第5話 箱の中に魔界の王が降臨する確率は50%。
登場人物
課長 第二企画室開発部研究課 責任者 単身赴任中
沢渡 第二企画室開発部課長対策係課長代理
平 同研究員 補佐
折田 同研究員 主査 広報担当
市城 同研究員 主査 事務担当
1 市城「おはよう沢渡さん。」
2 沢渡「おはよう市城きゅん。早いのね。」
3 市城「沢渡さんこそ。まだ7時だよ。」
4 沢渡「本部との引き継ぎあるかなって。」
5 市城「そうか。でも僕達が出勤しても」
「ずっと本部で監視しているんじゃないかな。」
6 沢渡「するでしょうね。」
「落ち着いたら私達用無しで異動かな。」
7 市城「もしかして平君に厳しくしてるのってそれ?」
8 沢渡「肩書だけ係長になっても」
「あのままじゃ上司としてはどうかと。」
9 市城「今回の事も何となく他人事なところあるしね。」
10 沢渡「折田や市城きゅんだって」
「いつまでもフォローしていられないでしょ。」
11 市城「次はバラバラの部署になると思っているの?」
12 沢渡「なるでしょうね。元の部署に戻るか。」
「それとも本社かどこかの営業所か。」
13 市城「やっぱり口封じ的な?」
14 沢渡「今の状況は口封じよね。でもどんな状況であれ」
「事態が収拾したらこの部署は閉鎖される。」」
15 市城「僕達の処遇に会社が困るわけだね。」
16 沢渡「会社の守秘義務条項とは別に」
「秘密保持契約の書類にサインさせられたでしょ。」
17 市城「うん。」
18 沢渡「会社として都合がいいのは」
「世間に何も知られず終わらせる事。」
19 市城「だとしたら僕達暗殺されない?」
「お前は秘密を知りすぎた。的な。」
20 沢渡「平みたいな事言わないで。」
21 平「おいーっす。」
22 沢渡「折田は一緒じゃないのか?」
23 平「営業部で引き継ぎ済ませてから来るって。」
24 沢渡「そうか。じゃあ平から折田に伝えてくれ。」
25 平「うん?何かあった?」
26 沢渡「18時過ぎに上から偉い人来るって。」
27 平「何でそんな時間に。」
28 市城「自分とこの業務終わってから来るからじゃない?」
29 平「何だよそれ面倒臭ぇなぁ。」
「どうせ暇な連中なんだからとっとと来いよ。」
30 折田「おいーっす。」
31 平「なんだよもう来たよ。沢渡もう一回同じ事言ってくれ。」
32 折田「それで何か変わった事あった?」
33 沢渡「相変わらずあーとかうーとかは言う。」
34 折田「何か伝えたい事があるとか。」
35 平「俺は魔界の王だ。」
「早く縄を解け。さもないと世界を滅ぼすぞ。」
36 沢渡「世界を滅ぼす力があるなら自力で解けよ。」
37 平「世界を滅ぼすには手のヒラをこうしてだな。」
38 市城「ゾンビ系だと思ったら憑依系?」
39 沢渡「課長に憑くってどんな罰ゲームだよ魔界の王。」
40 折田「世界滅ぼすって具体的に何するの?」
41 平「人々に恐怖と混沌を与え絶望の淵に落とすのだ。」
42 沢渡「で?」
43 平「で?とは?」
44 沢渡「課長ごとき御しえないのに世界を統治できるのか?」
「課長ごときに憑くような間抜けが王を名乗るな。」
「全人類代表して言ってやる。出直してこい三下。」
45 平「厳しくない?魔界の王に向かって。」
46 沢渡「判った。」
「全人類救済のため課長には犠牲になっていただく。」
47 折田「まさか課長もろとも。」
48 沢渡「やれ平。お前が救世主だ。」
49 市城「魔界の王はともかく」
「本当に何か言っているようにも聞こえるね。」」
50 沢渡「はら、へった。めし、くれ。的な事でしょ。」
51 折田「うま、かゆ。」
52 平「食事とかどうしてるんだ?」
53 沢渡「今日は社食かな。」
