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第93話 料理コンテスト2

「グランに頼るだけじゃなくて、私達も何かしてみましょう。街のレストランに行ってコース料理を食べるのはどうかしら」


「でも、あたしお金が無くて……」


「いいわよ。一次予選を通過したお祝いで、私が奢るわ、ユイトも連れてきなさい」


 有名なお店でフルコースじゃないけど、それなりの料理を食べに行く。


「こんなお店に連れて来てくれて、ありがとうございます。メアリィさん」


「ボクも、王都の高級料理ってどんな味なのか楽しみだよ」


 出された料理は、二次予選とよく似たもので前菜からスープ、そしてメインのステーキが出てくるコース料理。


 二人は吟味しながら出された料理を食べていく。でもなんだか渋い顔をしているわ。


「どうしたの? 美味しくなかった」


「いえ、美味しいのですが、何というか……」


「そうだね。香辛料が効きすぎていて素材の味があまり感じられないね」


 私は美味しく感じるけど、確かに家でミルチナが出してくれるものとは違うわね。あの味に慣れていると、ここの料理は少し味が濃い感じがするわ。


「でもこれが王都の料理だと思うわ。最初にミルチナと会った宮殿前広場のレストランもこんな味だったわよ」


 こことは別の有名料理店で、最初ミルチナが働きたかったお店だ。


「そうですか、あのお店もここと同じでしたか」


 どうも、ミルチナ達が求める料理の味とは方向性が違うようね。


「でも、ありがとうございます。こんな立派なお店で食べさせてもらって、参考になりました」


 その後はユイトと料理の事について笑顔で話していた。少しでも参考になったのなら良かったわ。


 2日後。シンシアから今夜家に来て欲しいと言われた。グランの実家から料理人が1人来るそうで、ミルチナに料理を作って欲しいと言ってきている。


「それでね、予選に出した料理を食べたいって言っているの。ミルチナちゃん、用意できるかしら」


「はい、もちろん大丈夫です。早速準備しますね」


 ミルチナは貴族の家の料理人に、自分の料理を食べてもらえると張り切っている。今日の何でも屋の仕事は他の人にやってもらって、料理の準備をしてもらいましょう。


 昼からはユイトも加わって、次の二次予選に出す予定の料理も作ると言っている。


 夕方。料理を持ってシンシアの家に行く。


「今晩は、グラン」


「メアリィ店長、今晩は。この人が屋敷で料理を作ってくれているオーヴァンだ」


 グランの隣には鹿族で大柄の男の人が立っている。グレーの短髪で少し口ひげを生やして精悍な顔立ちだ。

白いコックコートを着て黒と紺色のストライプのエプロンを腰に巻いている。職場の厨房からそのままここに来たような感じだわ。


「あんたが、ミルチナさんかい。早速で悪いんだが料理を食べさせてくれんか」


「はい。これが予選で出した野菜スープとステーキです」


 木の板に乗せて蓋をしてまだ暖かい料理を食堂のテーブルの上に置く。オーヴァンさんは自分専用のカトラリーを持って来ているようで、薄い木の箱に納められたスプーンを取り出しスープをすくって飲む。次にナイフとフォークを取り出しステーキを1口食べる。


「なるほどな。これであれば一時予選は通過できて当たり前だな」


「あの、すみません。これは二次予選に出すつもりのステーキなんです。これも食べてもらえませんか」


 ミルチナが作った大イノシシの肉のステーキをテーブルに置く。高級料理店に卸す程の質の良い肉だ。

オーヴァンさんは何も言わず、そのステーキを1口食べた。


「この料理を考えたのは、君なのかな。それとも仲間の料理人か?」


「あの、ボク達二人で考えて味付けしました」


 ユイトが横から答える。


「予選の料理とは全然違うな。そこらにあるレストランの味だな。これだと二次予選は落ちるだろう」


 ミルチナとユイトは驚き黙ってしまう。私がどういう事かと尋ねる。


「レストランの味だとダメなんですか? 私が連れて行った有名なお店があって、それが王都の料理の味だって言ったんです」


「なるほど、その味をまねたのか」


「どれどれ、俺にも食わせてくれんか」


 グランがステーキの皿を取り食べてみる。


「なかなか美味いじゃないか。だが確かにレストランで食べている味だな。俺がいつも屋敷で食べていたのとは違うか」


「レストランの料理は客に受けようと色々と工夫をしている。流行りすたりはあるのだが、万人が好む料理で香辛料を多く使い、味を際立たせようとする」


「私がレストランに連れて行った時、この二人は素材の味があまり感じられないと言ってました」


 私が良かれと思って料理店に連れて行ったのが悪かったのだろうか。


「俺のところの料理長は、味をごまかすなと日頃よく言っている。予選で出だしと言うスープは料理長の味に似ていて俺は驚いた。ステーキも質は落ちるが上手く味を引き出している」


 あのいつも食べている料理の方がいいの?


「俺も若い頃、コンテストに何度も出た。2度一次を落ち、3度二次を落ちた。本選でも上位にはいけなかった」


 この人も苦労していたのね。


「審査員は色んなレストランの料理を食べ歩いている。ありきたりな味では点を入れない。より深みのある味か、別の角度からみた味を際立たせた物かその組み合わせ、そういった物が選ばれる。まあ、優勝もできない俺が言うのも変だがな」


「そんな事はありません。参考になりました。ありがとうございます」


「ミルチナさんだったか。あんたのような若さで一次を通過できたんだ。自信を持って自分達の料理を作るようにすればいい」


「はい、ありがとうございます」


「だが所詮、コンテストはコンテストだ。味の追及を忘れないでいてくれると嬉しい」


 そう言い残して、オーヴァンは帰って行った。でも料理って奥が深いのね。有名店の料理よりミルチナがいつも出してくれる料理の方がいいなんて。そういえばユイトの実家で食べた料理もそんな感じだったわね。


 ミルチナには二次予選も通過してもらいたいわ。お店のお仕事も融通をつけて料理に集中してもらった方がいいわね。明日シンシアとも相談してみましょう。


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