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第101話 最終話

「メアリィ、メアリィ」


 遠くでユイトの声がする。あれ、私、川の近くで怪我したユイトと一緒に……。そしたらキイエ様が来てくれて、それからどうしたんだっけ。


「メアリィ。もう朝だよ。」


 ユイトに優しく肩を揺さぶられる。そうだ昨日お店に帰って来て、お医者様が来て……。私ユイトを看病してて寝ちゃったのね。


「ユイト。あなた大丈夫なの」


「ありがとう、メアリィ。君がここまで運んでくれたんだね」


 ユイトはベッドで横になりながら微笑む。


「ユイト、ごめんなさい。私が周囲の警戒を怠ったから……」


 ユイトが薬草を採取してた時、私も一緒になって薬草を採っていた。私が周囲の警戒をしなくちゃいけなかったのに、魔獣がいない山だからと油断していた。こんな基本的なミスをするなんて。


「うん、ボクは大丈夫だよ。メアリィが無事で良かったよ」


「助けてくれて…… 私を助けてくれてありがとう、ユイト」


 獣に襲われた時に、私をかばってくれたのはユイトだ。体を張って助けてくれて、ユイトが怪我をした。

私のせいだわ。


 扉からノックの音がして、シンシアが部屋に入ってきた。


「ユイト君、起きたのね。スープを作っているから持ってくるわね。お医者様もしっかり栄養を摂って休めば治るとおしゃっていたわよ」


「シンシア、それなら私がするわ」


 1階に降りて、スープをお皿に入れてユイトのベッドに持っていく。これぐらい私がしなくちゃ。

少し足は痛むけど、今日の仕事もユイトが抜けた分を私が代わりにする。

夜の食事も私が作って、ユイトに食べてもらう。怪我をさせたのは私なんだから。少しでも早く治るように光魔法での治療もした。


「ありがとう、メアリィ」


 3日目の夜。ユイトの怪我も回復してきた。


「メアリィ。ボクは君が側にいないとダメみたいだ。ずっとボクと一緒にいて欲しいんだ。それとね……」



 翌朝。


「シンシア。私ね、ユイトにプロポーズされたみたいなの」


「まあ、おめでとう。結婚式はいつするの?」


「あ、いや。まだね、返事はしていなくて……」


「あら、どうして。メアリィはユイト君の事、好きでしょう」


「でも、年下だし5歳も年が離れてるし……」


「じゃ、ユイト君。ここを出て行って他の人と結婚してもいいの?」


 その言葉にドッキとして、胸が締め付けられるようにギュッとなった。山でサーベルに襲われて、ユイトが土手でぐったりしている時も胸がギュッとなった。

これは吊り橋効果? いえ、そんなんじゃないわ。あの時もユイトを失いたくない一心で、冷静に目の前の獣を倒す事だけに集中していた。


 今までユイトが居なくなるなんて考えた事がなかった。ずっとこのまま一緒にいるものだと思っていた。

今もユイトがいなくなったらと思うだけで、どうしようもなく胸が痛くなる。


「私、ユイトが好きだったんだ」


 昨日、突然ユイトに好きだと言われて、どう対処していいのか分からなかったけど、ユイトも私と同じ気持ちなんだと今なら分かる。


 2階のユイトの部屋へと駆け上がる。ユイトはベッドに座ったままだ。


「ユイト、私ね。私、ユイトの事が好きなの。これからもずっと一緒にいたいの」


「メアリィ、ありがとう。君の事は一生大事にするよ。必ず幸せにしてみせる。結婚しよう」


「うん、うん」


 なぜか涙が出てきて、ユイトの胸に飛び込む。




「頼もう! 拙者は、セイランと申す。ユイト殿にお目道り願いたい!」


 お店の前で、そこら中に響き渡る大きな声を出している人がいる。セイランだ!


 階段を上がってくる音がして、私は慌ててユイトから離れる。シンシアと一緒にセイランが部屋に入ってきた。


「ユイト殿! 拙者、国元からユイト殿と婚姻を結ぶようにと言われて、ここに参った次第。拙者と結婚して下さらぬか」


「ユイトは私と結婚するのよ。そんなのだめ……」


 そう言い募る横でユイトが答える。


「いいよ、セイラン。結婚しよう」


 なっ! 何言ってんのよ。さっき私と結婚しようって言ったばかりじゃない。


「メアリィも一緒なんだけどいいかな」


 重婚するつもりなの。重婚なんて今どき貴族ぐらいしかしてないわよ!


