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第100話 久しぶりの薬草採取

「メアリィ店長。すまないが妹が熱を出して寝込んでいる。今日の仕事を休ませて欲しいんだが」


 テニーニャちゃんの体調が悪いらしい。この王国に来て慣れない事も多くて、疲れが出たのかもしれないわね。


「あんた、お兄さんなんだからちゃんと看病してあげなさいよ」


「ああ、すまない。店長、明日は俺だけでも出てくるよ」


 ティノスも疲れ気味だ。無理に仕事させるより一緒に休んでもらった方がいいだろう。

シンシアに今日の仕事を組み替えてもらって、なんとか仕事を回すようにする。



「あんたと薬草採取なんて久しぶりね」


 昼からは私とユイトで山に入っての薬草採取だ。一緒にこんな事するのは、ユイトが来た頃以来じゃないかしら。


「あの頃はあんた魔獣討伐もまともにできなくて、採取ばかりやっていたわね」


「え~。そうだったけ。ちゃんと他にもお手伝いしてたよ。魔獣の解体とか上手いって言ってくれてたよね」


「そうだったかしら。まあ、ナイフの扱いだけは上手かったわね」


 今ではショートソードも使い熟せるようになっている。背も伸びて私よりも高くなったし、ひょろっとしていた体もがっしりとして、もう討伐の前衛も任せられるようになっている。


「あら、あの木の根元に薬草が生えているわよ」


 薬草を採っていると木の上から何かが落ちてきた。


「メアリィ!!」


「キャッ」


 ユイトが覆いかぶさると同時に鋭い牙と爪が見えた。地面を転がって1撃目は躱せたようだけど近くにまだいる。


「このっ!!」


 火魔法を連発する。ユイトが覆いかぶさったままで狙いは付けられないけど、とにかく気配のする方向に魔法を撃ち込む。


「ユイト! 大丈夫」


 返事がない。ユイトの右肩と背中の軽鎧が跳ね飛ばされていて、肩から血が出ているのが見えた。

それよりも襲ってきたのは魔獣!? この山に魔獣はいないはずだけど。


 覆いかぶさっているユイトの脇から抜け出し、辺りを見回す。

獣? 黄色い体に黒の縞模様、鋭い2本の大きな牙、サーベルタイガーね。普通は単独行動しているはずだけど2頭いる。若い個体で兄弟のようね。まだこちらを狙っているわ。


 あいつは木の上から狙って来る俊敏な奴。前衛が抑えてくれないと単独の魔法では躱されてしまうだけだ。


「ユイト、ユイト!」


 ダメだ。頭を打ったのか気を失っている。爪で引っかけられた肩の傷は、血が出ているけど致命傷じゃない。どこか安全な場所で治療したいけど、あのサーベルを何とかしないと……。


