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あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


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24/86

24.食い尽くし男

「大体、好きなものを好きなだけ食べて何が悪いんだ。これはそういう形式の食事だろう?」


 尊大な口調で続けるレイオンの小皿には、山のように料理が盛られていた。

 ローストビーフ、チキンソテー、豚肉のトマト煮込み……肉ばっかだな!!


「ですが先ほども申し上げたように、他のお客様のためにもお料理はもう少々綺麗に取り分けていただきたいのです」

「私の取り方が汚いと? 客人に失礼だぞ」


 右手に肉の刺さったフォーク、左手に小皿を持ったレイオンが吠える。

 卓上の大皿を見て、私は「うわっ」と声を漏らした。お肉は既に刈り尽くされた後で、付け合わせの野菜だけが残されている。それもぐっちゃぐちゃに荒らされていて、クロスの上にも散らばっていた。

 レイオンを諫めようとして返り討ちに遭った使用人は、「申し訳ございません」と頭を下げていた。相手は王都を守る騎士団のトップ。強くは出られないのだろう。

 というより、シャルロッテは? 姉の姿を探していると、叔父様に「そろそろ会場に戻ろうか」と提案された。


「……そうですわね。向こうで旦那様たちをお待ちしましょう」


 他人の振りを決め込んで、部屋から出て行こうとする。


「文句があるなら、私を呼んだ陛下にでも……」


 レイオンの文句がピタリと止んだのが、背中越しに分かった。それでも様子を確認せず、会場に戻ったところで後ろから腕を掴まれた。


「お前……アンゼリカか!?」


 振り返ると、レイオンが驚いた表情で私の顔を覗き込んでくる。酒臭っ! と、私は軽く仰け反った。


「やっぱりそうだ……どうしてお前がこんなところにいるんだよ!?」


 レイオンが先ほどの私と同じ疑問をぶつけてきた。


「……あなたと同じように、陛下からご招待いただきました。それより、早くお離しください」

「何だよ、元恋人に向かって随分と冷たいな……お前、そんな女だったか?」


 レイオンが愛想笑いを浮かべて問いかける。よく見ると、左手には小皿を持ったままだった。


「君、会場に料理の持ち込みは禁止だよ」


 叔父様が呆れた様子でたしなめる。レイオンも叔父様に気付いて、眉を顰めた。けれど、すぐに口角を吊り上げる。


「ああ……あなたがあの伯爵様か。書面のみでのやり取りだったから、こうしてお会いするのは初めてですね」

「うん?」

「初めまして、私はマティス騎士団の団長を務めるレイオンと申します。そしてアンゼリカとは、かつて恋仲にありました」


 恋仲、という部分を強調させてレイオンは自己紹介をした。何でそこをアピールするのかと疑問に思い、すぐに気付く。

 この男、叔父様をシラーだと勘違いしてる!


「ああ……君の噂はよく聞いているよ」


 そして叔父様は『伯爵』としか呼ばれていないからか、勘違いに気付いていない。


「ですが、驚きました。まさかアンゼリカがこんなに美しくなっているとは……」


 レイオンが舐め回すような目で私を見る。私は無理矢理手を振り払って、叔父様の後ろに隠れた。


「素っ気ないな。お前にいい話があるっていうのに」

「……何ですの?」


 叔父様の陰からそっと顔を出すと、レイオンはふふんっと鼻を鳴らして言った。


「お前さ、うちの兵舎に戻らないか?」

「…………は?」

「お前だって何か事情があって、あんなことをしたんだろ? それなのに、ろくに理由も聞かずにお前を追い出して、本当に悪かったよ。だからもう一度お前を雇おうと思うんだ」

「いえいえいえ、寝言は寝てから仰ってくださいませ!」


 突っ込みどころが多すぎて、何から指摘すればいいか分からん!


「公衆の面前で既婚女性に復縁を申し込む男なんて、初めて見たな……」


 叔父様も呆れを通り越して、感心している様子だった。するとレイオンが叔父様を睨み付ける。


「噂を聞きましたよ。あなたは、相変わらず邸宅に年若い女性を数多く連れ込んでいるそうじゃありませんか!」

「ん? うちを訪ねてくるのは、大抵僕より年上の男性なんだが」

「なっ……そんな性癖を持つ方に、彼女は任せられません! 俺の下に戻って来い、アンゼリカ!」


 両腕を広げて私に呼び掛けるレイオンに、じわじわと怒りが込み上げてくる。


「嫌ですわ」


 私がはっきりと拒絶すると、レイオンは「え?」と目を丸くした。まさか私が断るとは思っていなかったのか……。


「私は今、とっても幸せですの。またあなたに虐げられるだけの日々に戻るつもりはありませんわ」

「おまっ……貴族と結婚したからっていい気になるなよ! お前は黙って俺の飯でも作ってりゃいいんだ!」


 レイオンは完全に冷静さを失っていた。

 そして、最悪の一言を口走ろうとする。


「どうせ、お前は嘘つきの横領犯──」

「ほお。私の妻を犯罪者呼ばわりするつもりか?」


 背後からの声が、レイオンの言葉を遮る。同時に、誰かが私の肩に手を置いた。


「だ、旦那さ……」

「それに、横領事件の真犯人たちなら逮捕されたよ。先ほど王都から報せが届いた」


 シラーの発言で、パーティー会場にどよめきが起こった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 叔父様がのほほんとしてるようでいてアンゼリカをしっかり守ってるので安心してます。 [気になる点] レイオンがどクズ野郎すぎてギギギ…ってなってます。 いずれ我が身を振り返る時が来るんだろう…
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