表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

後編

 それから私たちは周到に準備して、ある夜会で私はペネロペにこう切り出した。


「ペネロペ、僕は貴女と婚約破棄する!!」


 私がペネロペに向かってそういうと、彼女はまるで悲劇のヒロインになったかのようによろめいて涙を流し始めたわ。

 まぁ、とっても演技がお上手ですこと。


「アーロン様、どうして……私がなにかいたしましたでしょうか?」

「貴女は妹であるノエリアに下働き以下の生活をさせていただろう」

「そんなこと、していませんわ! 誤解です!」

「妹が失踪したというのに、探そうともしていないようだが?」

「勝手に出ていったんですもの、知りませんわ!」

「ペネロペ、貴女が『あんな女、いなくなってせいせいした』と言っていたのを、聞いていた者がいるんだよ」

「そんなの、誰が──」

「貴女の浮気相手、と言えばわかるかな?」


 そういうと、ペネロペは会場内にいた一人の男をギッと睨んだわ。あら、その人が浮気相手だったのね。


「お、俺は言ってない!!」

「あなた以外いないじゃない!!」


 これは鎌を掛けただけだったんだけど、見事に引っかかってくれたわ。

 いろいろ調べるうちに、もしかしてペネロペは浮気していたのではないかと思ったのだけど、相手が誰かまではわからなかったのよね。

 ちなみに、あんな女いなくなってせいせいしたっていう言葉を聞いたのは、彼女の家の使用人の一人。

 ノエリアにつらくあたっていたのを見て心を痛めていたみたいで、証言はばっちりなのよ。ま、幾らかはお金を掴ませたけれどね。


「王子殿下の御前だ。醜い言い争いはやめてもらおう」


 すっと一歩前に出てくれるダリオ。あーん、もうかっこいいんだから!

 っは! うっとりしている場合じゃないわ!

 私はキッと目尻を強めて、ペネロペに向かって言い放った。


「僕は家族を大切にできぬ者や、浮気をするような者と結婚する気はない。不貞など、立派な契約違反だ。この婚約は、破棄させてもらう!」

「うう……っ」


 ペネロペは悔しそうにしているけれど、自業自得だわ。

 わざわざ夜会で派手に婚約破棄したのには、もちろん意味があるの。

 どこかに駆け落ちしたアーロンとノエリアの耳に入るように、そして戻ってきてくれるように。


 その日の夜会は騒然となった分、世間を賑わして──

 そして、アーロンとノエリアが帰ってきたの!


「急にいなくなって悪かった、マリルー」

「本当だわ!」


 ぷんぷんと怒ったふりをして見せると、申し訳なさそうに眉を下げているから、許してあげるけどね?

 ペネロペとは婚約破棄できたけれど、政治的な関係でパルラモン侯爵家の娘を娶りたい我が王家は、次の婚約者にノエリアを指名した。もちろんノエリアは受け入れてくれて、幸せそうに笑っているわ。

 空気みたいな子だと思っていたけれど、なかなかどうして可愛い子じゃない! 恋のなせる力かしら?


「もう駆け落ちなんてしちゃダメよ、アーロン!」

「ノエリアがいるなら、こんなことしないよ。この国をノエリアと共に発展させていく。マリルーも、いつもの生活に戻ってくれ」

「いいえ、もどらないわ! 私は病気で隔離されていることになっているから、そのまま死んだことにでもしておいて欲しいの!」

「なにを言っているんだ、マリルー?!」


 まぁ、アーロンったら目を白黒させていて面白いわ。でも、私は本気なの! その理由は……


「アーロン様、俺はマリルー様を連れて駆け落ちしようと思っています」

「ダリオ?! お前、告白したのか!!」

「はい」


 あぁ、真っ直ぐアーロンに伝えるその横顔の精悍さったらもう、たまらないわ!


「は、はは! そうか……よく言ったな! ダリオはずっとマリルーが好きだったもんな!」


 アーロンはダリオの隣に行って、バンバンとその背中を叩き始めた。ダリオのちょっと照れ臭そうな顔。もう、うれしくてニマニマが止まりそうにないわ!


「マリルー、お前もダリオが好きだったのか?」

「ええ……私にはずっと婚約者がいたから思いを打ち明けるつもりはなかったけど、ダリオの気持ちを聞くと私も抑えられなかったの!」

「マリルー様……」


 ダリオが私の方を見て、嬉しそうに深い海色の目を細めてくれる。ああ、たまらなく甘い顔。私の心までとかされそう。


「アーロン様、俺はマリルー様に見合うだけの身分はなく、もし婚姻関係になろうものなら、貴族たちの反発は必至です。陛下もお許しにはならないでしょう。だからどうか、駆け落ちをさせてください」

「駆け落ちは大変だぞ? 僕はおすすめできない」

「アーロン様にできることなら、俺にだってできますよ」


 試すように言ったアーロンに、ダリルはニヤッと笑って言い返した。その顔、私にもして欲しいわ!


「あっはは! そうだね、僕にできるんならダリオには余裕だろう。いいよ。そもそも先に駆け落ちして迷惑をかけたのは僕の方なんだ。止める権利はないから、自由にしてくれ」


 アーロンがクックと笑っていて、私たちは顔を見合わせる。

 私は、私たちは、自由になれるのね……! 愛し合っても、かまわないのね!




 こうして私たちは、アーロンとノエリアにだけ駆け落ちすることを告げて、次の日の明け方にこっそりと城を出たの。


「見て、ダリオ。きれいな朝焼けだわ!」

「俺にはマリルー様の方が美しくて眩しいですよ」


 初めてのパンツルックで馬に二人乗りした私は、後ろから抱きしめてくれるダリオを見上げる。


「本当に? これからは着飾れることなんてなくなってしまうわ。そうなったら、あなたは他の人に目を向けてしまわない?」


 私の心にある、わずかな不安。それを伝えると、ダリオは優しい笑みのまま首を横に振った。


「絶対に俺はあなたを裏切りませんから。ずっとマリルー様にぞっこんなんですよ、俺」


 その言葉が、嬉しくってくすぐったくて、胸がきゅんってなる。


「私も絶対に裏切らないわ! ダリオのこと、大好きですもの!」


 そう伝えると、久々に女に戻った私の体をダリオは抱きしめてくれて……


「マリルー様、愛しています」


 駆け落ちを決行したその日。

 さわやかな朝の光を浴びながら、私たちは初めての唇を交わした。


お読みくださりありがとうございました。


『若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。』https://ncode.syosetu.com/n7891hn/


こちらもぜひよろしくお願いします。

下のリンクからも飛べます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

男装王子の秘密の結婚
せめて親しい人にくらい、わがまま言ってください。俺に言ってくれたなら、俺は嬉しいですよ!
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。
兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。
どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?!

赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。

最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 騎士 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑

4月放出

一人ネタから
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