。だけど、言い分くらい聞いておこうか。
「さっさと助けに来てくれれば、俺はあんなものを打たなくて済んだのに……」
「ウイルス剤を自分に打ったのか」
「生きるためには、それしか選べなかった」
「キール、どうせなら博士と同士討ちしろ。俺もあいつを殺す」
「お前、本当にイツキか」
俺は冷めた目で、床に落ちていた注射器を見た。
キールの薄青の瞳が橙色になっていた。時期に感染が進むと、赤い瞳になるだろう。
それに彼の皮肉は、今に始まったわけではない。
だから、恨みを今さら言われても、すぐ俺は殺さなかった。