第3話-3 京浜大震災後、玉川へ
俺の住む仙台よりも、東京は密集した都市構造のために道が複雑だ。
高速道路や大通りに沿って行けば、通常の道なら簡単に玉川インターへ着くだろう。
周囲を観察していたユウナは、首を横に振った。彼女の目で見たところ、決して安全な道ではないと言う。
どうやら俺は京浜大震災を舐めていたらしい。たまたま駒沢のエリアが崩壊の少ないだけだったのか。
東京でも老朽化した建物の倒壊がある。その上、道にも崩壊があって、余計に狭くて歩きにくい。
ひび割れから崩落している道。もしくは俺たち3人が通り過ぎた瞬間に崩壊する道。
下ばかり見ていると、上からも落ちてくるコンクリートや鉄パイプの破片。
迂回しても、だ。
川の氾濫のせいで出来たであろう、信じられないくらい巨大な水溜まりに、フカフカした泥道に、俺たちの足は捕まる。
崩壊都市の移動は、ユウナの能力があっても選択ミスが続き、ひどい悪路に俺たちは苦しめられていた。
災害に弱い東京の密集地が、俺たちを迷路のように逃がさない。
ユウナは恨めしそうに高いビルを見上げる。
「ねぇ、キール。ちょっとジャンプして、そのビルの上からまともな道がないか見てきてよ」
「無茶苦茶じゃねぇか! 第一、俺は覚醒者じゃねぇ! ジャンプだか、高速移動だか、俺にチート能力はねぇんだよ!」
「へぇー。じゃあ、その弱っちい電気出すのは、ただの体質なんだ。使えない奴~」
「使えなくて悪かったな!」
ひと悶着。2人とも仲良くね、と今度は俺が言うべきか。
それからも何度か、2人の口喧嘩があった。
俺たちはかなり歩いたけど、先行きが怪しくなってきた。
東京の迷路はどんどん東へと俺たちを追いやる。流石に、キールは叔父さんの紙地図を見始める。
東側に少し進路がずれていることに、お喋りのキールは苛立った口調になっていた。
一方で、先導するユウナは、絶対に俺を傷つけない道を選択するだろう。
2人の考えも言い分も分かる。いつになったら南へ向かう道に出るんだ。
「ユウナちゃんよー、絶対空間認識能力さんが道の安全も分からず、ましてや東に進んでいるのを知らんぷりかい?」
「うっさいなぁ。主要な道路が使えないからよ。それに避難経路を無理やり、自衛軍の大型車両なんか走らすから、残った道がボロボロになっているの!」
「あぁ、もう! そりゃ、大将のせいだ!」
「そう! 叔父さんのせい!」
ただの文句に聞こえる。
それに、2人で叫んだところで無駄じゃないか。
うーん、困ったもんだ。
忙しいだろうけど、叔父さん、俺たちを助けに来てくれるかなぁ。
キールから片手で押し渡された紙地図を俺は両手で開く。
今、自由が丘あたりだろうか。
その2つ隣の地名は等々力というらしい。
えーと、親父の研究所の地名が等々力何たらだったような気がする。
仙台から来た土地勘のない俺も、川崎の近くを徘徊しているのは分かった。
直感だけど、俺たちは良いところまで来ている気がするんだけどなぁ。
赤い瞳のままユウナは、ぶつぶつと呟き出す。
地肌が白いので、破裂寸前の茹でトマトみたいな顔色だ。気のせいだろうけど、妹の頭から湯気が見える。
覚醒能力も限界があるのかな。
「じゃあ、自由が丘からもっと南の方に? でも、仮に瓦礫地帯を抜けても、多摩川を渡ったら、泥沼の川崎市街地じゃん。そもそも、川の氾濫で橋があるの?」
「はっはっは。さすが、私の姪っ子ユウナ。最新鋭のカーナビより正確な地図だ」
「お……叔父さん、どこから現れたんだよ!」
「んー、地球から? 叔父さんのせいだから、ごめんしに来た。許して」
「許すから助けてよ!」
「任せたまえ!」
噂をすれば、すぐに現れた。
頭を下げて、銀瞳で悪い笑みをユウナにひょっこりと向けるのは、体格の良い壮年軍人だ。
瞬間移動が出来る、陸上自衛軍大将の叔父さんだった。