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あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


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23/83

23.素敵なボディーガード?

「ん? ああ、あの二人か……」


 私の視線を目で追ったシラーが、わざとらしく肩を竦める。


「マティス騎士団の団長と、その婚約者だ。パーティーに参加していてもおかしくないさ」

「私、壁際に行ってますわ。見付かったら何を言われるか分かりませんもの……!」


 私は、シラーの背中にさっと身を隠れた。

 無神経な元カレと、私を虐めることが大好きな姉。もう最悪過ぎる組み合わせだ。


「確か婚約者は君の姉だったか。……だが、彼らも場の空気を乱すようなことはしないだろう。コソコソしていると、かえって君のほうが悪目立ちするぞ」

「まあ、それはそうですけれど……」


 レイオンとシャルロッテの周囲には、人だかりが出来ている。確か来月、婚姻を結ぶのだと新聞に載っていたような。

 王族が主催する夜会に招待されるなんて、やっぱり騎士団長って偉いのね。……待てよ。レイオンがいるということは──、


「お前たちも来ていたのか」


 その声に振り返ると、赤いドレスを纏ったカトリーヌがこちらへ近付いてくる。その姿を見て、私は反射的に背筋を伸ばした。


「お、お久しぶりでございます、カトリーヌ様っ!」

「アンゼリカ……」


 カトリーヌがじっと私を見詰めてくる。


「カワイーヌ」

「はい?」

「何でもない。忘れろ」


 今、この人「カワイーヌ」って言わなかった? 幻聴かしら……。


「シラー、少しいいだろうか。例の件で話がある」

「分かった。……彼女は」


 シラーがちらりと私を見る。


「私のことでしたら、どうぞお構いなく」

「しかし……」

「もしレイオン様たちに見付かっても、旦那様の仰る通り堂々としていますわ」


 胸に手を当てて言うと、シラーは渋々といった様子で頷いた。「さっき、あんなことを言わなきゃよかった」という顔だ。


「心配するな。アンゼリカの護衛なら連れてきている」


 カトリーヌはそう言って、後方に目を向けた。

 ドスン……ドスン……。

 地響きを立てながら、ソレが一歩一歩こちらへ向かってくる。


「ウヒヒ……久しぶりだな、アンゼリカ夫人」


 あなたはガマガエル……じゃなくて、シラーの叔父様!

 ちょい待ち、護衛ってこの人なの!?


「よし、叔父上がいるなら安心だな」

「アンゼリカ、叔父上の傍から離れるでないぞ」


 私が目を白黒させている間に、この場から離れていく姉弟。

 傍から離れるなって言われましても……

 口をパクパクさせながら、恐る恐る隣を見る。


「二人が戻ってくるまで、君は私が守るよ。安心したまえ」


 叔父様はニタァ……と不気味な笑みを浮かべて言った。

 ヘルプミー、ネージュ! 私は心の中で娘に助けを求めた。

 会場では燕尾服の男がグラスにワインを注ぎ、ゲストに配っていた。私たちもそれを受け取る。


「フヒッ、乾杯」

「か、かんぱーい……」


 叔父様とグラスを目の高さまで上げて、口をつける。

 …………きっと高級なワインなんだろうけど、私の口にはちょっと合わないな。渋みがキツい。

 どうにか笑顔を取り繕っていると、ふいに叔父様が話しかけてきた。


「隣の部屋には、軽食やジュースが用意されているよ。行ってみようか」

「ええ、是非!」


 お口直しが出来るチャンス。ウキウキしながら別室へ向かうと、クロスが敷かれた円卓のテーブルにごちそうが並べられていた。立食形式になっていて、各自料理を小皿に取り分けている。

 アップルジュースで喉を潤した後、せっかくなので私も食事をすることにした。

 と、叔父様が私のバッグに視線を落とす。


「ずっと持ち歩くのは大変だろう。私が持ってあげようか?」

「いえ、自分で持てますわ。お気遣い感謝いたします」


 私はその申し出をやんわりと断った。心なしか、いつもよりもフライパンが軽く感じるのだ。


「それなら、私が代わりに料理を取り分けるよ。食べたいものを言いなさい」

「では……お言葉に甘えさせていただきますわ」


 王族の夜会だけあって、豪勢な料理ばかりだ。その中でも気になったものをチョイスしていく。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 私に小皿を手渡すと、叔父様は冷やした紅茶を飲み始めた。


「叔父様は召し上がりませんの?」

「最近は、食べ過ぎないようにしているんだ。蓄えはもう十分だからね」

「蓄え?」

「私のこれは、いざという時に君たちを守るためのものなのだよ」


 叔父様はそう言いながら、自分のお腹をポンッと叩いた。

 まさかそのビッグボディを肉壁として使う気か? いくら何でも自己犠牲が過ぎるわよ。


「ご無沙汰しておりました、プレセペ伯爵。ご壮健で何よりです」


 一人の男が叔父様に軽く頭を下げる。


「やあ。君も元気そうだね。先代はご息災かな?」

「お陰さまで、のんびりと隠居生活を送っております。そんなことよりも、そちらのお嬢様は……」


 男が値踏みするような視線を私に向ける。


「彼女はナイトレイ伯爵夫人だ」

「そ、そうでしたか。お初にお目にかかります」


 男の顔が僅かに強張った。


「くれぐれも、変な気は起こさないように。ナイトレイ伯爵とプレアディス公爵が黙ってはいないよ」

「ははは。そうでしょうな……では私は、そろそろ失礼いたします」


 最後に一礼して、そそくさとこの場から離れていく。


「彼は領地経営には長けているんだが、どうも女癖が酷くてね。ああやって釘を刺しておかないと」

「あ……ありがとうございました、叔父様」

「他にも君を見ている者がいるね。だが、私がいるから話しかけられないみたいだ……フヒヒッ」


 さっきから思っていたけど、この叔父様……ものすごくいい人なんだが!?

 ガマガエルなのは外見だけで、中身は聖人そのものだ。こうして一緒に過ごしていると、その見た目も何だか可愛く思えてくる。

 ガマガエル呼びはやめよう。ちゃんと名前で呼ぼう。でもプレセペってどこかで聞いたことが……


「おかわりが欲しい時は言ってね」


 プレセペ伯爵のありがたいお言葉に頷こうとした時だ。


「申し訳ございません。他のお客様のご迷惑となりますので……」

「私は陛下から直々に招待を受けたんだ! お前如きが指図していいと思っているのか?」


 この声は。嫌な予感がしつつ振り向くと、使用人相手に喚く元彼の姿があった。


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― 新着の感想 ―
カワイーヌやめろ( ´艸`) 変な声出たわ
[良い点] 「カワイーヌ」は笑ってしまうのですがwww カトリーヌさんの旦那さんはこのギャップにやられたのだろうか……
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