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あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


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60.新メニュー

 必要な材料は、厨房で揃えることが出来た。不測の事態に備えて、お城では常に大量の食材を備蓄しているとのこと。それらをワゴンに載せ、相方のフライパンを伴っていざ出陣!


「ナイトレイ伯爵夫人、どうかご武運を……!」

「朗報をお待ちしております!」


 料理人たちに激励されながら、厨房を後にする。子供たちには、普段兵士や使用人が利用している食堂に集まってもらった。


「みんな、初めまして。私はアンゼリカと申します」

「ネジュなのっ!」

「チューッ!」


 ネージュとララは私のアシスタントだ。みんな、「ネズミだ!」、「ネズミさんがおててふってる!」と興味津々なご様子。よっしゃ、掴みはOK。やっぱり子供の気を引くなら、可愛い動物に限る!


「今日はみんなのために、美味しいご飯を作りにきたの!」

「「「え?」」」


 子供たちが不思議そうに銀色のワゴンへ視線を向ける。あらかじめ厨房で切っておいた野菜やお肉、殻に入ったままの卵。それから各種調味料に油。主食は焼きたてのパンと、ジャムも用意している。


「ここでおりょーりつくるの?」

「どうやって!?」

「それは見てのお楽しみ。ネージュ、お願い!」

「はいなの!」


 まずは、ネージュに手渡されたボウルに卵液、塩、砂糖を入れて混ぜ合わせる。

 そして、ここで主役のご登場。

 私がフライパンを高らかに掲げると、裏面がボッと燃え上がった。お馴染み、大気圏突入。

 突然発火したフライパンに、子供たちがざわつく。


「すごい、すごーいっ! フライパンがもえてる!」

「おねえさん、まほーがつかえるの!?」


 予想通り、いや予想以上の反応に私もテンションが上がってきた。油を引いたフライパンに、卵液を流し込む。子供たちの注目が集まる中、卵液が固まり始めたらくる、くるとフライ返しで折り畳んでいく。

 そして一口サイズに切り分け、お皿に盛ったら卵焼きの出来上がりっ!


「うわぁぁー……っ!」

「ぼく、これしってる! おうさまがだいすきなりょーりなんだよ!」


 卵焼き、この国で一番有名な料理になってない?


「はい、どーぞ!」


 ネージュがみんなにフォークを配っていく。


「あまーいっ!」

「もっとたべたいっ!」


 子供の味覚に合わせて甘めの味付けにしてよかった。爆速で卵焼きが消えていく。

 この調子で追加分を次々と焼き上げていこう。


「おみずいれが、おそらとんでるーっ!」


 協力してくれているのは、フライパンだけじゃない。水差し丸も、せっせと子供たちのグラスにジュースを注いでいる。

 ……こんなことに精霊具たちをフル活用していいのかな? そんな疑問がふっと脳裏を掠めるけれど、二人ともノリノリだからまあいいや。深いことは考えないようにしよう。


「ねえねえ、ほかのおおりょーりもたべてみたい!」

「もっちろん! ちょっと待っていてね……」


 念のために子供たちから距離を取り、赤い核をツンツンとつつく。次の瞬間、ゴォッとフライパンから火柱が立ち上がった。

 こうすることによって、表面に残った不純物だけではなく雑菌も全て焼き尽くす。洗剤いらずで便利な機能なんだけど、一歩間違えると火事に繋がりかねない大技だ。


 さて、続きましては二品目。

 下ごしらえをしておいた鶏もも肉を皮を下にして、油を引いたフライパンで焼いていく。この時、お肉に重しを載せておくと皮がパリッと仕上がるのよね。

 お肉が焼けたら、タレ作り。醤油もとい豆ソースと砂糖、それから厨房にあった料理用の白ワイン。酸味が少なめで程よい甘み。アルコール度数も低いということで、みりんの代用として少量加える。

 軽く油を拭き取ったフライパンでじっくり煮詰めていくと、懐かしのあの香り。とろみがついたところで、ソテーした鶏肉にたっぷりかけたら、鶏の照り焼きの出来上がり!

 またこうして和食を作れる日が来ようとは……。レグリス殿下には、足を向けて寝られないわ。


「なにこれおいしい!」

「パリパリーッてするよ!」


 子供たちにも大好評。お手伝いしてくれたご褒美に、ネージュもどうぞ。


「ふぁぁ……すっごくおいしいのっ!」


 こんなに喜ぶネージュを見るのは、初めて餃子を焼いた時以来かもしれない。これはもうナイトレイ伯爵家のレギュラーメニュー決定ね。

 それにしても、照り焼き大人気だな。パンの間に千切りキャベツと一緒に挟むという通な食べ方をしている子もいる。

 卵焼きと同様に、凄まじいスピードでなくなっていく。早く追加の肉を焼かねば。


「……あれ?」


 一人だけみんなの輪から外れて、椅子の上で膝を抱えている子供がいた。ネージュが「ごはん、たべよ?」と誘っても、力なく首を横に振るばかり。どこか寂しそうな表情で、パンをちびちび食べている。


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