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第38話 観光地1

 さほど時間もかからず、観光地に到着した。ここは村人しか利用しない駐車場で周りを木の壁で囲まれた場所に何台ものエアバイクが停めてある。バイクの鍵を抜いて門の扉を開ければ、そこは人が行き交う観光地だった。


「すごい人通りね」


「ここは、メイン通りだからね。あそこの時計塔の近くに、今日泊まる旅館があるんだ。まずはそこに荷物を置きに行こうよ」


 さすが有名な観光地というだけの事はあるわね。旅行用の荷物を持った人や余所行きの服を着た人、各地から沢山の人がここに来ているのが分かる。ユイトに連れられて行った先は、白い大きな時計塔のある公園で、ここにも沢山の人達が集まっていた。


「みんなこっちだよ」


 公園の周りにある、旅館のひとつに入って行く。


「リアリスおばさん。おはようございます」


「いらっしゃい、ユイト坊ちゃん。こちらがお連れの方達だね。村長から話は聞いてるよ」


 気の良さそうな、鹿族の女将さんが、玄関まで出てきてくれた。


「部屋はまだ用意できてないんで、荷物だけ預からせてもらうよ。鐘5つ以降なら、部屋に入れるようにしておくからね」


「ありがとうございます。それまでこの辺りを観光してきますね」


 手荷物以外の荷物を預けて、人通りの多い公園に出る。ミルチナがユイトの裾をひぱって尋ねた。


「ねえ、ねえ、ユイトさん。何処から見て回ったらいいですか」


「ユイト殿。この辺りも人が多いようだ。できれば人の少ない所が良いのだが」


 そうね。私も人の少ないゆっくりできる場所がいいわね。


「それじゃ、あの高台の見晴らし台に行って、この辺りを見渡そうよ」


 ユイトが指差した所は、観光地の端で山に近い高台だった。そうね。まずこの観光地の地形を見ておいた方が良さそうね。


 観光地の端の方に行くと人も少なくなってきた。きれいな川を渡る橋を越えて、階段が続く高台にやって来た。


「これはいいわね、観光地が一望できるわ」


 中央に綺麗な小川が流れていて、右手にさっきまでいた時計塔が見える。


「ここは昔、ボク達の祖先が住んでいた村だったんだって。祖先の人達が苦労して魔の森を切り開いたってお父さんが言ってたよ」


 確かに農地を含めた村1つ分の広さはありそうね。


「周辺にある木の壁も作ったの?」


 城壁じゃない、木の大きな壁が魔の森とこの観光地を隔てている。城壁並みの強さがある壁だそうだけど、わざと隙間を空けて森が見れるようにしているのが、この村の伝統だって言っている。


 ――カンコ~ン カンコ~ン


 鐘3つの音が鳴る。今では時を告げる鐘の音も町では鳴らさないけど、ここでは鐘を鳴らすらしい。なかなか風情があるわね。


「この後は、マンドレイクの栽培所か、裏山の上にある牧場なんか行ったら面白いと思うよ」


 ユイトが、この高台に設置してある地図を見ながら説明してくれた。


「マンドレイクって、貴重な食材にもなるんですよ。あたし行ってみたいです」


「そうね。私も興味あるわ。まずはそこに行ってみましょうか」


 私達は小川の上流にあると言う、マンドレイクの栽培所に向かった。

そこには観光客が20人程集まっていて、ここを管理しているという熊族の大柄の男の人が、マンドレイクの栽培について説明してくれた。


「マンドレイクはここみたいな、澄んだきれいな川でしか育たないんだ。王国中でも、ここを含め3か所でしか栽培されていない。ここがその発祥の地となっているんだよ」


 川の浅瀬に何本もの緑の葉っぱが植えられていて、段差のある畑が何段も広がっている。


「大体2、3年で出荷できるが、3年でこれ位の大きさになる。どうぞ見てくれ」


 1本を抜いて両手に抱えて見せてくれた。


「これがマンドレイクですか。大きいんですね」


 大きな大根のようだけど、目と口のような窪みがあり、手足のように分かれた根が動いている。


「うわっ、何かウニョウニョ動いてるわよ」


「拙者も初めて見るが、これは魔物ではないのか」


 管理している男の人が答えてくれる。


「植物と魔物の中間のような存在だと言われているな。だが魔石は待っていないぞ。天然物は歩き回って毒がある土地へと移動していくそうだ」


 畑では葉の根元を紐で結んで岸に打ち付け、歩いて行かないようにしているそうだ。見せてくれたマンドレイクを川に入れると自分で川底に潜っていく。


「これは貴重な万能薬の元となるんだ」


「あのう、料理にも使えると聞きましたが」


 ミルチナが質問した。


「ああ、滋養強壮剤としても使えるからな。薬味として使用されているそうだが、量が多くなると毒にもなってしまう。調理をする者は魔術師協会の免許が必要になるな」


「免許。そうだったんですね」


 マンドレイクを使った料理は高価だから、高級店以外では出されていなくて、ミルチナも食べたことがないそうだ。調理に免許が必要だったからなんだと納得していた。


「毒抜きをした安全な物をお土産物屋で売っているから、買っていってくれ」


 へえ~。それはいいわね。後で買いに行きましょう。説明を聞き終えて、少し畑を見学してから、元来た道を下っていく。


「メアリィ。この分かれ道から山の方に行くと、裏山の牧場に行けるよ」


「牧場か~、面白そうね。そっちにも行ってみましょうか」


 私達は看板のある分かれ道を、街とは反対側の山道の方へと向かう


「メアリィ。ボクはこれで村に帰るよ。何かあったら旅館のおばさんに言ってよ。連絡を取ってくれるから」


「ええ、ありがとう。明後日にはまたユイトの家に行くわね」


 そう言ってユイトと別れて、私達3人は牧場に向かう。

しばらく登ると広い草原に出てきた。


「あそこが入口みたいね。ヤギや牛がいるわよ」


 何頭もの家畜が放し飼いになっている。料金を払えば中に入って家畜に触れられるらしい。


「銅貨3枚でいいの? 安いわね」


 入口にいる係の人にお金を渡して中に入ると、牛舎の方に案内してくれた。


「ここでは、乳を出すための牛と、食用の牛。2種類の牛を飼っておるんじゃよ」


 年老いた豹族の人が説明してくれる。


「一般に牛乳は出回っておらんが、ヤギの乳とは違って濃くて美味いぞ。ちょうどあそこで乳しぼりをしとる、見に行ってみるかね」


 女の人4人が並んでいる大きな牛の後ろに座り、乳を両手を使って絞っている。


「牛のお乳って大きいわね。それにすごい量のお乳が出るのね」


 下に置いたバケツには真っ白な牛乳が貯まっていた。


「これを毎日やらないといけないから大変なのよ」


 牛の数も多くて、ここでの消費量も多いから大変な作業だと乳しぼりのおばさんが言う。


「こっちに出来立ての牛乳がある。飲んでいきなされ」


 牛乳は熱処理されて出荷するそうだけど、あまり日持ちしないので、せいぜい隣町までしか出していないと言う。


「うわ~、ほんとに濃くて美味しいわね」


「これは美味しいですね。バターやチーズなどもあるのですか?」


 やはりミルチナは食材に使う加工品に興味があるみたい。


「ああ、それら加工品も作っとるよ。他とは違った風味のある物になっとるからな、下の街で買うとええじゃろう」


 この観光地には興味を引くものが沢山あるのね。有名な観光地だと言うのも頷けるわね。次は何処に行ってみようかしら。


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