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第2話 何でも屋の仕事

「ただいま、シンシア。私達が出張している間、なにか変わったことは無かった?」


「おかえりなさい、社長。特に問題はなかったですよ。いつものように簡単な依頼はこなしておきました」


 さすが、シンシアね。シンシアはウサギ族で私の親友。私がいない間もこの子ならお店を任せられるわね。


「シンシアさん、これお土産です。名物のおせんべいを買ってきました」


「まあ、ありがとう、ユイト君。後でお茶する時に食べましょうね」


 それに引き換え、ユイトは呑気なものだわ。今回の出張は赤字だというのに……。

伝票をシンシアに渡して計算してもらう。


「まあ、経費で落ちるものもありますし、ぎりぎり赤字ではないようですが利益もほとんどないですね」


「赤字じゃないの? でもこの日数分はタダ働きという事ね。これなら行かない方が良かったわ。私達がいない間、いくつかの依頼は断ったんでしょ」


「そうですね。私1人じゃできない依頼もありましたし。でもユイト君がキイエ様を連れて来てくれたお陰でドラゴンの噂が広がって、前に比べてお客さんがすごく来るようになっていますよ」


 確かに『ドラゴンのいる何でも屋』としての宣伝効果は大きいわ。でもちゃんと依頼をこなせないと信用を失ってしまう。うちの資金力じゃもう1人雇うなんて無理なんだから、ユイトに頑張ってもらわないと。


「あんた、人族なんだからもっとすごい力はないの。伝説にある人族は大陸を征服するほどの人達なんでしょう。背中に黒い翼があるって聞いたわよ」


ユイトの背中を撫でてみたが、何の変哲もない背中だった。


「くすぐったいよ~、メアリィ。ボクはナイフしかないし、すごい力なんて無いよ~。メアリィこそヤマネコ族なんでしょう、鋭い爪とか出てこないの」


 ユイトが私の指や耳などを触ってくる。


「キャッ、何すんのよ。獣じゃないんだから爪が出たり引っ込んだりしないわよ。こら耳を触るんじゃないわよ」


 獣人だからと言って、そこらの獣と一緒にしないで欲しいわ。確かにシッポがあって尖がった耳や、足に肉球があったり毛も生えてるけど、他は人族と変わらないでしょう。シッポすら無いあんたの方が珍しいわよ。


「ユイト。今日の依頼分の仕事をするわよ。ついて来なさい」


「え~、メアリィ~。今帰って来たばかりだよ。もう少し休んで、お昼からにしようよ~」


「なに言っているのかしら。あんたは列車でずっと寝ていたでしょう。甘えるんじゃないわよ!」


 嫌がるユイトを連れ出して、依頼があった中央区の下水の地下水路へと向かう。

前から下水道の中から妙な鳴き声がするから調査して欲しいと、役所から言われていた依頼だ。

水路沿い、43番の排水口。入口は人が入れる大きさの鉄柵で塞がれて、鍵かかかっている。預かっている鍵で開けて中に入るけど、暗く嫌なにおいがするわ。


「ユイト。ランプを持ってマスクをしなさい」


 私もマスクをして、ユイトにランプを持たせて前を歩かせる。水路の両側にある一段高い通路を歩いて水路に流れる水を見ながら奥へと進む。一段下に流れる排水用の水は膝上ほどの深さだろうか。生活ゴミが水と一緒に流れている。


