51.解読
地下通路を通ってエクラタン王城に戻った私は、真っ先にシラーの客室に向かった。
数回ノックしてから部屋に入ると、カトリーヌの姿もあった。二人でチェスをしていたらしい。
「変化魔法の魔導書が見付かりましたわ」
様々な説明を省き、私は二人に本を見せた。
「君、本を間違えているぞ」
「はい?」
慌てて表紙を確認すると、『悪役王子は騎士団長に恋をする』というタイトルが目に飛び込んできた。また違う本に変わってる!
「僕は別に、君の嗜好を否定するつもりはないが……」
「突然そんなものを見せられると、コマリーヌ」
「違いますわ!」
あらぬ疑いをかけられ、私は力強く否定した。
「姿を変える本か。はた迷惑な……」
事情を聞いたシラーは、呆れたように溜め息をついた。
「問題はそれだけじゃありませんわ」
「どういうことだ?」
「その本、字が下手すぎて何て書いてあるのか全っ然読めませんの」
館内の司書たちも、お手上げ状態だった。魔力を宿した影響で、中身が大きく変質してしまった可能性もあるという。
「せっかく見付けた手掛かりですけど、諦めるしか……」
「読めるぞ」
今、なんと仰いました?
「この本に使われいるのは、残夜騎士団で使われている暗号文字だ」
ページに視線を落としながら、シラーは言葉を続ける。
「騎士団の中では機密情報を扱う際、外部に流出した事態を想定して文書を暗号化しているんだ。例えばここの文章は、『よい子のみんな! 変化魔法は正しく使ってね!』と訳することが出来る」
「ただのミミズ文字にしか見えませんわよ」
だけど、司書たちが誰も解読出来なかった理由が分かった。特定の騎士団でしか使われていない文字なら、そりゃ読めるわけがない。
「へ、変化魔法を解く方法は書いてありますの!?」
「急かすんじゃない。今調べて……このページか?」
「キターッ!」
「静かに」
私を軽くたしなめると、シラーが無言で文章を読み進める。
心なしかイケメンの表情が険しくなっていく。何だか嫌な予感がしてきた。
「……変化魔法は基本、術者以外に解くことは出来ないらしい」
まあそうなるわよね。やっぱりシャルロッテを捕獲するしかないのかしら。
「だが、ある精霊具を使えば、或いは……とも記されている」
「精霊具?」
その言葉にカトリーヌが反応する。シラーは頷き、本の内容を読み上げた。
「変化魔法のみならず、あらゆる魔法を消し去る闇の魔力を秘めているらしい。普段は能力の大半を失っており、全ての光が閉ざされし時、真の力を発揮するそうだが……」
中二要素満載の説明文だな。
「そんな精霊具、聞いたことがないな」
カトリーヌは腕を組んで瞼を閉じた、眉間に皺が寄っている。
「……お城に保管されているということは?」
「それはない」
私の問いに、シラーは短く言い切った。
「以前、王家の宝物庫に入ったことがあるが、それらしきものはなかった」
「忍び込んだ、の間違いだろう。愚弟め」
カトリーヌがジト目でシラーを睨む。忍び込んだとは?
「……話を続けよう」
シラーは小さく咳払いをした。
「この精霊具に宿る精霊に関する記述もある。黒雲のような形状をしていて、常に眠り続けているそうだ。精霊集会も遅刻してばかりで、罰としてある物品に封じ込められてしまったらしい」
「それって罰になってますの?」
寝てばかりの遅刻常習犯に、寝床を提供してどうする。
結局、その他にララたちを元に戻す手がかりは見付からなかった。でも精霊具の存在が分かっただけでも、大きな収穫ってことで。
だけど、どうして騎士団の暗号文字が使われていたのだろう? 謎が一つ増えてしまった。




