表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/86

57.集団暴走

(※カトリーヌ視点)


 本来、領境には検問所が設置されているが、反乱の際に取り壊され、今はその残骸が残るのみだ。そのまま放置しておくわけにもいかないので、現在は王都から派遣された軍が配備についている。


「プレアディス公爵殿、ナイトレイ伯爵殿。お待ちしておりました」


 私たちが馬車から降りると、指揮官が歩み寄ってきた。その背後には、兵卒(へいそつ)がずらりと整列している。王都軍、めっちゃ強そう。うちの炎熱騎士団も、このぐらい増強出来んかな。


「領民の様子はどうだ。再び暴動が起こる兆しは?」

「それは問題ありません。マティス伯爵一家と騎士団を追い出すことが出来て、清々しているみたいですね。ただ……」


 指揮官はそこで一旦言葉を切り、東の方角へ目を向けた。


「マティス騎士団の兵舎。あの近辺に、わんさか湧き出しました」


 何が、とは聞かなくても分かる。予想通りの展開に、私は弟と目線を合わせた。

 どういった原理なのかは分からないが、多くの血が流れた場所には魔物が湧いて出てくる。それが人を襲い、時には喰らうことで、再び血が流れる。そして新たな魔物が発生する。この負のサイクルによって、彼らは無限に増殖していく。

 それを見越しての視察だ。いざとなったら、私たちが対応しなければならない。


「ククク……魔物の百匹や二百匹、私と弟で纏めて塵にしてやろう」

「「「ヒッ」」」


 何故か兵士たちが突然怯えだした。まさか魔物が現れたのか? ど、どこどこ!? まだ心の準備が出来ていないのだが!


「……姉上、顔が怖いぞ」


 シラーに指摘されて、はっと我に返る。緊張するとつい顔が強張っちゃうんだよな。だけど魔物退治なんて怖いに決まってるじゃん。お前はどうしてそんなに平静でいられるんだよ!


「た、頼もしいお言葉ありがとうございます。ですが、ご安心ください。魔物の群れは、既に我々がすべて討伐済みです!」

「そうか、ご苦労」


 よっしゃ~~~~っ!! 王国軍グッジョブ! 早く帰ろう、今すぐ帰ろう。可愛い義妹と姪、そして最愛の息子が私を待っている。


「しかし……少し困った事態になっていまして。お二人の力をお借り出来ないでしょうか」

「どういうことだ」


 私が促すと、指揮官は渋い表情で続きを語った。


「兵舎の中に逃げ込んだ領民たちがバリケードを作って、魔物の侵入を防いでいたらしいのですがね。どうも内側から出られなくなってしまったそうなんですよ」



 マティス伯爵領は、エクラタン王国でも有数の広さを誇る領地だ。葡萄の栽培が盛んで、上質なワインの生産地でもあった。他にも様々な作物を産出し、他国からの評価も高かった。

 しかし反乱の時に多くの家屋や田畑が焼き払われ、今は荒れ果てた大地が広がるばかりだ。復興には、途方もない時間を要するだろう。


 ずっと外の景色を眺めていると、気が滅入ってしまう。私は向かい側に座っている弟に目を向けた。

 シラーは瞼を閉じながら、腕を組んでいた。腕をつついてみるが、反応がない。随分と深く寝入っているようだ。

 お互い領主としての仕事に加え、こういった面倒事も任されてクタクタだ。兵舎に到着するまで、私も一眠りしよう。


「う……っ、あぁ……」


 瞼を下ろそうとしたところで、小さな呻き声が聞こえてきた。


「ぐっ、うぅ……うぅぅ……っ!」


 瞼を固く閉じ、苦しそうにかぶりを振っている。そしてある人物の名を口にした。


「やめて、くれ……ジョアン、ナ……」

「シラー! 起きろ!」


 私が肩を強く揺さぶると、シラーは驚いたように瞼を開いた。呼吸を乱しながら、私を真っ直ぐ見詰めている。


「……魘されていたぞ。大丈夫か?」

「あ、ああ……起こしてくれてありがとう姉上」


 まだ意識が混濁しているのか、珍しく素直に礼を言われた。

 車内を仄暗い沈黙が包み込む。窓の向こうに広がる荒野を眺めながら、私はかつての義妹の顔を思い浮かべていた。

 とある伯爵家の娘だった。親同士が決めた婚約で、あまり乗り気ではないシラーとは対照的に、「憧れのシラー様と結婚なんて!」とはしゃいでいた。


 結婚してからはいつもシラーにべったりで、夫人同士のお茶会では自慢話をして他の夫人たちの反感を買っていたと聞く。

 周囲に妬まれようが、ジョアンナは気にしていなかった。シラーに愛され、可愛い我が子たちに囲まれる未来を夢見ていた。

 自分が子供を産めない身体だと知る時までは。

 

