2ー背中合わせ
…煙にまかれてよく見えないが、奴等はどうやら突入の準備が出来ているらしい。それに、感電バリケードで完全に10人とも包囲されたときた。
「どうしますか、ソニエナさん。逃げられそうに無いっすよ。」
したっぱの一人であるルストーは、冷静になってそう言う。背中合わせになって屈んで、互いに身を固める。皆が円の外側を睨みつけている。がさつく肌に、汗が伝う。
「…あんたら、こいつを使いな。」
そう言って、ソニエナはルストーに小さな装置を握らせた。
「これは…?」
「ライトが万が一の時にって渡してくれたオートクラッカーだ。作ってくれたテクニーに感謝しな。そいつなら、学がねぇあたいらでも、ある程度のプログラムはぶっ壊せる、らしい。」
「なら、こいつでバリケードのプログラムを壊せれば…!」
「とっとと行きな。」
ソニエナは膝に手をつき、勢いよく立ち上がる。腕に巻いたボロボロの赤い布切れが風に靡く。
「ソニエナさんは?」
「…今は小隊が一隊だけだろ?50人ちょいなら、あたいの剣で十分だよ…!」
腰におさめた錆びた剣をシュッと引き抜く。炎が静かに揺らいでいる。彼女の背には、勇ましく、差し迫った陰があった。その背を見たルストーは歯を少し食いしばり、彼女の陰に伸ばそうとした手を、堪えてそっと下ろした。彼の胸から、叫びが生まれる。
「…お前ら聞いたか!ここはソニエナさんの独壇場になる!その間に俺たちは9人でバリケードぶっ壊す!そんでもって、みんなで帰るぞ!」
「『ああ!』『応!』『…わかった!』『っしゃいくぞ!』」
ルストーの激励への返事は8人ともバラバラだったが、息は同じだった。
9人は彼女に背を向け駆けていった。彼女もまた陰だけを残して、銃を向けた小隊のいる方へと、ゆっくりと歩き出す。
陣形が整うと同時に、黒煙の内から何やら気の強そうな女が出てくる。左手に錆びた剣を持っているようだ。怖気はせずに、それでいて堂々とこちらに歩いて来ている。
「隊長、向かってきます。」
「なるほどね…。」
隊長は掴むように口を押さえる。ざらざらとした自分の髭を、指でひと撫でした。目線をハッキリ彼女に合わせ、語りかけてみる。
「おい女ァ。残りの9人はどこいったァ?」
「あんたらのチンケなバリヤーを破ろうと必死だよ。」
嘲るようににやついてみせた。
「そいつぁウチとしちゃ見逃せねぇな。大人しく殺されてくれ。」
「やなこった。アイツらがうちに帰れなくなるからねぇ。それにあたいはアンタら倒すためにここにいるんだ。どくわけないだろ?」
「そうかぁ。」
隊長はすっと腕を掲げて、そしてー
「かかれぇェッッ!!」
張り詰めた号令が辺りを覆い尽くす。
勢いよく振り下ろされた腕と共に小隊はどっと動き出し、マシンガンは一斉に火を吹き始める。
光線の嵐が彼女に迫り来る。しかし、彼女は弾をすり抜けるようにかわし、疾風の如く駆け出した。勢いのついた剣の切っ先は、一瞬、見えなくなって、敵陣を豪快に斬り抜いた。小隊はすかさず後退りして距離を取り、再び銃を構える。ソニエナの目が奴等をギッと睨んだ。