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季節がめぐる中で 30

 少年は振り返らずに歩き続けた。そして保安隊の寮から見えない通りまで来た時、彼の姿を見つけたがっちりとした体格のスーツを着込んだアジア系の男が少年に駆け寄ってきた。

「クリタ君!なんでそんな……」 

 クリタと呼ばれた少年は男を無視して停められていた高級乗用車の隣まで歩いていく。そして思い切りその車のドアを蹴り上げた。

「何を……」 

 男は驚いたような顔で少年、ジョージ・クリタを見つめた。

「いつまで僕はこんなことをしなきゃいけないのかな?」 

 ジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま不服そうに頬を膨らますクリタ少年。彼は塀に隠れて見えない保安隊の寮の方を向き直った。

「我々には彼らの監視をする義務があるんだからしょうがないじゃないか」 

 そう言う男の顔には諦めのような表情が浮かんでいた。クリタ少年はそれを見透かしたように笑みを浮かべてジャンバーのポケットからガムを取り出した。

「嵯峨惟基と言うオジサンがなんでこんな奇妙な部隊を立ち上げたのか知りたいって言うなら直接聞けばいいんだよ。なにもこんな回りくどいことしなくても」 

 クリタ少年の言葉に男は頷いている自分を見つけた。彼もまったく同じ意見だった。

 『法術』と言う人間の持つ力の存在。この遼州星系の先住民族に接触した時からアメリカ軍はその力の軍事利用と言う側面に着目し研究を続けていた。

 二十年前。法術師としての潜在能力が極めて高いと目されていた嵯峨惟基少佐の身柄を政治取引で遼北から譲り受けると、アメリカ陸軍は徹底的に彼を研究した。その内容については高度な政治的配慮から外事関連の下級武官に過ぎない彼には知らされていなかった。ただ、嵯峨惟基の細胞から作られたクローン人間である少年、ジョージ・クリタが生きていること。そして目の前でガムを膨らませていること。それは否定できない事実だった。

 クリタ少年がどのような力を持っているのかは、男にとって先ほどまではどうでもいいことだった。ただ保安隊の面々を目的も知らされずに監視することだけが彼の仕事だった。そんな彼がクリタ少年が見せたその能力の片鱗により、明らかに自分にこの少年に対する恐怖感が生まれているのを感じていた。

 少年は寮の前で保安隊の女性士官のプロ野球へのスカウトの情報を得ようと群がる新聞記者達の中にまぎれて立っていた。記者達は学校に向かう少年達と同じように少年にはまったく関心を持たないと言うように寮の玄関に視線を向けていた。

 だが、少年が玄関の前に立ったとたん、記者達はまるでまるで催眠術にかかったように少年を見つめた。

 全員に注視されたクリタ少年はゆっくりと左手を上げた。

 それが合図と言うように記者達は荷物をまとめ始めた。その様子はまるでクリタ少年が記者達に重要な用件を命じたとでも言うようにも見えた。

『こいつは天使かなにか……いやそんな綺麗な代物じゃない。悪魔だ』 

 男は心の中でそんなことを考えながらクリタ少年を見つめていた。

「おい、帰るぞ」 

 クリタ少年の言葉にはその年齢に似つかわしくない重みがあった。男は少年の前のドアを開く。そして少年が車に乗り込むのを確認すると助手席に乗り込んで、浅黒い肌の運転席の男の肩を叩いて発信の指示を出した。

「餓鬼のお守りもつらいもんだねえ!」 

 思わずそう言った男だが、クリタ少年はただにんまりと笑みを浮かべると外の住宅街を歩く小学生達の列に目を向けただけだった。

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