       ◆◇◆◇◆


 数時間ほどでマティス騎士団の兵舎へ到着した。

 そして指揮官の言っていた「バリケード」がどういったものなのか、一目で分かった。

 建物全体が巨大な石のドームで覆われている。


「……これは魔法によるものか?」


 試しに石の表面を叩いてみると、コン、コンと軽い音が返ってきた。


「姉上、壊せそうか?」

「音を聞く限りでは、強度はさほどなさそうだ。この程度なら、私一人で何とかなる」


 ドームから距離を取り、私はゆっくりと瞼を閉じた。体内を巡る魔力を右手に集束させていき、炎の槍を作り出す。

 そしてドームに目掛けて、高速で射出した。


「……何だと?」


 効果は皆無に等しかった。表面をほんの僅かに削った程度。私の炎の槍は、鉄だろうと鋼だろうと貫くというのに……


「私はもうオワリーヌ」

「こんなところで膝を抱えないでくれ姉上」


 後ろから優しく肩を叩かれた。慰めなんざいらないんだよ、弟。


「恐らく魔力で石の表面をコーティングして、耐久性を高めているんだ。そう簡単に壊せるものじゃない」


 そう言いながら、シラーは側に落ちていた木の枝を拾って、地面に大きな円を描いた。その中にも、何やら描き込んでいく。え、こいつ何やってんの?


「何を描いている。こんな時に遊んでいるのか?」

「遊んではいない。陣を作っているんだ」


 大きい丸の中に、次々と書き綴られていく謎の記号や文字。陣とやらが完成したのか、シラーは木の枝を適当な場所に投げ捨てた。

 身を屈めて円の中心に手のひらを押し当てると、陣が青白く光り始めた。

 強烈な冷気を伴った風が光の洪水から吹き上げ、瞬く間にドーム全体を氷漬けにする。そしてシラーが陣から手を離した瞬間、建物を覆い隠していた石の殻は、砂糖菓子のようにもろく砕け散った。


 そしてようやく兵舎が姿を現した。石造りの丈夫な建物だ。


「姉上、中に入ろう」


 あれほどの強力な魔法を使ったというのに、シラーに疲労の色は見られない。

 本来であれば、高位貴族であっても扱える魔法の属性は、一人一つだけ。

 しかしシラーは、多くの属性魔法を使いこなしている。そして尋常ではない魔力量。

 私はたまに弟が人間ではない、別の『何か』ではないかと思う時がある。


 舎内は不気味な静寂に包まれていた。二人で気配を殺しながら、慎重に奥へと進んでいく。こ、こえ~~っ! 私マジ暗闇苦手なんだってば!

 小さな物音が聞こえてきたのは、仮眠室の中からだった。


「私が調べる。お前は他を回れ」

「分かった」


 仮眠室を覗くと、マッチのうすぼんやりとした灯かりが見えた。ちょうど食事中なのか、微かに咀嚼音が聞こえてくる。

 私は手のひらに火の玉を出し、室内へと踏み込んだ。


「「「ギャーッ!」」」


 部屋の隅にいたのは、五、六歳の子供たちだった。身なりからして平民の子だろうか。私が近付こうとすると、何故か悲鳴を上げられてしまった。


「おまえっ、あいつらのなかまだろ! もうだまされないぞっ!」

「……あいつら?」


 ちょっと待て、まさか私が魔物に見えるのか? そりゃ弟だけじゃなく、部下からも「顔が怖い」とよく言われるけど、流石の炎熱公爵だってハートブロークンだよ!?


「……待って! この女の人、顔に火傷がある。きっとプレアディス公爵様だ!」


 一人の子供が私の前に飛び出してきた。年齢は七、八歳だろうか。大きな鳶色の瞳が、私をじっと見上げている。


「こーしゃくさま?」

「とっても強くて優しい人だよ。僕たちを助けに来てくれたんだ!」

「う、うん。ロンがそういうなら、そうだよね!」


 このロンという少年が、彼らのまとめ役なのだろう。子供たちの言葉や表情から、ロンへの強い信頼が伺える。


「姉上、他の部屋には誰もいなかっ……子供?」


 シラーは子供たちを見るなり、眉を寄せた。おいやめろ、その顔。子供たちが怖がってるぞ。


「あれは私の弟だ。心配いらないぞ」

「こーしゃくさまの、おとうと?」

「ほんとだ! どっちもかおこわい!」

「でも、かっこいーね!」


 騒ぐ子供たちを連れて仮眠室を出る。……が、一人足りない。ロンがまだ部屋に残っている。


「ロン! はやくいこーよー!」

「……僕は行かない。ここに残る」


 ロンはふるふると首を横に振った。その寂しげな姿に、子供たちは困ったように顔を見合わせる。

 するとシラーが仮眠室に戻っていき、ロンをひょいっと抱き上げた。


「あっ、あのっ、僕……!」

「君をここに置いて行くわけにはいかない」

「でも僕、何日もお風呂入ってないから汚くて……」

「そんなの気にしないよ」


 さらりと切り返し、すたすたと廊下を歩いていく。強引なやり方だが、手っ取り早い方法ではある。

私も他の子供たちを連れて、その後を追いかける。

 いくつか気になることがあるが、それを調べるのは後だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 超大型爆弾投下\(◎o◎)/
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