プロローグ 〜ある男の手記〜
この日記を見ているということは、俺はもうこの世に存在しないだろうな。
2035年 3月 20日 位置:名前は伏せるため北東の海底とだけ記しておく :軍事研究施設 オライオン
室温 25℃
この施設で数十年を費やして来た俺が、ようやく完成させた最高傑作に葬られることを考えればある意味幸いなのかも知れない。
前々からうっすらと気づいていた事だ。まぁ、あんだけ酷い目に合わせておいて怨みを持つなと言う方がおかしいか?
所長も人が悪い。拘束を弛めるなんて馬鹿な真似をするよう言ってきやがった。
これは罪だ。俺たち人間が生み出したのは戦略的統合兵器なんて生易しいものじゃない。
奴は殺戮人形だ。
凄惨な光景だったよ。奴が目覚めた途端、職員の殆どをスクラップにしたと思えば、他の実験兵器を次々と解き放ちやがった。
もう生き残りは俺と瀕死のミゲルだけだ。彼の手足は何処かに忘れてきたらしい。
実に愚かだと思うよ。あんな悪魔を小さな島国の地下で発見された肉塊から創り出しちまうなんてな。
笑い話にもなりゃしねえ、なんたって戦争でがっぽり儲けるつもりがいつの間にか俺らを八つ裂きにするための化け物を造ってたなんてよ。
なぁ、これもあんたの筋書き通りってわけなのかい? 所長?
いつの間にか居なくなった責任者はこの際どうでもいいや。
ここはもう長くないからこの手帳を手に取った君にお礼を言っておくか……といっても、近い内にコッチに来るだろうがな。
コッチはあの世っていう意味だよ。ま、そんなことどうでもいいな。
おっと、もう迎えが来たようだ。
あ〜あ〜……ったく。自爆システムはとっくに作動してるのに諦めが悪いったら。
やるせねぇよな、食われた職員が同じ化け物になっちまうなんてよ。
一緒にオサラバと行くか。 じゃ、あの世でまってるぜ。
遊び食いされるのは嫌いなんで、確か引き出しに拳銃があったよな。
…………あばよ