第25話 ネズミ捕獲作戦1
「社長、軍から獣の捕獲依頼が来てますよ」
今日の仕事を終えて、ユイトとセイランと一緒にお店に帰ると、シンシアが声を掛けてきた。
軍の仕事は割がいいから、依頼を受けてすぐにでもお仕事をしましょう。
「え~! ネズミなの!」
「はい、軍靴の革の素材になるネズミを、生きたまま捕獲してほしいそうです」
軍は遠くに住むネズミを、この王都で繁殖させたいらしい。
「私は嫌よ! 食糧庫の裏に隠れているネズミよね。あとGの名前の黒い虫とか、私苦手なのよ」
「それは困りましたね。報酬額はいいんですけどね」
いくらお金を積まれても、あのネズミを生きたまま捕まえるなんて私には無理だわ。
「ミルチナもネズミとか苦手よね」
「はい、大嫌いです。あんな生き物は根絶させないとダメですね。見つけ次第、焼き殺さない気が治まりません」
料理人にとっては天敵なのかもしれないけど、焼き殺すというのも……。最近食糧庫の床が焦げているのはミルチナがやってるのかしら。
「それならボクが行ってくるよ。国境近くまで行くんでしょう」
「国境と言うより、レグルス国まで行かないとダメみたいですね」
レグルス国は王国の隣の小さな国。国交はあるから手続きさえすれば、ユイトでも入ることはできるでしょうけど。
「それならば拙者も行ってよいか。他国の見聞も広げたいのでな」
結局、ユイトとセイランがキイエ様に乗って、レグルス国へと向かうことになった。私とミルチナが行っても失敗するのは目に見えている。今回は二人に任せましょう。
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拙者もキイエ殿に乗るのは慣れてきたのだが、まだこの高さを飛ぶのは怖いものがある。不安ゆえ、ユイト殿には後ろで支えてもらい鞍にまたがっている。背中にユイト殿の体温を感じられるのは良いのだが、すごい速度で飛んで風も強い。
神龍族というのは、誠にすごい。この国境近くまで1日半で来ることができた。前に鉄道と言うものに乗せてもらった時も驚いたが、それ以上だ。
「あそこが国境みたいだね。降りるからしっかり掴まっていてね」
眼下の平地には小さな建物が見える。あれが国境にある検問所か。
「ドラゴンに乗ってここに来るとは驚いたな。王都軍が発行している書類もあるし、通ってもらって結構だ。ただしドラゴンはレグルス国の町中には入れないでくれ、騒動になってしまうからな」
「はい、分かりました。ご苦労様です」
我らはすんなりと国境を越えて、またキイエ殿に乗る。
「ユイト殿、これからどちらへ」
「この先の湖の近くに、ネズミがいるんだって。一度様子を見てから町に入ろうと思うんだ」
もう、昼も過ぎているので、ネズミの捕獲は明日以降にして、下見をするらしい。キイエ殿に乗り続け、疲れている拙者に気を使ってくれたのだろうか。
目的の湖はさほど大きくなく、北側半分は魔の森に隣接している。南側の平地部分に降りるようだ。
「うわ~、この辺りは湿地なんだね」
「所々、深い沼があるようだ。ユイト殿注意されよ」
だがこの辺りにそのネズミは居るという。
「あれかな?」
ユイト殿が、湖の方を指差す。ゆったりと泳ぐ獣がそこにいた。だがでかいな。大型のネズミとは聞いていたが一抱え程ありそうだ。
しばらく見ていると、岸辺の方へ泳いで行って姿が見えなくなった。
「色や形からすると、さっきの生き物みたいだけど、ちょっと大きかったね」
一応確認もできたからと、近くの町へと向かう。
「ごめんね、キイエ。町に入れなくて」
「よい、よい。明日は朝早いのだろう。ゆっくり休めよ」
町の城門付近で降ろしてもらい、我ら二人は町に入る。
「古い造りの町なのだな」
王都に比べて、家や石垣などが今風の形とは違っている。どちらかと言うと拙者の国のような造りだ。
「このレグルス国は、昔の共和国の時代から変わらないところが多いんだよ」
新大陸との交易や列車による交通網の発達などで、この大陸の商業は大いに発展した。そのため、大陸全土で自由な商売ができるようになったそうだ。拙者がこの国で学びたいのはその点にもあるのだが。
王国も民主的な国になり、何処の土地でも商売ができるなら、共和国と言う国に頼らずとも各地で商売をしたいという商人が増え、共和国は大国へと併合されたと聞いた。特段争いがあった訳ではなく商売に有利な地へと移っていっただけだそうだ。
当時、帝国は既に衰退し、大国は王国と民主連邦国の二つだけで、北方と南方の半分ずつが併合された。首都であったレグルスだけが国として独立し、現在まで残っているそうだ。昔良き時代のままの街並みを今も残しているそうだ。
街並みは古いが、泊まった宿の内装はきれいで、ゆっくりと休めそうなベッドが2つ用意されている。
「セイラン。さっき聞いて来たんだけど、湖で見かけた獣が探してる大ネズミみたいだよ。ここではヌートって呼ばれていて、大きいけど魔獣じゃないんだって」
ユイト殿と一緒に食事をしながら、明日の捕獲について打ち合わせをする。