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あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


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書籍版発売記念SS・ネージュのお悩み(前)

本編に割り込む形になりますが、書籍版発売記念のSSでございます!

 その日、ナイトレイ伯爵家に激震が走った。


「もういらないの……」


 ネージュが静かにフォークを平皿の上に置く。それを見た私は、「えっ」と目を丸くした。

 今晩の夕食のメニューはパンにスープ、そして三種の餃子セットだった。私が初めて作ってあげた料理ということもあり、餃子はネージュの大好物。

 今日も挽き肉と野菜、ポテトサラダ、シナモンアップルとお馴染みの味を用意していたのだけど……一個食べてもうおしまいとな!?


「どうしたのネージュ?」

「えっと……もうおなかいっぱいっ」


 私が聞いても、ネージュは首をぶんぶん横に振るだけだった。

 ご飯前にララがおやつをあげちゃったのかしら。傍に控えていたララに目配せをすると、私が言おうとしていることを察したのか、「いえ!」とすぐに否定の言葉が返ってきた。


「んー……どこか具合が悪いの?」

「う、ううん。ネジュ、げんきなの!」


 両手を広げて満面の笑み。あら~可愛いと癒やされていたのも束の間。


「だから、おへやもどるのーっ!」


 自分で椅子から下りて、居間を飛び出して行っちゃった! ララが慌ててその後を追いかける。

 私も追いかけようとするが、他のメイドに「ネージュ様は私どもにお任せを!」と止められてしまう。

 このシチュエーション、すごく覚えがある。まさか私……ループしてる!?


「いやいやいや」


 それはないわ。前世の頃にラノベを読みまくってた弊害が出てしまった。にしても、ここ最近のネージュは料理人の作ったご飯も美味しく食べていたんだけどな。

 もしかして餃子が生焼けだったとか? ポテトサラダと林檎は大丈夫だろうけれど、挽き肉はちゃんと加熱しないとかなりヤバい。

 慌ててネージュの皿に残っている餃子を味見してみる。……うん、ちゃんと火が通っている。子供用だから薄めだけど、塩胡椒でしっかり下味もつけてあり、噛み締めるごとに肉の旨みが溢れ出す。

 意外や意外、デミグラスソースとよく合う。まあ大雑把に言えば、皮で包んだハンバーグみたいな料理だもんね。細かく刻んで加えた葉野菜やキノコのおかげで、栄養も抜群。


 とまあ、普段と変わらない美味しさだ。小さな子が苦手そうなハーブも入っていない。

 やっぱり、本当にお腹がいっぱいなだけだったのかも。何か隠し事をしているように見えたし。ララ以外の使用人に、おやつをもらった可能性もある。

 まあスープだけは完食してるし、今日のところは大目に見ましょうか……



 その二日後の早朝。私は小鍋でパン粥を作っていた。というのも、ネージュが普通の料理を食べてくれないのだ。

 パンもダメ、お肉もダメ、お魚もダメ。「おなかいっぱいなの!」と言って、居間から逃走してしまう。医者に診てもらったものの、至って健康で異常なし。まるで、私がこの屋敷に来たばかりの時に戻ったみたいだわ。

 だけど以前と違うのは、じっくり煮込んで柔らかくした食べ物は、ちゃんと食べてくれる点だ。そんなわけで、具材がホロホロに崩れるまで煮込んだポトフや、煮込んだ具材を裏ごしして作ったポタージュなどを与えている。

 だけど、やっぱりそれだけだと栄養も偏ってしまう。本当に、突然どうしたのかしら。


 悶々と考えながら、パン粥の味見をする。ミルク風味のスープをたっぷり吸い込んだパンは、とってもトロトロ。これならネージュも食べてくれそう!

 レイオンのせいで極貧生活を送っていた頃は、カッチコチのパンを水でふやかして食べてたな。肉体的にも精神的にも極限まで追い詰められると、お湯を沸かす気力すら湧かなくなるのよ。いやぁ、めっちゃキツかった。

 苦い記憶を思い返していると、廊下から子供の泣き声が聞こえてきた。


「ネージュ!?」


 火を消し止め、私はすぐさま現場に急行した。

 すると、エントランスホールで火がついたように泣き叫ぶネージュの姿があった。ララが何とか泣き止ませようとしているが、効果なし。

 そしてその傍らで、黒い小箱を持ったまま立ち尽くしている旦那。


「旦那様、何がありましたの!?」

「ち、違うんだ。僕は、俺は、ただネージュに喜んでもらおうと……」


 ダメだ。ショックのあまり一人称がブレてるし、目の焦点も合っていない。

 しかも何か肌寒……アッ、床が凍ってる。愛しの娘に泣かれて、魔力を暴走させてるわ。屋敷を氷漬けにする気ですか!?

 ネージュも心配だけど、ここは……


「ララ、ネージュをお願い!」

「はい! 奥様は旦那様をお願いします!」

「ほら、詳しい話は部屋でお聞きしますから、行きますわよ!」

「そんな、そんなつもりじゃなかったんだ……」


 まったく、手のかかる……! 私は冷たくなった背中をグイグイ押しながら、シラーの執務室へ向かったのだった。

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