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氷結世界ノアラストル  作者: クオ村 往人
二章 ーー 自由を叫べよ
9/19

8ー引き波


「結果としては、階層の低い者から順に、V576、U333、S289、そしてO168、だな。」


「…拡がっている。」


「そう、拡がってるんだよ。」


バルキンは部屋着をベッドに脱ぎ捨てて、クローゼットからワイシャツを取り出した。仕事着に着替えながら、データが指し示す現状を深刻に受け止める。髭をひと撫でした。

アルフはそのまま話を続けた。


「ここ数ヶ月の間に起きた『人権革命軍』関連のテロを見ても、その実行犯のコード層は拡がりつつある。ほんの2年前くらいはS〜Z層が主流だったけど、最近はO層やN層まで現れた。間違いなく、『人権革命軍』そのものの規模が大きくなりつつあるってことだな。」


「昨夜のやつ、確かS289だったな。そいつだけはうちの小隊で寄ってたかって迎え撃っても無理だった。」

昨日のことが鮮明に思い出される。S289、ソニエナの豪快な太刀筋。その剣技の前になす術なく斬られてゆく彼の小隊の隊員達。あの時、『プロトコルブラック』を使わざるを得なかった。


「報告じゃ、反乱分子の中だと規格外の強さだったらしいな。」


「…奴ら一体どうやってあれだけ強く…。」


「それについても少し調べた。」

アルフがまた懐から別の二つ折りの紙を取り出し、広げた。


「S289。経歴を見ると、元々はA層の貴族階級の娯楽のために、剣一本で腹を空かせたライオンやらグリズリーやらなんとかやら、そいつらを合体させた『グリズオン』やらの猛獣と戦わされてた身だと。因みに、命をかけた仕事のわりに、賃金は低かったそうな。」


「S層なら、まあそうなるな。」


そうだ。この世界ではそのくらいが当たり前なのだ。この時代の人間は、生まれた時よりメインコンピュータにその個人の有益さを計られ、その結果に応じてAからZまで階級分けされている。せいぜい生産性があるとされている階級は、最低でもJ層までである。ましてやS層なんてなんの役にも立ちそうにない。Z層なんてのは同じ人だと思うことすら馬鹿馬鹿しい。そういう『常識』なのだ。


ちょうどバルキンは着替え終わったので、目覚ましのコーヒーを淹れにいった。


「拡がっているのは階層だけじゃないだろう。」


「流石にバルキンは察しがいいね。」


アルフは、今度は資料を3枚出した。そして手に持った5枚全てのデータをベッドに広げて並べた。


「過去の事件に対して昨夜のテロはあまりにも大規模なものになっている。8年前の資料だけど、これは人権革命“隊”が起こした事件のものだ。」


そう言ってアルフは、広げた5枚のうちの一枚を拾って彼に見せつけた。


「『第五区地方銀行にて、“人権革命隊”による強盗』か…。」


「8年前の彼等はこんなんだったよ。爆破テロは昨夜が初めての事例だ。更に、」


追い打ちをかけるように、4枚の資料を、ベッドに押し広げなおした5枚の紙の上から被せる。


「4年前の治安維持隊第八基地の備品盗難事件、3か月前の経済省への放火、及びメインホールへの突撃。年を重ねるごとにその内容はより過激になってる。」


「そして今回の爆破テロ、と?」


「ああ、しかも、奴らも『人権革命“軍”』なんてたいそうな改名してさ。まるで何かの前兆じゃないかい?」


陽光の温かさのせいか、疲れからか、珍しくアルフは身体をぴんとさせ、ぐっと背伸びをした。


「…セントラルはこれからどうなるんだ。」

何かを恐れるように、バルキンは問いかける。


「それは僕にも分かんない。どれだけ予測をしても、未来の結果は誰も見ることはできないからね。」

薄暗いキッチンからコーヒーを2カップ持ったバルキンが現れた。バルキンが自分のベッドに広げられた資料たちを眺めている間に、カップの一つをアルフが受け取って、そのまま飲み干してしまった。


「ただ一つだけ確実に言えるのは、このセントラルで、確実に何か大きな『うねり』が生まれつつあるってことだな。」


「大きな、うねり…。」


「無論、君の仕事も増える。」


「…それは、嫌だな。」

まだ口がついていないバルキンのコーヒーカップの縁を、とんと突いてみた。表面で波紋が静かに生まれた。


「あとはこの先、もしS289みたいなやつが増えていくなら、『彼等』の仕事も増える。その時は、君を始めとする各隊長の判断が重要になる。」


「『BLACK』か…。」


一口、啜る。バルキンのコーヒーには、砂糖が足りない気がする。


「あ、仕事行かなきゃ。」


くしゃっと広げてあった資料を急いで懐へ戻し、アルフは部屋から駆けて消えていった。

ドアがバタリと閉まる。バルキンが、いってらっしゃい、を言いかけたが、やめた。


そろそろ彼も行かなくてはならない。バルキンはさっさと朝食をすませ、コーヒーを飲みきり、身なりを整え、仕事へ向かった。

今度こそ、鍵はしっかりかけた。

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