4ーZ786
頭上を飛ぶヘリを、ルストーはじっと見ていた。ヘリの中までよく凝らして見てみようとして、目を細めた。
何だ。何やら人影がある。こちらを見下ろしている人影がヘリに乗っている。遠くにいるのでぼんやりとしか見えない。
いきなり、人影“達”はヘリから飛び出した。
4つの人影は、徐々にその姿を露わにする。どうやら、壁の内側に向かって落ちていっている。ひゅうひゅうと風が強く吹き始める。ぼやけた人影はだんだんとこちらに近づき、はっきりと人の形を作った。落ちてゆく4人は、地に引っ張られ空中で加速してゆく。壁の内へと落ちてゆく。
4人が落ちきると共に、ドンッ、と叩きつける音が周りの雑音を掻き消すように響いた。地面を深く踏みつけて、座り込むようにして、着地している。そのまま『彼等』はゆっくりと立ち上がった。
ジャケットも、ボトムスも、彼等の装いは真っ黒だ。彼等の胸の内からは蒼白い明かりが漏れ出し、ほのかに光っている。腰に黒地に金のラインをあしらったベルトとバトンを装着し、うなじからは2本の銅線が背中に繋がれている。目に生命が宿っていない。
風が耳の後ろを横切った。ただ静かに佇んでいる。
4人は確かめるように周りを見回した。あたりに充満していた煙が、視界から消え始める。目線の先には、オリバー。アサーシャ。ヴェゴナム。そして別の方にはソニエナの姿が。
「なんだ…?」
ヴェゴナムが怪訝そうに呟いた。
「俺たち4人に対して、あっちも4人!ちょうどじゃないか?」
体型の太いオッサンが話を切り出す。
「ユレイゴロさん。でも我々で対処しろと言われたのはあっちの剣を持った女の人だけですよ。」
艶やかな長い髪の少女がソニエナを指差して答える。
「結局は全員殺すんだろ?お前らは引っ込んでろ。あいつらごとき、俺だけで充分だ。」
嫌な目つきをした男がきざな台詞をはく。
腰のバトンに手を掛けようとした。がしかし、暗い瞳の少年が、遮るように彼の横から歩み出た。
「…僕らのやることは、この人たちを残らず殺すこと。それでいいんだな。」
バトンを取り外し、右手で握りしめる。その瞬間、バトンの先からギラギラした刀身が現れる。白にも似た銀色が狂うほど眩しい。少年は、彼らの言葉など聴こえてはいなかった。彼は視線の先にいるソニエナの方へ、歩みを進める。
「おい、Z786!今俺一人でいいって言ったろ!いいからお前だけはしゃしゃり出てんじゃ -」
男が言い終わらないうちに、Z786は一瞬のうちにソニエナとの距離を詰めて、彼女に斬りかかった。
銀にぎらつく刃が、稲妻のように襲い来る。息を整える暇はない。ソニエナはとっさに攻撃を受け止めた。
ガリィッ!
剣の身が削れ、火花が散る。刀が剣を、剣が刀を斬りつけ合う。ギリギリと、鎬を削る。細い刀身からは想像もつかぬ重みが迫る。呼吸をするのも必死になり、押し返すのがやっとだ。ぐっと目を開き、彼を見る。左腕にさらに力をかける。
「ッ!!いきなり来たねぇ!なんだい、あたいとやろうっての?」
彼女は煽るようににやける。だが少年は、何も言わない。
剣の重みを横へ流して襲い来る刃何とか弾き返す。両者、反動で滑るように引き下がった。しかし彼の体勢は崩れていない。右手に刀を持ったまま、構えが崩せない。
ソニエナには、彼の刀を一度受けてみて、分かったことが二つある。
一つは、彼の刀の使い方は普通の人間のそれじゃないという事。
彼女にとって彼の戦いの剣筋は、剣術の基本も無く、片手持ちした刀を振り回しているに過ぎなかった。それであるのに、明らかに何か圧倒的な力の差、スペックの差で押し負けている。しかも、距離を詰められたときの動き。人の走力にしては速すぎる。彼は人間でない何かだとでも言わなければ、一連の動作に説明がつかない。
もう一つは、彼には生気がないという事。
剣を交えるにしても、弾き返されるにしても、彼の表情には起伏がない。無表情のまま虚を見透かすような表情のままだ。気の入れ方も知らないようなのに、どうやってあれだけの力を出したのか、彼女は不思議で仕方なかった。ただやはりこちらを殺そうとしているのは分かる。逆にいうとそれしか無いのだ。彼の眼には、おそらく何も映っていない。彼女は、それがただただ恐ろしかった。