1ー破られた平静
…ドオン!
「セントラル」の夜の平静を叩き破るかのように、突然、爆音が鳴り響く。地が一瞬、揺れた気がした。ただその揺れが地震などでない事は直ぐに分かった。
炎が猛々しく巻き上がり、黒い煙は大きな暗雲を創り出している。爆発はセントラルの中央寄り、特別商業区第二区あたりからだろうか。
「なんだ、爆発か⁉︎」
「商業区からだぞ!」
「嘘…。うちの夫は無事よね…?」
「なんだよ!最近セントラルが妙に物騒だぞ、オイ!」
街がざわめき出す。高速道を走る車両の中には、高層ビルが並ぶ中に立ち登る暗雲に目を惹かれ立ち尽くす者もいた。そこら中から鳴るクランクションが、停滞した車の流れに文句を放ち続けている。居住区の者は皆商業区の方を見てきゃあきゃあと騒ぎ立てている。
その時、その中に余裕ある表情ができる者はいるはずが無かった。
特別商業区第二区。燃え盛る炎の中人々が我先にと逃げ惑う。ドタドタと走る人々の脚が交差する。床に散ったガラス片達が、踏まれるシャリシャリという音を絶たない。泣き喚きながら必死こいて走る者が彼方此方に散開する。
「死にたくない」と絶叫する者も、又、混乱で唖然と立ち尽くす者もいる。崩れた瓦礫の下敷きになった人や、爆発の衝撃で吹っ飛ばされた焼死体に目もくれず、人々は一目散に逃げている。
だがその流れに背き、爆心地へと向かう人の群れがある。「群れ」は足並みを揃えて、炎の中へと前進してゆく。その群れが率いる大型のトラックのようなビークルが、青いハザードランプを光らせて、サイレンを鳴らして迫ってくる。
突然、周りの炎を囲むようにして、「奴等」を逃がすまいと円形にエレキバリケードが張られた。その円の中心にいたのは、ボロボロの汚い布に身を纏った人の集団であった。
治安維持隊の到着だ。流石と言うべきか、事が起きてから3分ほどで第二区エリアB担当の小隊が駆けつけてきたのである。
「報告します。今回のテロの実行犯と思わしき“反逆者”共の包囲が完了しました。今回は全部で10人だと思われます。」
「ご苦労だ。そのまま逃すなよ。直ぐに鎮圧を開始するから小隊に準備をさせておけ。」
「はっ!」
副隊長の突入用意の合図で、小隊の隊員達はビークルから飛び出したラックから、ハードアーマーとパルスマシンガンを各々取り出し、装備し始めた。
「いいかお前ら!何度も言うが、ハードアーマーは勝手に体に馴染んでくれる。けど生体プラグを体に刺すのを忘れんな?そうしなきゃつけてる意味のない、文字通りの『紙装甲』になっちまうからな!それとパルスマシンガンは光弾をマシンガンみてぇに連射するから弾切れは無いが、オーバーヒートだけは管理しろ!」
隊員達は次々と装着作業を終えてゆく。僅か1分間の間に突入陣形が整う。
艶の照り返すハードアーマーが、炎の熱気を帯びて赤く光る。隊員は誰一人として言葉を発しないにもかかわらず、気流はざわめき始めている。
命令が下れば、いつでも『奴等』を仕留めにいける。
『特別商業区第二区エリアBにて、爆破テロが発生しました。これより反乱分子の掃討を開始します。セントラル住民の皆様は直ちに第二区から立ち退いて下さい。』
アナウンスは繰り返し繰り返し、ひっきりなしにセントラル中に響き渡っている。