5ー彼等のやり方
「…これだからZ786は出撃させたくなかったんだ!俺がやってやろうと思った時に、いっつもいいとこだけ掻っ攫っていって!俺の手柄が無くなる!」
きざにきめていた男は、横暴にも自分の不満を吐き出した。彼、X402は、Z786を目の敵にしていた。そこをZ787がなだめる。
「落ち着いて、ゼフォーツ。ザナエルは、なんていうか、ね?この『仕事』でしか自分が出せないっていうか…。そんな感じなの。それに、ゼフォーツもこんな事、はやく終わらせたいでしょ?」
「は?おい、Z787。お前ほんと何も分かってねぇ。」
ゼフォーツは、さっきから何かにつけてキレている。
「俺はな?はやく反逆者どもを殺してやるってウズウズしてたのにな?こちとらそのチャンスを全部あいつに盗られてんだよ。俺がやってやるって言ってんのにあいつは何も聞いちゃいねぇんだよ。」
ゼフォーツ(X402)はZ787との間合いをズカズカと縮めていく。少女の眼前で顔を顰めてガンを飛ばす。
「お前はなんなんだよ。前からZ786のことばっかフォローして。仮にもし、この『仕事』で恋とかなんとかを期待してんだったらとっととくたばった方がいいぞ、お前。」
「おいおいおいおい…。ゼフォーツ。ザナエナにそんな強く当たんな。たしかいつもザナエルがほとんどの敵やってるけどなぁ。お前もそのカッコつけた台詞を必ず言うの、どうにかしろよ。正直ダサいぞ。」
ザナエナ(Z787)を威圧し突っかかるゼフォーツを、おっさんのユレイゴロが間に割り入って止めた。ザナエナは緊張で、柔らかな表情が少しひきつっている。
「Y056。お前もこんなのの味方かよ。」
ゼフォーツはけっ、とそっぽを向きザナエナとユレイゴロに目を合わせようとしない。ユレイゴロが大きく溜息を吐いた。
「でもな、どんだけ不満があっても、」
…そういえば、このバリケードの中には、まだあと3人、反乱分子がいる。オリバー。アサーシャ。ヴェゴナム。
会話の調子を整え、彼らの方に視線が向く。風の流れが次第に強くなる。彼等から表情が消える。ごうごうと空が鳴っている。
「仕事は終わらせないとな。」
「…それだけは賛成だ。」
各々バトンを腰から外すと、銀の刀身が現れた。ゼフォーツが真っ先に先導し、彼等は3人の敵の方へ足を進め始めた。
いったい何が起きているのか。突然シャッターで仲間と分断されたと思ったら、ヘリから黒い装備をしたやつらが現れた。その1人は今、ソニエナさんと戦っている。別の3人は仲間割れし始めたと思ったら、刃物を携えてこちらに迫ってきている。どうしてこんな事になっているのか、彼等は想像も出来ない。
「ヴェゴナム、なんだこれは。どうするんだ!」
そう言ったオリバーの声は震えている。アサーシャはあいつらが降りてきてから、涙目で壁に向かって「助けて」を連呼し続けている。ヴェゴナム本人でさえ、腕がざわつくのを必死に抑えている。
無理もない。彼等は4人とも殺しにきているのだ。純粋たる圧倒的な殺意を目の前にしたとき、はたして誰がまともでいられよう。銀の刃の輝きは、彼等を鋭く刺すように反射する。彼等のウェアの深い黒色が、沈みゆく闇の底にも見えて仕方がない。向かってくる人の形をしたものが、まるで人じゃないように感じられた。
歩み寄る彼等の足音が、カウントダウンへと変貌する。
コツ。コツ。コツ。コツ。確実に正気が保てなくなる。
「………!うおおおおぁぁぁぁっ!」
遂に耐えきれなくなったか、オリバーが発狂し出した。腹から声を張り上げて、圧倒されそうなほどの殺意に、精一杯刃向かおうとした。すると唐突に叫びながらゼフォーツの方へ走り出し、玉砕覚悟でタックルをかけようとした。
しかし、それはあまりにもひ弱であった。ゼフォーツは、払い捨てるように、突進してくる男の胸ぐらに刃を深く刻みつけた。ぎざぎざの傷口から血が腹の外へと流れ出ている。ふっと意識を失い、正面から倒れ込んでゆくオリバーに、ゼフォーツは流し目で軽蔑を送った。そのままオリバーの体は地べたへ激突し、動かなくなった。
オリバーが死んだ。死体が“次は自分たちがそうなる番だ”と暗示している。ヴェゴナムの顔から血の気がひいた。全てを察して、もう、諦めたという顔だった。アサーシャはさらにぐしゃぐしゃに泣き喚き始め、無我夢中に壁を叩きまくった。
「嫌だ!助けてみんな!私まだ死にたくない!嫌!嫌ァ!嫌ァ゛ア
がなり声で助けを呼ぶアサーシャの喉に、刃が突き立てられる。これだけ叫んでも、結局は死ぬんだと、この時の彼女は絶望の中自覚した。
「残念ですけど、あなたは死ぬんです。」
そう言って、ザナエナがアサーシャの首をはねた。直前までアサーシャが発していた断末魔で、首根っこから吹く血が、刹那、ぶくりと泡立った。
「じゃあ、こっちもすぐに終わらせるからな。」
ユレイゴロは、壁に倒れかかったヴェゴナムの腹に刃を当てて、そのまま上にズバッと斬り上げた。
真っ黒な壁面に、嫌に綺麗な赤色が飛び散って、張り付いた。