「メアリィ。何かが住み付いているのかな。魔獣だったらどうしよう~」


「入口の柵を通れる程度の獣か逃げたペットでしょう。こんな街中に魔獣なんていないの! あんたはしっかり前を照らして、何か出てきたら盾で防ぎなさい」


「え~、でも怖いよ~」


 ここは、あんたが居たような村じゃないのよ。王都の人工の水路に魔獣なんかがいる訳ないでしょう。怯えるユイトを前に、二人暗い水路を奥へと進んでいく。


「ちょっと、止まりなさい。何か聞こえるわ」


「えっ! どっち?」


「しっ! 静かに」


 暗い水路の奥の方。ギィ、ギィと言う鳴き声と共に、何かが跳ねたような水音がした。ユイトに水面を照らさせる。


「うわっ!!」


 そのとたん水中から鞭のような物が出てきて、ユイトの足をすくう。ユイトは尻餅をついて危なく水路に落ちるところだった。


「この~! アイシクルランス」


 氷の槍魔法を放ったけど、相手は水中だ。上手く当たらず、まだ水の中を泳いでいる。その水中から水を吹きだしてこちらに攻撃を仕掛けてきた。


「これは、水魔法!?」


 水路の水を吸って浴びせたのではない。ユイトが低い姿勢になって盾で防いでくれたけど、明らかに魔法攻撃だわ。


「魔獣なの! それなら容赦しないわよ」


 4本の指を弾いて、光魔法で辺り一帯を照らす。


「いた! あそこだわ」


 私は、中指と小指を弾いて合成魔法を叩きこむ。


「サンダー!!」


 水中に居ようとも、この電気の攻撃ならダメージを負うでしょう。水中にいた巨大な黒い物体が跳ね上がる。


「今だわ。ストーン ストライク!」


 薬指を弾いて、飛び上がった魔獣に岩魔法を浴びせる。魔獣は反対側の通路まで飛んでいって動かなくなった。


「い、今の生き物、何だったのかな」


「さあ、私も初めて見たけど、魔法攻撃してきたわ。ユイト、水路を渡ってあの魔獣を見てきなさい」


「え~。ボクが行くの~」


「もうあいつは死んでいるわよ。さっさと行きなさい!」


 嫌がるユイトの背中を蹴飛ばして、水路を渡らせて反対側にいる魔獣を確かめさせる。

ユイトが持ち上げた魔獣は、巨大なナマズのような魔獣だった。人の背丈ほどもあるナマズで口元から長いひげが何本も生えている。この大きさからするとやはり魔獣だろう。


「シッポに縄をかけて、引っ張って入口まで運びなさい」


 魔獣を水路に流しながら排水口の外までユイトに運ばせる。鉄柵の外に出た後は、近くのお店で借りた小さな荷車に魔獣を積んで布を掛けてロープで縛る。


「やっぱりメアリィの魔法はすごいね。こんな大きな魔獣を倒すんだから」


「そりゃね。これぐらいの魔術が使えないと、なんでも屋なんてできないわよ」


「メアリィは全部の属性魔法が使えるんだよね。すごいな~」


 使える魔法属性は生まれつきのもので、後から覚えたり変えたりする事はできない。人差し指から火属性、中指から風、薬指から土、小指からは水属性と決まっている。指をパチンんと鳴らしたり、弾いたりすることで魔法を発動する。


 その魔法の大きさや形を変えて、飛ばす方向や速度を自在に操る技が魔術。私は魔術を魔術師学園で2年間学んで、全属性の中級魔法までなら使うことができる。


「ユイトも火と土属性の魔法は使えるんでしょう。魔力を制御して魔獣を倒せるように練習しなさいよ」


「でもボクは魔力量が少ないから……」


「魔術を駆使すれば初級魔法でも魔獣を倒せるのよ。あんたはすぐ諦めるんだから」


 ユイトはナイフ使いだけど、魔術も覚えてもらって戦力になってもらわないと……。先の事を考えると頭が痛くなってくるけど、今はこの依頼完了報告にいかないとね。





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お待たせしました。外伝 ドラゴンの居る、何でも屋。いよいよスタートです。


基本設定などは本編と変わりませんが、時代が変わり地理的なものは色々と変わっています。

異世界での日常を書き連ねる形となりますが、今後ともお付き合いくださいますようお願いいたします。


今後も毎日21:00更新の予定です。

ブックマークや評価など頂けるとありがたいです。よろしくお願いいたします。


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