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第21話 料理人の女の子2

「シンシア。ミルチナの事お願いね」


「ええ、分かったわ。お仕事、怪我しないように頑張ってね」


 シンシアに見送られて今日の仕事に向かう。



 夕方、仕事を終えてお店に帰ると事務所でシンシアとミルチナが座って何か話し込んでいた。


「役所の方はどうだったの」


「ミルチナちゃんの働いていたのが西地区で、そこで色々と手続きしてきたわ」


 聞くと、働いていたお店は歓楽街にあるお店で、料理人として雇ったミルチナをこき使っていたそうだ。役所も規則を守らないお店だと知っていて、調査に入ってくれるらしい。未払いの給料も支払わせると役所の人が言ってくれたと喜んでいる。


「で、あなた達は何を話していたの?」


「次、どこで働こうかってミルチナちゃんと相談していたんだけど……」


「あたし、今度はしっかりとした有名なお店で料理人として働きたいです」


 なるほど。私達と会った時のように、有名店に押しかけて雇ってもらうように交渉するという事ね。誰も知り合いの居ない王都で、いきなり高級店に行っても雇ってはくれないでしょうね。それでシンシアも困っていたのね。


「ミルチナ。働くって事はどういうことか分かるかしら」


「あたしは料理人です。アタシにとっての働くとは、美味しい料理を作って、お客さんに喜んでもらう事です」


「それはね、夢っていうの。夢! 働くっていうのは自分が生きていくため、生活するためにするものでしょう」


「でも、それだけじゃ、働く意味が無いんじゃ……」


 ミルチナはモジモジと自信なさげに言う。


「城壁に守られて魔獣に襲われないから、ここにいれば死なないとでも思っているんでしょう。社会的な死もあるのよ」


 この王都では、社会的な死が本当の死に直結する事も多い。


「あなた、生きるってことを舐めているわね。働く意味? そんなこと考えている余裕があなたにあるの? 現にまともな食事もできず泊まるところもないじゃない」


「それは前のお店が、給料をくれなくて……」


「それも込みの『働く』なのよ。変なお店に雇われない。役所の仕組みも知っていないといけないわ。お金の勘定も自分でできないといけないのよ。当たり前よね。自分が生きていくためだもの」


 ミルチナはウルウルと涙目になっている。少し厳しい事を言ったけど今後のミルチナの事を考えると、ここでしっかりとした考えを持ってもらいたい。


「まずは自分の稼ぎで生活基盤を作る。それが第一でしょう。夢なんてものはその後よ。その後!」


「まあ、まあ。今日はこれくらいでいいでしょう。そうだミルチナちゃん。今夜は私の家に来ない。ここの屋根裏部屋は狭いでしょう」


 そう言って、シンシアがミルチナを自分の家に連れて行った。


「メアリィ殿。少々厳しすぎではないかな」


「そうだよ。ミルチナが、可哀想だよ」


「なに言っているのよ。ミルチナはもう成人しているのよ。この王都で生きていこうと思うんだったら、もっといろんな事を知らないといけないわ。ユイト。あんたもそうなのよ」


 ユイトもまだまだ何も知らない子供だわ。この王都は貧富の格差が大きい。ちょっとした事ですぐ底辺に落ちてしまう。ミルチナにはそうなってもらいたくない。



 翌朝。ミルチナがシンシアと一緒に出社してきた。


「ミルチナ。今日はどうするの」


「西地区の役所に行ってきます。前のお店の状況を聞いて、その後、働けそうなところが無いか相談してきます」


「そう。シンシアも一緒に行ってもらいましょうか」


「いいえ、あたし一人で大丈夫です」


「そう。じゃあ、終わったらまたここに戻って来てくれるかしら」


「はい」


 そう言ってミルチナは外に出て行った。昨日とは違って声は小さいけどなんだかハキハキしていたわね。シンシアと昨日、何か話でもしたのかしら。


「さあ、私達は山に入って魔獣討伐のお手伝いよ。頑張りましょう」



 今日の仕事は遅くまでかかってしまった。もう日暮れの鐘6つを過ぎている。暗くなりかけている街中を急いでお店に帰ると、シンシアとミルチナが私の帰りを待っていた。


「メアリィさん。私をこの何でも屋で働かせてくれませんか。できたら屋根裏部屋の住み込みで」


「どういう事? 私のお店は料理屋じゃないわよ」


「昨日、メアリィさんが言った事、私なりに考えてみました。今は生活の為に一生懸命働くことが大事だと思いました」


「じゃあ、料理人になる事は諦めたの」


「いいえ、立派な料理人になる事は諦めません。でもユイトさんの料理に負けている程度の腕じゃ話になりません。ここで働きながら修行したいです」


 ユイトに料理を教えてもらうという事? ユイトの料理は美味しいけど、料理人に教えるほどなのかしら。まあ、いいわ。


「シンシア。私達のお店、ミルチナを雇うほどの余裕はあるの」


「ええ、住み込みでなら大丈夫よ。その方がミルチナちゃんのためにもいいでしょう」


 なんだ。もう計算できてるんだ。


「分かったわ。あなたを雇いましょう。ずっとという訳じゃないわ、あなたが料理人になるため別のお店に行くまでの間よ」


「はい、ありがとうございます。あたし一生懸命働きます。よろしくお願いします」


 うん、うん。いい返事だわ。これから苦しい事もあるでしょうけど、頑張ってもらいたいわね。


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