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氷結世界ノアラストル  作者: クオ村 往人
二章 ーー 自由を叫べよ
12/19

11ー可能性


「君たちに話しておきたいのは、この『アラストル』の事だ。」

モニター全面に『アラストル』の設計図ともう一つ、資料がモニター右側に、設計図にかぶさって映し出された。それは彼らにとって、なんだかよく分からない文字と数式の羅列だった。


「まあ見ても分からないよね。この資料を要約すると、『アラストルにはまだ隠された機能がある』ってこと。僕たち研究者は、これを『ブラックボックス』って呼んでる。」


「ブラックボックス…。」

ザナエナが微かにその名を呼んでみる。そこへ、ゼフォーツが出しゃばる。


「『隠された機能』ってのは、俺たちがもっと強くなるってことか!」


「おいX402!A階級であられるアルフィディオ様にタメ口とは何事か!身を慎め!」

管理官から喝が入った。


「…そうだぞゼフォーツ。今は身の程を弁えた方がいい。」


彼等には、興味本位での質問すら許されないのだ。ぶつぶつとぼやいてはいるが、ゼフォーツは仕方なく佇まいを整えた。


「…さっきの質問に答えるとするなら、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。アラストルは僕が設計したものだけど、完成すると全く違うものになったからね。よく分かってない事の方が多いんだ。今の段階では、『大きな可能性を秘めた未知の力』って認識でいいと思う。」


…とどのつまりこの説明でいくと、彼らの力は確かにその身体に内在しているものの、その正体はまだよく分かっておらず、その正体不明の部分が、彼らに無限の可能性を与える、かもしれない、という事だ。


「その力を使えるようになる引き金も未解明のままなんだ。だからその未知の力が発動する機会が、今後突然にあるかもしれない。心に留めておいてくれ。」


「…実戦で実験を兼ねているということですか。」

ふとザナエルがそう呟くが、管理官がその横暴を許さない。


「Z786!貴様まで口答えを!」


「ああ、まあまあいいじゃない。彼等には必要な情報なんだよ。僕が教えたいんだから、彼等の横暴を今だけ許してやりなよ。」


「…っ了解しました。」

アルフがすっと止めに入って、管理官はようやく少し静かになった。そして、ここで特例で彼等に質疑応答の時間が与えられた。


「さっき君が言った通りだね。なんせメカニズムそのものがよく分かってないんだから、そうならざるを得ない。ま僕は実験好きだし、君たち最下層だからどうでもいいけど。」


「何故このタイミングで言おうとしたんですか。」


ザナエナまで参加し始めた。


「人権革命軍の大規模な襲撃が近々あるだろ。『アラストル』って多人数戦で投入した事ないから、もしかして多人数戦中にブラックボックスが姿を現すかもって思ってね。」


「結局、それで俺は強くなれんのか?この3人よりもか?」


ゼフォーツがさっきと同じ事をきいてきた。


「…君は誰よりも強くなる、って言えば満足?」

呆れて皮肉しか出ない。


「あ、そっちのおっさんはいいの?質問。」


「私は、結構です。」


「ふーん。」


質問も無くなったようなので、これで一通り説明は終わった。


「もう質問無い?よし無いね。じゃあまたね。」


モニターはセントラル全域の地図に切り替わった。アルフは先程のデータの入ったパソコンとモニターの遠隔接続を切って、パソコンを脇に抱えて急いで部屋から出ようとした。


「あら、あの、アルフィディオ様。もう終わりですか?」


「うん。彼らに『ブラックボックス』のこと話しておきたかっただけだし、今日中にやっときたいことあるし、もう研究所に帰ろーって。」


「もう一言だけでもないのですか?」


「えっと、4人とも『バトンソード』のメンテは定期的に申請してね。じゃあね。」

それだけ言うと、アルフはさっさとエレベーターに乗って行ってしまった。相変わらずアルフは自由奔放が通常運転だ。



そうだ。『バトンソード』についても説明せねばなるまい。


『バトンソード』は、彼等BLACKの標準装備の一つである。黒いバトンに金色のラインをあしらったデザインをしている。普段は携帯しやすいバトンの形のまま腰に装備されているが、取り外して戦う意思を見せて握りしめると、先端から銀色の刀の刃が形成され、バトンはたちまち刀の柄になる。

その刃の切れ味は、分子レベルでの物質同士の結合を断つことを可能にしている。

刃は何度でも生成可能であるため、刀の刃だけを飛ばして遠距離攻撃、なんていうこともできたりする。



しかし何故彼等の武器は刀か。その訳は、アラストルと組み合わせる専用武器の相性が一番高かったのが、刀という形をとった時だったからだ。故に、彼等はこれまで刀一本で戦ってきたことになる。


だが、その刀は彼等のものではないのだ。振るってきた刃の一筋一筋に、彼等の“意思”は存在していないのだ。それが彼等の、『生きる為に人を殺す』ということだった。


未知の可能性。それは決まった生き方をする彼等には、本来無縁の言葉であった。故に、『ブラックボックス』の存在は彼等の意識下に鮮明に刻まれた。

4人はそれぞれ自分の胸に手を当ててみた。金属の冷たさが少し残っている。が、確かに自分の身体の熱を感じる。


この時だけは、ゼフォーツを含め4人の胸の内は同じだった。暫く、戸惑いつつも、皆が互いに見つめ合った。


「お、おい貴様ら!このまま明日の作戦概要を説明する!心して聞け!」


アルフがいなくなってしまったので、3日後の襲撃に向けて、彼女が治安維持隊上層部から提案された作戦プランを、彼らに説明し始めた。4人はすぐさま我へかえり、作戦概要を教え込まれ始めた。管理官は説明が上手い方では無かったが、そんな事を言っている時では無い。なんだか半ば“叩き込まれた”気はするが、それは全く気にならなかった。『可能性』という言葉だけが頭の中に未だ残り続けている。


この戦いは、おそらく彼らにとって大きな意味を持つ。


時が、17時をまわった。

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