「アイスシールド!」


 氷の壁を2面作り、1頭の進路を塞ぐ。ジェットブーツで高速移動して斜めから狙う。


「アイシクルランス!」


 1頭は貫いて倒したけど、もう1頭が怒りの形相でこちらに向かって走って来る。またシールドを張れば魔力切れになる。引きつけて一撃に賭けるしかない。


「ウィンドカッター!」


 しまった、避けられた。でも足に傷を負わせている。悲鳴を上げ飛び退いたサーベルタイガーは、木に隠れるようにして離れていく。

今の内だわ。ユイトの所に戻り、上半身を抱えるようにして引きずり移動する。少しでもここを離れよう、木のある林の中は不利だ。


「んん、ん……」


「ユイト、気が付いた。あっちの川の方に向かうわよ」


 まだ朦朧とするユイトに肩を貸して、川へと移動する。草を踏み分けてさっきのサーベルが追ってくる気配がある。広い場所に出た方がいい。


「川が見えたわ」


 下の方に河原が見えた。あの向こうは魔獣のいる魔の森だけど、こちら側まで渡ってこないはず。

肩に掴まっていたユイトがグラついて、つまずき土手を転がり落ちてしまう。


「キャー」


 ユイトはまた気を失い、私は足を挫いてしまってまともに動けない。

少し離れた河原に、さっきのサーベルタイガーが足を引きずりながら降りてきて、こちらと向き合う。


「ここで、決着をつける気ね」


 お互い手負いだ。最後の一撃で勝負がつく。サーベルが駆けだした。私も魔法を放つ準備をする。


「ばか! ユイト、なにしているの!」


 ユイトが両手を広げて私の前に立ち上がる。サーベルの繰り出した前足にお腹を蹴られてユイトが吹っ飛んでしまう。


「ウィンドカッター!」


 横に転がりながら首めがけて放った風の刃は、サーベルタイガーの首をはね夕暮れの空へと飛んで行った。


「ユイト、ユイト!」


 土手には、ぐったりとしてるユイトがいる。まさか死んだんじゃないわよね。胸と胴体に着ていた軽鎧は吹き飛ばされているけど、ここからじゃ傷が見えない。


「ユイト、ユイト!」


 痛む足を引きずりながら土手に向う。こんなところで私を一人にしないでよ。

引き裂かれた服の下から血がにじんでいるけど、幸い深い傷じゃないわ。光魔法を傷に当てて治療する。


「無茶な事をして……」


 はっきりと意識があってしたのか分からないけど、私を守るためとはいえ剣も持たずにサーベルの前に立つなんて。

胸と肩に薬を塗って包帯を巻く。


「キイエ様を呼ばないと」


 もうすぐ日が暮れる。ユイトが持っている笛を吹けばキイエ様が来てくれる。でもいつもユイトが首からかけていた笛が無い。

さっき飛ばされた時に鎖が切れたのかと思って辺りを探したけど見つからなかった。

もしかしたら最初に肩をやられた時、既に失くしていたのかもしれないわ。


 夜になると、ここも危ないわ。倒したサーベルの血の臭いに誘われて他の獣たちが集まってくる。ユイトを引きずって離れた土手の窪みまで行く。


「ユイト。あなたは私が守るわ」


 ◇


 ◇


「社長がまだ帰って来ていないの?」


 関係業者に支払いを済ませてお店に帰って来たら、メアリィが帰っていないとヨハノスさんから言われた。


「午後からはユイト君と山に行っているはずね。もうすぐ城門も閉まってしまうわ」


 こんなに遅くなるはずがない。何かあったんだわ。


「ヨハノスさん、すみませんが一緒に王都近くの森まで行ってくれませんか」


 キイエ様がいる森に行って確かめてみましょう。ムルームさんとロアクロ君にはお店に残ってもらうように言ってエアバイクで森へと向かう。


「キーエ様、キーエ様はいらっしゃいますか」


 森に向かって呼びかける。


「どうした。シンシア」


 キイエ様が森の奥から飛んできてくれた。


「ユイト君とメアリィがまだ帰って来ていないんです。キイエ様は何か知りませんか」


「今日はユイトとは会っていないな。何かあれば我れを呼ぶはずだが……。何処へ行った? 我れが探しに行こう」


 メアリィが向かった山を教えると、そちらに向かって飛んで行ってくれた。


「ヨハノスさん、私達はお店に戻りましょう」


 もしかしたら行き違いでメアリィが帰っているかもしれないわ。でもお店にはムルームさん達しかいなかった。


「私とヨハノスさんが残りますので皆さんは、帰っていただいて結構です」


 もう、外も暗くなっている。みんな心配していたけど、キイエ様にメアリィ達の事は頼んであるから安心だと言ってみんなには帰ってもらう。

しばらくして、裏庭にキイエ様が帰って来た。


「メアリィ! 何かあったの」


「ごめん。獣に襲われてユイトが怪我したの。部屋に運ぶのを手伝って」


 包帯を体に巻いてぐったりしているユイト君。


「ヨハノスさん、ユイト君を部屋まで運んであげて下さい。私は、お医者様を呼んでくるわ」


 メアリィも足を引きずっているわね。山で獣に襲われたって言ってたけど……。私は急いで病院へ行き、お医者様に来てもらう。


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お読みいただき、ありがとうございます。

明日は、いよいよ最終話となります。

(100話前後で完結というお約束通りですね。)

では、皆さん。お楽しみに。

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