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氷結世界ノアラストル  作者: クオ村 往人
序章 ーー プロトコルブラック
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3ー黒い壁、『彼等』


彼女に撃ち込もうとした弾丸は頬を擦っていく。剣先が射線の先を追って穿ち、次々と敵を駆逐してゆく。使い古して刷り込まれた剣の錆が、アーマーの艶を殴り削り、奴等の血肉をを掻いて斬り裂く。脚が俊敏に躍動し、隊員達をすれ違いざまに叩き斬ってゆく。まさに独壇場であった。


「隊長!コイツ、強すぎます!」

現状報告にあがった隊員の一人は逃げ帰ってきたかのように、息を切らしている。僅か10分間の間に、56人いた小隊のメンバーが半数以上死んでいるという有様だ。


剣を振るう彼女は狂戦士であった。しかし殺意を露わにした瞳の中に、確かな光があった。彼女は、自分を無視して“あいつら”の方へ行こうとする奴は、決して誰も逃さなかった。彼女にも「みんなで帰るぞ」、という言葉は伝わっていたのだ。その言葉で、胸の内から力が無尽蔵に湧いてくる。



この光景を離れて見ていた隊長も、命の危機をひしひしと感じていた。苦い表情で、髭を指でまたひと撫でした。


「これはあまり気が進まないが…。」

その決断は、彼にとって仕方の無いものなのだろう。


「…お前、隊員達に告げろ。これから『プロトコルブラック』を発動する。生き残っているやつらは早急に退避する様に、と。」


「は…はっ!」


命令は直ぐに全隊員に伝わった。『プロトコルブラック』。この言葉を出した途端、誰もが戦闘を離脱し、早急にバリケードの外へ避難し始めた。ソニエナの剣は、逃げゆく彼らを捉えきれず、空振りする。襲われているにも関わらず、隊員達は脇目も振らずに全速力で逃げてゆく。


「おい!待ちな!そっちからけしかけておいて、負けそうだから逃げるってのかい!」


怒声を浴びせながら、逃げゆく軍勢の後を追う。奴等が退避するために、バリケードのうちの一つが開かれている。

後ろからこいつらを叩き斬ってやろうと手を伸ばした、その時だった。


ガコン!


バリケードはその姿を変えた。シャッターが各々に閉じてゆく。それはソニエナと小隊を分かつ隔壁となり、どれだけ力を加えようと微動だにしない。壁は一面真っ黒に聳え立つ。ここから先はいけないようだ。


「おいおい、何なんだいこれは!」


剣を思いっきり振るってみる。キィン、と鉄のぶつかり合う音がしただけだった。「チッ。」舌打ちが漏れ出した。それでも彼女は壁に攻撃を続けた。壁を破ろうと何度も剣をぶつけた。そのために、上空より降り立つ『彼等』の存在を、今の彼女は知るよしもなかった。





彼女があの軍勢を相手にしているお陰で、他の9人はバリケードの解除に成功した。


「よし!これでみんな脱出できるぞ!」


9人は、一足先にバリケードから脱出できた。が、これは彼女の功績だ。彼女があの大人数を相手してくれているから、今こうして無事にバリケードを抜けられたのだ。だから、おいていけるものか。僕たちのソニエナさんをおいて誰が先に行こうと言うのか?


「誰かソニエナさんに報告を!」


「俺行ってくる。」


オリバーが率先してそう言ったかと思ったとき、彼はもう既に言ったことを行動にうつしていた。


「…心配だからアサーシャとヴェゴナムもついていってやってくれ。」


「OK。行くぞアサーシャ。」


「はーい」


2人はオリバーの後を追いかけた。アサーシャとヴェゴナムが、バリケードの内側に足を踏み入れた。その時。


突然、シャッターがガコン、と閉まる。2人の姿が見えない。


「ッ!!!アサーシャ!ヴェゴナム!オリバー!」


焦ってシャッターに張り付き、彼らの名を呼ぶ。黒塗りの壁は、ガンガンと何度叩いてみても、何をしても動かない。


「ルストー!ルストー聞こえてる?助けて!閉じ込められたっぽい!」


声だ。篭っていて聞き取りづらいが、アサーシャの声だ。


「なあ3人とも無事なのか!」


「今はな。けど、空を見てみろよ。」


ヴェゴナムに言われるままに、空を見上げる。妙に真っ黒なヘリがここのすぐ上を飛んでいる。サーチライトが睨みつけるようにこちらを向いた。


「…なんか、嫌な感じじゃないか?だからはやくここから出してくれ!ルストー!」


「ここから出せって…、どうしろって…!」


実は、もう外の6人が、オートクラッカーでシャッターをこじ開けようとした後なのだ。すると逆にクラッカーの方が壊れるという始末だ。


どうやらヴェゴナムの感は当たっていたようだ。『彼等』が来たのだ。






“ヘリの中は酷く静かだ。僕の呼吸が。僕の鼓動が。この偽物の鼓動が。静けさのせいで煩く聞こえる。心臓さえ偽物の、僕のやる事。命令に従って、ただ殺す事。それだけでいい。”


「もう行くぞ、ザナエル。」


「…わかった。」


ヘリの座席から立ち上がり、燃えあがる街の一角を静かに見下ろした。


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