第4話-3 京浜大震災後、川崎へ
ウイルスが自然発生した場合、それを見た神様は差別をしない。
生きるときは生きる。死ぬときは死ぬ。それで人類皆平等だ。
じゃあ、このウイルス騒ぎはなんだ!
神様はサイコロを振らない!
胸糞悪い主観的な判断をするのは、人間の所業だからだろうがッ!
俺は、ほとんど口にしていない珈琲が入った紙コップを握りつぶした。
褐色の液体が手のうちから滴る。
震える口で叔父さんに尋ねる。
「……誰のせいでこんなことになったんですか」
「キールとユウナは、その答えを見つけるため、私の兄、君のお父さんでもある東雲波郎に会いに行くそうだ。場所は知っていると思うが、川崎第6研究所は等々力の台地にある」
親父が待つであろう、川崎第6研究所に行く。
キールがユウナと言い争っていたのは、この話か。
連れていけ。連れていかない。まるで子供みたいな口喧嘩だな。
結局、その第6研究所へ2人は向かうようだ。
キール曰く、今起きていることの一部始終を東雲波郎博士、俺の親父が知っている。
状況証拠や未来の話から、親父がクリーチャーウイルスを作ったのは、ほぼ黒だ。
親父の人類史に残る大犯罪を俺は憎んだ。
「親父がとんでもないウイルス兵器を作ったんですか」
「答えは私からは言えない。イツキが自分で確認しなさい。もし答えがいらないなら、ナガトたちの軍が待つ厚木へ行くと良い」
ずいぶんと、なつかしい名前だ。少しだけ表情が緩む。
ナガト、俺と同い年の従兄。
その雲峰長門は、叔父さんの息子さんだ。
今年の春に関西防護大学に進んでいた。
他人の心の動きに敏感なナガトなら、こんな異能者になった俺を「格好いいじゃないのぅ」と笑って流してくれるだろう。
でも、そんな優しい妄想を選べない。
地面を見るのは止めて、顔を上げた。叔父さんの銀瞳から視線は逸らさずに、灰瞳の俺は覚悟を伝える。
「叔父さん、俺は親父に会いに行きます」
「うむ」
俺も川崎第6研究所へ行くことを選んだ。
人知を超えたポータル災害はともかく、これにウイルス騒ぎで便乗したとしたら、親父は世界中で一番極悪な科学者だ。
東雲家の問題で済むうちに、親父をどうにかしないといけない。
もし仮に、世界がまともに戻るなら、俺の手が汚れても構わない。
ベンチの背に立て掛けていた日本刀を手にして、俺は立ち上がった。
その場で見送る叔父さんは「イツキ、また会おう」と、俺の背中に話しかける。
振り返らずに、俺は頷いてから前へ駆け出す。