表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/86

61.謎の少年

「ぼく、あまいたまごやきがいい!」

「えーっ。しょっぱいのたべたい!」

「はいはい、喧嘩しないの。どっちも作ってあげるから」


 子供たちがお城にやって来てから早三日。私はすっかり彼ら専属の料理番と化していた。ここ最近は暇な日々を送っていたので、正直めっちゃたのしい。

 ちなみに子供たちのご家族も、既に所在の確認が取れている。その多くは王都や他の領地に避難していたらしい。近々この子たちを迎えにくるそうだ。

 だけど……


「おはよう。ロンは何が食べたい?」

「えっと、あの……パンだけでいいです」


 例の少年だけは、未だに身元が分かっていない。本人も頑なに素性を明かそうとしないので、カトリーヌが頭を抱えているそうだ。

 分かっているのは、他の子供たちから「ロン」という愛称で呼ばれていること。それから、兵舎の保存食や井戸の在処を知っていたのがロンだということ。

 少年の正体も気になるけど、問題は食事を殆ど摂らないことだった。初めて出会った頃のネージュを見ているようで心配だわ。


「……また子供たちに食事を作っていたのか?」

「あ、旦那様」

「城の使用人たちに任せればいいだろうに」

「私は結構楽しいですわよ。それにほら、ネージュも」


 私の視線の先では、ネージュが子供たちと一緒に朝ごはんを食べている。出会ったばかりの子供たちと、すぐに打ち解けられるというのは、大きな長所だと思う。


「まあ、君がやりたいなら好きにするといいさ。ところで、例の少年は?」

「ええ。あそこに……あら?」


 先ほどまで座っていたところにロンがいない。食堂内を見回していると、いつの間にかシラーの背後に立っていた。


「おじさんっ」


 控えめに微笑みながら、黒衣の美丈夫を見上げるロン。シラーは真顔でビシッと凍り付いた。

 少年よ、うちの旦那はまだ二十代なのだ。

 だけどロンが一番懐いてるのって、シラーなのよね。姿を見かけるたびに、嬉しそうに駆け寄っていく。

 ちなみに他の子供たちは、シラーが少し苦手みたい。彼が食堂に入ってきた途端、ささっと隅のほうへ逃げてしまった。カトリーヌは「かっこいいねーちゃん」と人気を博しているというのに。


「僕の姉が君の身元が分からないと苦心している。兵舎の設備を熟知していたんだ。記憶喪失というわけでもないだろう。……親の名前だけでもいいから、教えてくれないだろうか?」


 シラーが穏やかな口調で尋ねる。しかしロンは一瞬泣きそうな表情をした後、無言で首を横に振った。


「……そうか。時間を取らせてすまなかった」


 シラーもこれ以上は聞こうとせず、すぐに会話を切り上げる。二人のやり取りを眺めていると、シラーに「少しいいだろうか」と声をかけられた。二人で食堂から出たところで、彼は話を切り出した。


「あの少年のことだが、このまま身元が判明しなければ養護施設に引き渡されるそうだ」


 やっぱりそうなるわよね。帰る場所が分からない以上、それも一つの選択肢かもしれない。


「ロン……もしかしたらご家族の下に帰りたくないのかもしれませんわね」


 頑なに素性を明かそうとしないのは、多分そういうことだと思う。前世の私だって両親から逃げたい一心で、上京したんだもの。

 ロンを見ていると、たまに昔の自分を思い出す。


「……だとしたら、なおさら親を探し出すべきだ。探し出して、あの子との間に何があったのかを問いたださなければならない」


 シラーはぽつりと呟いた。


「あっ! おとうさま、はっけんなの!」


 食堂の入り口からひょっこりと顔を出したネージュが、シラーをびしっと指差した。その後ろには、どこか怯えた表情の子供たちの姿もあった。


「や、やっぱりこわいよぉ……」

「『あくじきはくしゃく』はわるいひとって、ママがいってたよ!」


 とってもいい人だから、そんなに怖がらないであげて。涼しい顔をしてひそひそ話を聞いているけれど、結構気にしているっぽいから!


「だいじょーぶなの! おかあさまがおとうさまを『めっ』してくれるの!」


 待ってネージュ。その言い方だと、何だか我が家がカカア天下みたいなんだけど。


「ネージュがそういうなら……」


 納得しちゃったよ。


「……それで? 僕に何か用かな?」


 シラーは少し恥ずかしそうに聞いた。


「あのね、まてすきしだんのごはんがほしいって!」


 まてす……マティス騎士団のこと?


「ごはんとは……保存食のことか?」

「ほぞんちょ?」


 ネージュはこてんと首を傾げた。すると子供たちが口々に言い始める。


「かんづめにはいってたごはんだよ!」

「きしだんのおうちにいたときも、ロンぜんぜんごはんたべてなかったの」

「でも、いっこだけすごくおいしそうにたべてたの。あれつくって!」


 この子たちも、ロンに食欲がないことを心配していたようだ。シラーはその場にしゃがみ込み、子供たちと目線を合わせた。


「ちなみにどんな料理だ?」

「んーと……あまくてしょっぱいりんご!」

「……?」

「つぶつぶもいっぱいはいってた!」

「甘くて……しょっぱい……粒々……?」


 要領を得ない説明に、シラーは困惑の表情を浮かべる。

 ……待てよ?


「すまないが、あの保存食は君たちが食べた分で最後だ。レシピも分からないし、あれを作った料理人も……」

「……それって、分厚いベーコンが入っていなかった?」


 シラーの言葉を遮るように、私は質問した。それに対して、「うん!」と元気よく答える子供たち。ふむふむ、なるほど。


「その料理を作ったの、多分私だわ……!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