10.シャルロッテ視点①
ふふ。うふふっ。今日もいっぱいお買い物しちゃったわ。
ドレスが三着、ダイヤモンドのネックレスに、ルビーのイヤリング。
ナイトレイ領って、腕のいい職人がたくさん集まっているのよ。
買い物が楽になるし、王都に移ってくれないかしら。
陽気に鼻歌を唄いながら、マティス伯爵邸に帰る。私の婚約者レイオン様の生家よ。
マティス伯爵家は、エクラタン王国でも歴史の古い名家なんですって。
「お帰りなさいませ、シャルロッテ様」
「ただいま。レイオン様はどちらかしら?」
「クロード様とお食事中でございます」
あらあら、うちと違って仲のいい兄弟ね。
居間を見に行ってみると、美味しそうなお菓子の匂いが漂ってきた。
「兄上っ。それ、ぼくの分……」
「俺はまだ足りないんだ。だからお前の分も寄越せよ」
椅子の背にふんぞり返りながら、レイオン様が焼き菓子を頬張っている。
その横では、まだ十歳のクロード様が目を潤ませていた。お菓子を取られちゃったくらいで泣くなんて可愛いわぁ。
「レイオン様、ただいま帰りましたわ」
「ん? ああ、お帰り」
食べてる時のレイオン様って、私にも素っ気ないのよね。ベッドの中じゃ、子猫ちゃんみたいに甘えてくるくせに。
「はぁー、食った食った」
レイオン様は焼き菓子を完食すると、優雅に紅茶を飲み始めた。この頃には、クロード様は自分の部屋に戻っていた。
「美味しそうに召し上がってましたわね」
「ああ。明日には兵舎に戻らないといけないからな。その前に食い溜めをしておかないと。近頃、食堂の食事が不味くなったんだ」
不満そうにレイオン様が口を尖らせる。
料理くらいで、そんなに落ち込まなくたっていいじゃない。そう思ったけど、ここは調子を合わせることにした。
「まあ、騎士団の皆さんが可哀想ですわ」
「ったく、アンゼリカの作る飯はあんなに美味かったのに……」
はぁ? どうしてそこでアンゼリカの名前が出てくるのよ。
「嫌だわ。あんな女の名前なんて聞きたくないわ」
「何だよ、君の妹だろ?」
「大事なお金に手を付けるような女ですわよ。妹だなんて呼びたくありませんわ」
「あ、あー……そうだったな。うん、この話は終わりにしよう」
「レイオン様?」
「あいつ、ほんと地味なブスだったよなぁ!」
……今日、偶然アンゼリカと会ったことは内緒にしておきましょ。
あの女、前より美人になってたのよね。そのことをレイオン様が知ったら、連れ戻そうとするかもしれない。
「さて、食後の運動でもするか。……シャルロッテ、いいだろ?」
「勿論ですわ。私をたくさん愛してくださいまし」
アンゼリカは、ガマガエルの相手でもしてればいいのよ!