第3話-5 京浜大震災後、玉川へ
被災者の1人が橋の崩落に怯えたのか、「崩れるぞ」と大声で叫んだ。
通行順番も無視で、みんな一斉に駆け出す。
突き飛ばされ倒れる人たち。
でも、仕方ないんだ。
助け合う意志が今まで持っていたのが奇跡なんだ。
日本人とて、1人1人は弱い人間だ。
そんなの仙台を出てから、俺だって分かっているけどさ!
俺たちは、その救護に走ることになった。
車椅子が脱輪したのか、動かせないでいる夫婦が見えた。
「お兄ちゃん、あっち!」
「キール、お前もちょっと手を貸せ」
「あ、いや、俺たちも逃げなくていいの?」
「ジャンプも高速移動もしなくてもいい。だから、来い」
車椅子の状態を見て、俺は横に首を振った。
ユウナはおじいさんに話しかける。
その間に、俺はキールへ頼んだ。
キールがおばあさんを背負い、先に脱出することになった。
「キール、お前は先に行け」
「あぁ、悪いな。……イツキ、悪い電気を感じる。お前も気をつけろよ」
雨の中をキール達は走って行った。
視線を戻すと、目の前でユウナが慌てていた。
おじいさんがクリーチャー化して、ユウナを襲い出したのだ。
すでに2人は取っ組み合いになっている。
冗談きついってぇッ!
「ちょっと! このじーさん、クリーチャーじゃないの! 馬鹿力すぎ!」
「グガァァァァッ!」
俺も力づくで、おじいさんをユウナから離そうとする。
ドンッ、と爆発音が橋に響いた。「総員退避!」と、向こうから軍人が叫んでいる。
この状況で、橋を爆破する気か。
よく見たら、四方八方にクリーチャー化してきている感染者たちがいる。
ゾンビの群れの中に、俺とユウナは孤立していたのだ。
俺は首にかかった十字架を感じた。
悪いことって重なるって言うけどさッ。神様は何を考えてんだよぉッ!
雨を割いて、何かが目の前に突き刺さった。
昨日、叔父さんが俺に渡そうとした日本刀だ。
とっさに、俺は引き抜こうとした。だけど、硬く刺さり過ぎて、刀が抜けない。
思い出したユウナは、クリーチャーと化したおじいさんを蹴り飛ばし、『同期開始』と叫び腰に差した日本刀を引き抜いた。
ワラワラと寄ってくるクリーチャーたち。
ユウナは刀を構えつつも、数が多くて攻撃対象を絞り切れていない。いや、妹は俺を守ろうとして攻撃に移れないんだ。
どうして抜けないんだよッ、この刀はァッ!
「お兄ちゃん! それ早く抜いて!」
「抜けないんだよ!」
「同期開始って言うの!」
「俺は感染した覚えがない!」
「やば!」
再び、爆発音。地面が崩れ出した。
キールの言っていた悪い電気って、漏電のことか。
雨が降って暗くなったから、軍人たちが足下照らしていた照明の配線のことだな。
その配線がバチバチと鳴っているわけ。
ユウナはバランスを崩し、クリーチャーどもに囲まれてしまった。
刀を抜きたい俺も、流石にクリーチャーに勘付かれた。
爆死。感電死。崩落死。クリーチャーに襲われても死。即決できる選択肢はない。
あぁ、もう人生詰んだ!
そうだ、チート能力があれば挽回可能だ。
こんな計画。
刀を抜いた瞬間にクリーチャーを薙ぎ払い、妹のユウナを抱えて八艘跳びみたいに大ジャンプ、高速移動で橋を駆け抜ける。
SF小説の巨匠だって、人間の想像できることは、人間が必ず実現できるって言っただろうがぁッ!
「同期開始ッ!」