「メアリィ殿とユイト殿は以前よりの恋仲。その事は承知の上であるよ。不束者(ふつつかもの)ではあるがよろしくお願いする、ユイト殿」


 セイランまで何言ってんのよ。


「あれ、ユイトさん。それにみんなも集まってどうしたんですか?」


 ミルチナが部屋に入ってきた。


「ちょうど良かったわ。ユイトさん、あたし今度レストランのお店開く事にしたんですよ。前にユイトさんが約束してくれたでしょう。私のお店に来てずっと一緒にいてくれるって」


 えっ、ユイトそんな事言ってたっけ? 確かミルチナのお店に食べに行くって言っただけだったような……。


「ユイトさん。あたしと結婚してお店を一緒にしてください」


「うん、いいよ、ミルチナ。結婚しよう」


「嬉しい。ユイトさん!」


 ミルチナがユイトに抱きつく。

もう、何が何だか分からないわよ。シンシアは微笑みながら言う。


「さあ、これから結婚式の準備とか忙しくなるわね。社長、まずは今日のお仕事の段取りを決めましょうか」


「えっ、えっ、ええぇ~」


 シンシアに引っ張られて部屋を出る。




 そして1ヶ月後。


「すみません~。ここにセイランはいますか?」


 鬼人族で1本角の若い女の人がお店にやって来た。


「げっ。まさかあんたもユイトと結婚しに来たの」


「えっ! いえ、いえ。私は王都の見聞をするために来ましたイズルナと言います。ここで働かせて欲しくて来たんです」


「イズルナ、よく参られた。メアリィ殿、拙者の後任として来てもらった者だ」


 そういえば、そんな事を言っていたわね。


「社長、イズルナさんは私が案内しておきます。先に新しいお店に行って準備をお願いできますか」


 ここから少し離れた隣の地区、そこの空き店舗の1階にミルチナのレストランと、2階部分に何でも屋の2店舗目を置く事になった。

今のお店はシンシアに任せて、私達とリザードマンのティノス兄妹に来てもらって、明日から新店舗を開店させる。


 これまでシャウラ村での結婚式に、新しいお店の準備、引っ越しと慌ただしい日々を送ってきた。

ミルチナのレストランは先に開店していて大盛況だ。ミルチナがレストランから出てきた、


「ユイトさん。何でも屋ばかりじゃなくてレストランも手伝ってくださいね」


「分かっているよ。何でも屋の準備をして午後からはレストランのコックをするよ」


 ドラゴンの居る何でも屋とレストラン。また借金ができちゃったし、ユイトには両方を頑張ってもらいましょう。



 翌日。無事新しいお店も開店して、今夜はシンシア夫妻を家に呼んで開店祝いをする。

ここは、お店にほど近い3階建ての中古の家。私とユイト、セイランやミルチナと住む新居。


「開店を祝って、乾杯」


「メアリィ店長。この家はなかなか広い家だな」


 グランは初めてだったわね。シンシアに探してもらって、いい家が見つかったわ。


「そりゃ、メアリィ達は4人もいるんですもの。それに改造してオフロも付けてもらったのよ」


 念願のオフロ付きのマイホーム。少し贅沢だけど気に入っているわ。


「1階は居間と食堂とオフロか。2階と3階にもこの広さの部屋とは多すぎないか」


「グラン、将来の子供達のための部屋も考えているのよ。でもメアリィはこれから当分の間忙しくなるから、子供を作るのは、まだまだ先になるかしらね」


「えっ、あ~、それはね……」


「拙者は、いつでもユイト殿の子を成しますぞ」


「あたしも、お店にコックは沢山いるし、不都合はないわよ。ねっ、ユイトさん」


 もう、この子達ったら。仕方ないわね。


 私もユイトも、自分の力で自分の人生を歩きたくてこの王都にやって来た。自分のお店も持てて、私の夢も叶えられた。これからはユイトと一緒にまた新しい夢に向かっていく。


 セイランとミルチナも一緒にいてくれる。私が思い描くような賑やかで幸せな家族を作っていけるわ。


 王都の片隅でも、私が自分の心のまま自由に生きていける場所がある。これからも私はこの何でも屋を続けていくのだろう。その先には私が求めるスローライフがあるはずだわ。それを目指し愛する人達と共に私は歩んでいく。


 ~終演~





---------------------

お読みいただき、ありがとうございます。


今回でドラゴンの居る何でも屋は完結となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


応援してくれた読者の方々に感謝申し上げます。


これまでのお話で心に残るようなエピソードやキャラクターが一人でもいましたら、作者冥利に尽きます。

最後までお付き合いくださいました読者の方々に感謝を。

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