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第89話 閣議再び

 黒石島への攻撃に関する戦後処理は、首都近くの海岸と、沖合に停泊する巨大な船との中間地点に浮かぶ船の上で行われる事となった。

首相を含む政府関係者と、海洋族の艦長で話し合いを持つ。


 海洋族は艦長の地位であれば、代表として他国と協議することが可能だという。今回は国家間の戦争という形ではなく行き違いによる紛争という事にしてもらえるそうだ。海洋族側に死者が出ていないのが大きかったようだ。


 海洋族は島の港を含む地上部の原状復帰を強く望み、正式な謝罪文と損害分に加え多少の賠償金を支払う事で決着した。

島の地上部は石炭を乾かす場所であり、その本体は海中にあるそうだ。港整備と平地を作るだけなら時間をかけずに原状復帰できるだろう。



「首相。この程度で済んで良かったですね」


「こちらは多数の死傷者と海軍艦艇の大部分を失ったが、国家として存続することはできた」


 あれほどの戦力差を見せつけられ、首都上空に戦艦を沈めた爆撃機を飛ばされて、全面降伏を要求してこなかったのは幸運という他ない。




 ここは首相と主要大臣、軍部のメンバーが揃う官邸の一室。

私は海洋族との協定についての詳細な説明と共に、海軍の処分を皆に伝える。


「国家を危機に陥れた海軍の将校を全て解任する」


 海軍の再編も行わず、わずかに残った艦艇は沿岸警備任務のみを行う。事実上の海軍解体である。これには軍も抵抗を示す。


「海軍無くして、国を守る事はできませんぞ」


 それに対し私は毅然と反論する。


「モリオン国に海軍は無いのだぞ、何処と戦うと言うのだ。先日大敗した海洋族か、それともいつ来るかも分からぬ新大陸の軍か」


 過去、新大陸から侵攻して来た帝国の脅威を理由にして海軍は増強を続けた。この大陸で海軍を持つのは我が国だけだ。無用とも思えるその経費も国民の負担となっている。


「あの巨大な船を建造したのは人族の国だと言う。それがどのような国なのか我らは知らない。新大陸にどのような国があり、今の情勢がどうなっているのか知らぬのだぞ」


 大陸には脅威があると言うだけで、大陸との国交のない我が国にもたらされる情報は少ない。

どれほどの規模の海軍があれば、それらの脅威から国を守れるのか、との問いに軍は答える事はできなかった。


 大陸と交易し魔弾銃を持つモリオン国との戦力差も開くばかりではないか。


「北部、鬼人族との紛争も調停に従おうと思うが、現在の北部戦線はどうなっている」


「海軍が敗れた情報は伝わっていると思われますが、モリオン軍からの攻勢はなく静かな状態が続いております」


「今回の件を含め、我が国以外の国は何か共通の認識で動いているように思える」


 裏で繋がっていると言うのではなく、理念に基づきこの大陸全体を考えているふしがある。前回、アンデシン国から聞いた和平案の説明の際に雑談で、とある一族からこの大陸についての示唆を受けたと言っていた。あの思慮深いドリュアス族にそのように言わせる者はこの大陸にはいないだろう。


「それでは、各自仲介者からの和平案を吟味し、次回取りまとめよう」



 海洋族との件で、首相である私の責任を問う声もあったが海軍の暴走という事で今回は乗り切った。有利な条件で早期に海洋族との協定を結べたのが大きかったのだろう。


 黒石島へ復旧作業にあたる人員や物資の輸送、陸軍の停戦など、しなければならないことは山積みだ。だが前に進んでいる感じがする。いや私が決断し前に進めないといけないのだ。私がこの国の代表者なのだからな。


 その後、和平案に合意し、鬼人族との紛争も終結させることができた。これで国境が確定された。しかも確定した国境は新大陸の王国と民主連邦国を含む国際条約として締結される異例の物となっている。


 もしこの国境を武力で変更しようとするならば、新大陸を含む他国が介入するという事だ。おいそれと条約破棄などできない。



 その2か月後、新大陸の民主連邦国から貿易に関する提案が寄せられた。秘書のエルマからの報告を聞く。


「アンデシン国ではなく、わが国と直接貿易をしたいと」


「はい、南方航路が使えるようになり、貨物船での定期運航をしたいと言ってきています」


 我が国は大陸と貿易すれば、経済的に侵略されるという考えで、積極的に貿易を行ってこなかった。


「我が国が変われるチャンスかもしれんな」


 貿易は民生品のみで、軍事品は厳しく制限すると言う。早速閣議を開き意見を聞こう。


「首相、少し危険ではありませんか。商業においては手練れた民主連邦国。我らが赤字になる事は明白」


「だが、わが国には鉱物資源がある。うまく活用すれば大陸の先進技術の商品を買う事ができる」


「我らは商売に関して素人同然。貴重な鉱物を搾取される可能性がある」


 皆の言う事はもっともだ。この大陸内の他国とも商業的な繋がりはあまりない。


「だが今回、鬼人族と王国との貿易で取引している商品価格を開示してもらっている。これを元に商売を始めることができる」


 通常このような商品価格を公表するはずはないが、安心して始められるようにとの配慮だそうだ。その価格資料は緻密で月単位の価格変動、輸送コスト、船の難破で商品が届かなかった場合の保険料なども書かれている。為替も固定し政府間の合意で変動させるという。


 鬼人族との和平交渉時、今後の交易で有利に計らうと言われていたのはこのことだったのか。


 これが正しいのかは鬼人族の商人に確認しているところだが、これがあれば大陸との貿易を始めることはできるだろう。


「最初は少額でも良いと思う。まずは始めてみようではないか」


 慎重に事を進めるなければならないが、少しずつでもこの国を変えてゆきたい。


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