54 平「お前じゃねぇよ。課長だよ。」
55 折田「ゾンビなんだから飯なんか喰わないだろ。」
56 市城「ゾンビって人食べるんじゃないの?」
57 沢渡「平喰われて来いよ。」
58 平「あーっそれはパワハラだぞ沢渡。」
59 沢渡「ただの業務命令よ。」
「被験者の課長が餓死したら私のクビが飛ぶじゃない。」
60 折田「もう死んでいるんじゃないのかって。」
61 平「課長代理はお昼に行ってます。」
62 市城「僕たちも外に出てた方がいいですか?」
63 平「このガラス割れたりしない?」
64 市城「パンダみたい。」
65 平「見世物にして金取れるかな。」
66 市城「人気が出て入場制限掛かったりして。」
67 平「ねぇちょっとアナタ。ここの人?」
68 市城「ええそうですよ。」
69 平「予約取れないのよねー。何とかならないかしらー。」
70 市城「うーん。そう言われましてもねー。」
71 平「ねぇお兄さーん。」
72 市城「うーん。そう言われましてもねー。」
73 平「うおうハイっ。仕様変更の確認っすね。今やります。」
74 市城「はいっ。課長代理戻りましたら伝えておきます。」
75 平「仕様変更って言っても強化ガラスにしただけだろ?」
76 市城「これはアクリル板だね。」
77 平「中は随分とすっきりさせたなー。」
「壁にテープ貼っていったけど何?」」
78 市城「えーっと、あった。身長の変化の確認ってあるよ。」
79 平「モニタ越しに確認するためか。」
「課長そんな頻繁に伸び縮みするのか?」」
80 市城「カメラの追加と体重計。床にマット。」
81 平「体重計?あ本当だ。自分から乗るか?」
82 市城「端のロッカーに救急医療キットと」
「血圧計とオキシメーター。」
83 平「オキシメーターって酸素飽和度測るやつだよな。」
「意味あると思う?」
84 市城「どうなんだろう。」
「折田君は死んでるって言っていたけど。」
85 平「どう見ても生きてるよな。」
「少なくとも死人には見えない。」
86 市城「機能が停止しているなら」
「バイタルモニターする必要ないよね。」
87 平「つまり課長は生きている。」
88 市城「モニタリングはしているけど」
「その結果を教えてくれないからまだ判らないよ。」
89 平「箱の中の課長を観測しているのに」
「その存在が不確定とか数学者が喜びそうだな。」
90 市城「シュレディンガーの課長。」
91 平「市城君の事、沢渡は知っているの?」
92 市城「知ってるよー。」
93 平「知っててあれなの?」
94 市城「他の皆には内緒にしてると思ってるんだよ。」
95 平「俺達付き合ってるって思わせてみるか。」
96 市城「え?」
97 平「実は内緒で付き合ってるってのを演じてみる。」
98 市城「どういう事?」
99 平「おおっぴらにしないでそれとなく」
「実は付き合っているのかって疑わせる。」
100 市城「ドッキリみたいな事?」
101 平「みたいと言うかドッキリ。」
「でもあからさまにバレるような事はしないの。」
102 市城「バレなきゃドッキリじゃなくない?」
103 平「だからさ、それとなくそんな雰囲気を作るの。」
104 市城「あー例えば一緒にトイレ行くとか?」
105 平「そうそう。でニコニコしながら戻ってくるの。」
106 市城「手を繋いだりして?」
107 平「いや。それはヤリ過ぎ。」
108 市城「加減が難しいなぁ。」
109 平「あくまでも内緒にしてるの。でも端々に出ちゃうの。」
110 市城「うーん。で沢渡さんにバラすのっていつ?」
111 平「お前達付き合ってるの?て聞いたら。」
112 市城「聞かれなかったら?」
113 平「そんときは手でも繋ぐさ。」