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4.シラーとネージュ

 こっちじゃなくて? 思わず横にいる巨漢へ目を向けると、アルセーヌが笑いを堪えながら種明かしをした。


「そちらの方は、旦那様の叔父上様です。恐らく叔父上様を旦那様と勘違いした者が妙な噂を広めたのでしょう」

「まあ、嫌がらせでわざと吹聴した可能性もあるがね。それじゃ私は、これで失礼するよ」


 ドスンドスンと地響きを立てながら、叔父上が部屋から出て行く。

 一方私は、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。だって、こんな美形が旦那様だなんて聞いてない。

 無理無理マジで無理。こんなの心臓が持たないわよー!


「初めまして、アンゼリカ嬢」

「ひゃいっ」


 声までイケメンだ。私がピシッと背筋を正していると、シラーは涼しい表情で語りかけてきた。


「今回は僕の頼みを聞いてくれてありがとう。感謝しているよ」

「いえ、感謝するのは私の方ですわ。返済を肩代わりしていただいただけではなく、私を娶ってくださるなんて……」

「では、話は以上だ。婚姻届も僕が後で提出しておく」


 はい?


「必要なものはアルセーヌかララに言ってくれ。可能な限り用意させよう」


 何か素っ気なさ過ぎません?

 訳が分からないまま執務室を後にすると、執事の口からとんでもない事実を告げられた。


「旦那様はご自分と結婚してくれる女性なら、誰でもよかったのです」

「どういうことですの?」

「その……ナイトレイ伯爵家には、当主はいかなる事情があろうとも、生涯妻を持ち続けなければいけないというしきたりがございまして。前妻様が亡くなった場合は、必ず後妻をお迎えすることになっているのです」


 私が詰め寄ると、アルセーヌは少したじろきながら答えた。

 道理で私みたいな地雷女を選ぶわけだわ……。芽生えかけた恋心も一瞬で萎えた。


「……騙すような真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」

「いいえ。あなたは何も悪くありませんわ。それに、私を救ってくださったのは確かですし……」


 ぶっちゃけこんなの政略結婚みたいなものだが、衣食住は保証される。そこが今までの男との大きな違いだ。

 使用人はみんな優しそうだし、ここは割り切るしかないよね。反乱のことはひとまず置いといて。

 自分にそう言い聞かせて自室に戻ろうとすると、アルセーヌが一通の手紙を私に差し出した。


「奥様のご令姉様からでございます。どうもお読みください」

「……お姉様から?」


 そういえば私が実家に戻った時、姿を見せなかったな。

 部屋に戻り、ペーパーナイフで封筒を開ける。

 便箋には綺麗な字体で文章が綴られていた。本人は字の読み書きが出来ないので、使用人に代筆させたものだろう。

 ララに淹れてもらった紅茶を飲みながら読んでいく。


「……は?」

「奥様?」

「はぁぁぁぁぁっ!?」

「ど、どうなさいました?」


 ララが慌てて声をかけるが、返事をするどころではない。


『親愛なる妹へ。ナイトレイ伯爵と結婚するんですってね? 姉として喜ばしく思うわ。実は私も素敵な方と婚約することになったの。お相手はマティス騎士団長のレイオン様よ! 私が祝福してあげたんだから、あなたも歓迎してちょうだいね?』


 私の姉・シャルロッテからの手紙には、そのように書かれていたのだ。



 金色の髪と青い瞳を持つシャルロッテは、とんでもない我が儘お嬢様だった。

 ドレスや宝石を買い漁り、気に入らないことがあれば使用人を容赦なく解雇させる。顔のいい男なら平民であっても屋敷へ連れ込み、相手に恋人や妻子がいれば父に頼んで別れさせることもあった。お前は昼ドラの悪女か。

 

 そして、妹である私をいつも見下していた。

 嫌みを言うのは日常茶飯事で、偶然を装って階段から突き落とそうとした時もあった。あれは流石に身の危険を感じたが、それでも両親は見て見ぬ振りをしていた。彼らは可愛い長女にとことん甘かったのだ。実際、見た目だけなら絶世の美女だし。


「……はっ! 思い出したっ!」


 私が逮捕される前日、レイオンの部屋から聞こえた女の声。


『うふふっ。レイオン様ったら甘えん坊さんですわね』


 めっちゃシャルロッテだったじゃん。あの時はテンパってたから、全然気付かなかったわ。

 前世の記憶を取り戻した以上、あんなクズ男に未練なんて一ミリもないけどショックが半端ない。


「……ララ」

「は、はい……」

「バズーカを用意出来ないかしら。今すぐ二、三発ぶち込みたい方々がいらっしゃるの」

「バズーカ……でございますか?」


 突然のオーダーにララが首を傾げている。重火器が発展していない世界なんだっけ。ちっ、命拾いしたな姉と元彼め。

 気晴らしに散歩でもしよう。戸惑い気味のララを連れて、庭園へ来てみた。

 本当に綺麗な場所だわ。それに風に乗って、お花のいい香りが流れてくる。

 荒んだ心が癒やされていく……。

 ん? 小さいのがこちらに向かってとてとてと歩いてくる。

 それは私の目の前でピタリと立ち止まった。


「……おねぇちゃん、だぁれ?」


 謎の幼児が、大きな目で私を見上げてくる。

 宝石を鏤めたバレッタで纏めた艶のある黒髪。暖かな印象を与える琥珀色の瞳。ちょこんとした唇は、愛らしいチェリーピンクに色づいている。少し痩せ気味だけど、とっても可愛い。

 だけど、目の形が何となくあの男に似ているような。

 ということは、この子はまさか。


「ああっ! ネージュ様、こんなところにいらっしゃったのですね」


 年配のメイドがパタパタと走ってきた。やっぱりこの子がネージュ君か!

 すごく可愛い、ものすごく可愛い。こんな無邪気な子が将来、国家滅亡を企むとか切な過ぎる。だってネージュって、個別ルート以外だと必ず死んじゃうし。

 そんな悲劇の美少年が、私の息子とは……


「……んん?」

「どうなさいました?」

「いえ、この子……」


 何でドレスを着ているの? いや、すんごい似合うけど。

 混乱していると、ララが本日最大の爆弾を投下した。


「この子は旦那様のご息女のネージュ様でございます」


 お、女の子だーっ!!

 そういえばネージュの声優さんって女性だったわ! 夏の海水浴イベントでも一人だけ肌の露出がなかったし、男装の麗人だったのか……!


「ネージュ……」

「……アンゼリカ様?」


 頼る大人や帰る場所を失い、男として生きる道を選んだネージュ。それがどれだけ苦しかったのか、私には計り知れない。

 だけど、私の境遇に少し似ていると思った。孤独感を抱えながら、最後はあっけなく死んだ。この子にはそんな惨めな最期を迎えて欲しくない。

 この子は、私が守ってみせる。ヒロインが現れるのなんて待っていられるか。

 そのためにも、弱くてうじうじしている私はもう卒業よ!


「こちらの方は、本日からネージュ様の母君となられるアンゼリカ様ですよ」

「おかあさま……?」


 ララの説明を聞き、ネージュがこてんと首を傾げる。そして目を輝かせながら、私に抱きついてきた。


「ネジュにもおかあさまができたのーっ!」


 可愛過ぎる……っ。私はその小さな背中に両手を回して、幼い娘をぎゅーっと抱き締めた。


 ……あれ? でもこの子、自分を産んだお母さんのことを覚えていないの?

 しかもネージュは、大きな問題を抱えていた。





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