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デイブレイクサーガ  作者: 鬼容章
第1章 ふつうの終わり 崩れる東京
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第4話-2 京浜大震災後、川崎へ 

 さっきの軍人たちが俺の顔を見ると、漫画のスーパーヒーローを見たような熱い視線を送っていた。


「軍曹、軍曹、さっきの青年じゃないっすか」

「あぁ、本物の奇跡の男だ」


 そんなことを言われても困る。貴方たちの大事な車両を破壊した男だ。

 面倒な予感がしたので、俺は返事もせず、2人から視線を逸らした。

 覚醒者にならず、クリーチャーへ向かう感染者たちを大勢見た。

 黒い血を吐く者、狂犬のような目で虚空を見つめ全身を震わす者、四肢が黒く溶けていく者。

 慌ただしく走る医療者たちによるトリアージ。

 ここでも、高崎や埼玉の医療施設で見た地獄の景色だ。感染状態の悪い人類の間引きが起きていたんだ。


 叔父さんは、ボロボロの服を忍びなく思ったらしく、軍服を俺にくれた。

 ボロ服はゴミ箱送りになった。

 不思議なことに、十字架の首飾りは切れていない。

 何かが俺を守っているのか。一瞬だけ心が温かくなる。


 俺が着替え終わるころ、キールが遅れて合流していた。

 彼はユウナと何かの言い争いになっている。


「キール、逃げたと思ったわ」

「うるせぇな。じゃあ、約束通り、研究所に行こうぜ」

「ちょっと待って。私に連れていけってこと? そんな約束はしていないから!」

「何を今さら! 俺からすると、お前の利用価値はそれしかない!」

「私を利用しようって、お前、いい度胸だな!」

「あー、ほめてくれるの? てか、お兄ちゃんを助けたら……」


 2人の会話を俺はシャットアウトした。

 ただでさえ、黒い血の臭いと殺気立った野戦病院みたいなのに、仲間が喧嘩している光景は俺の気が滅入る。

 ユウナが壁に立てかけてくれた、俺の刀をそっと手に持つ。

 2人から離れよう。刀を杖にして、俯き歩く。

 俺は線路を渡り、検疫所の近くの公園まで行った。


 さっきの通り雨は去っていた。

 その代わりに広がる曇天の空は、憂鬱な俺の心を映すようだ。

 俺は両肩を落として、公園内のベンチに座っていた。お尻が雨に濡れているのとか、そんな体裁はどうでも良かった。

 いつの間にか目の前に立っていた叔父さんが、紙コップで珈琲を俺にくれた。

 濡れたベンチにビニル袋を置き、俺の隣に座った叔父さんは、紙コップの珈琲を一口飲む。

 項垂れたままの俺に聞く。


「クリーチャーになる者と覚醒者になる者の違いは何だろうか」

「俺は無我夢中でした。キールが冗談で言ったチート能力が浮かんで、それから昔読んだ漫画のスーパーヒーローが浮かんだんです」

「それがイツキの願いだったのだろう。ふつうの人間は魂の欲に負けてクリーチャー化する」

「だから気に病むな、と言いたいんですか」

「いいや、むしろ気にしてほしい。覚醒能力の責任は常にある。私も、イツキも、ユウナも、覚醒者はみんな、得た能力に責任を持つことになる」


 俺の気持ちを察するように、叔父さんは答えの一部をくれた。

 願望が正しくて、欲望は間違っている。

 覚醒者とクリーチャーになる差だ。

 そんな主観的感覚で、人生が決まるもんかッ!

 運良く覚醒者になったのに、生き残ったことで余計に俺は空しく思った。

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