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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第一章・エダ編
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「洋上の男」

「洋上の男」


大西洋上を移動する一隻のヨット。

そこには祐次とJOLJUがいた。

二人は暢気に船での移動を満喫していたが、そこに無線が鳴った。

こうして祐次たちもエダたちの存在を知るのだった。

***


 大西洋を一艘のヨットが風を受け、ゆっくりとしたスピードで走っていた。


 ヨット……といっても、全長25mはあるクルーザーヨットで内海用ではない外海も走れるヨットだ。ガソリンエンジンもある。


 ちょっと異風なのは、後部に置かれた大きなガソリン缶と、船体のところどころに置かれた砂袋だ。ガリソンは補給用だと分かるが、砂袋は普通の人間には分からない。しかしこれが重要なのだ。


 そして乗員は二人。いや一人と一柱……いや一匹か。


 デッキの上では、ギターを片手にのんびり日本の歌謡曲を歌う黒部 祐次と、後部で釣竿を握り、祐次のギターに合わせこれ以上ない音痴を披露しているJOLJUがいた。


「あしたー今日よりも好きになれるぅ~あふれるおもーーいが、とまらなぁぁぁいー」

 と、JOLJUは楽しそうに歌っている。


 二人とも、長閑な航海の真っ最中だ。

 スペインを出発して今朝9日目が経過した。


 目指すのは北米大陸だ。今のところNYを目指している。


 祐次はギターを弾きながら飲んでいたビールを飲み干し、空き缶を無造作に海に捨てた。


「いまもーこんなにも好きでいるのにぃぃぃ~言葉にできーーーなぁぁぁいーーー」


「おいJOLJU。もうビールが切れたぞ」

「冷蔵庫にはコーラがたっぷりあるからモーマンタイだJO」


 このチンチクリンの異星人の神らしい生命体は、地球のコーラが甚くお気に入りで、これがあれば機嫌がいい。もっとも水道局も飲料メーカーも消滅した今となっては、むしろ缶飲料のほうが水より手に入りやすい。幸い開けていなければ安全でもある。



「本当に10日で北米に着くんだろうな?」

「本ではそう書いてあったJO」

「そりゃあ、航海士がいてGPSもあって無線も正常な場合だろ?」


 航海士もいなければGPSもないし灯台も機能していない。ついでに素人二人だ。だから現在地がどこかもさっぱり分からない。とにかく西を目指せばそのうち北米大陸につく、といういい加減な目算で始まった航海だ。


 だが他に手段はなかった。飛行機は操縦できないしヘリコプターで辿り着ける距離ではない。第一飛行機は飛行型AL・タイプ5に狙われたら逃れようがないから選択肢にない。このご時勢わざわざALのウジャウジャいる危険な北米に渡航しようなんて馬鹿な旅行者は祐次たち以外いようはずもないから最低限の人数で動かせて最小限のガソリンで動かせるものとなれば帆船の類しかなかった。


 幸い祐次は船舶免許4級を持っていたので、ごく基本的な操作はすることができたし、JOLJUは大抵の乗り物の操作方法や操縦方法は知っていたので、なんとか出航することが出来た。後は500年前と同じように方位磁石で西を確認しながら進むだけだ。


 スペインのバルセロナを西南西8時の方角を選び出航した。北米に近づけば北に流れる海流に当たるから、北米の中心からやや北あたりに到着する予定だ。一応二人の目的地はNYだ。事前の調べでNYにまとまった生存者が集まっていることを知ったからだ。欧州から米国にいく馬鹿はいなかったが、米国旅行中のフランス人の一家は祖国に帰ってきた。情報はこの家族から聞いたものだ。


 祐次はギターを置くと船内に入った。船内には所狭しと食料、水、医薬品、そして銃火器が放り込まれている。だから生活環境としては狭いベッド周辺しかないので、昼間はデッキで過ごしている。勿論操縦や警戒の必要もあるが、風に乗ればやることは少ない。


 祐次はコーラを二つ冷蔵庫から取り出しデッキに戻ると、ひとつをJOLJUに投げて渡した。JOLJUは釣竿を置き、コーラを美味しそうに一気飲みした。


「魚は釣れるのか?」

「アタリがない。けど釣れたら大きいJO!」


 沿岸部と違い外洋での釣りは小魚を模したルアー釣りで、釣れる魚も大型海洋魚だ。釣れれば一匹で二日は食料に困らない。航海出発二日目にJOLJUは1mほどのキハダマグロを釣った実績がある。もっとも大西洋外洋は太平洋より魚影は薄く沿岸部や時折ある浅いエリアに固まっているから、そうそう釣れるものでもない。JOLJUの釣りは食料補充というより単なる趣味だ。暇つぶしの時間はたっぷりある。


「めぐりあえーたぁーーそれが奇跡ぃ~」


「釣れないなら歌わず砂を撒いとけよ。そっちのほうが重要だ」

「今度は祐次の番なのに」

 ぶつくさいいながら、JOLJUは竿を置き砂袋の中から砂を取り出し船体に撒いていく。これはAL避けだ。


 海上にもALはいる。やつらは浮かんでいて、船などに当たればスライム状になって這い上がり、そこで人型になり襲ってくる。その防衛方法は、船体に砂を撒き、スライム状のALが這い上がるのを滑らせて落とす方法だ。これである程度防げる。これは祐次のアイデアではなくボートを棲家にしていたイタリア人のアイデアだ。海は広大で海上のALの数は陸に比べれば圧倒的に少ないが、それでも二度ほど遭遇し、全て滑り落として難を逃れた。大量の砂を積んできたのはこれが理由だ。砂が風雨や波で落ちないよう、船体の縁にはコールタールを塗ってある。沿岸部に近づけばALの数は増えるだろう。用心に越したことはない。


 JOLJUは引き続き音痴な歌を歌いながら砂を撒く。もう祐次は伴奏する気も失せ、コーラを飲みながらデッキチェアーに座りなおしたときだ。


 女の子の声がどこからかしていることに気がついた。



 祐次は起き上がった。そして音源のほうを見ると……そこにあったのはJOLJU愛用のオリジナル・スマートフォンだった。



『もしもし、もしもし? 誰かいますか?』


 間違いない。女の子の声だ。しかも流暢な日本語だ。

 祐次はすぐにスマホを取った。このスマホはJOLJU特製の無線機が内蔵してある。普通の無線機より広範囲使用できる。


「誰かいるのか?」

 祐次は日本語で答えた。その時、無線の向こうがざわついた。一人ではないようだ。

 人がいる。それも日本人だ。

 祐次の脳裏に、一瞬<ラマル・トエルム>という言葉が浮かんだ。別名<黒衣のサムライ>と呼ばれる日本人だ。祐次たちはこの人物を探すためわざわざ海を渡ってきたのだ。


 だが相手は若い女……少女だった。


「俺は黒部 祐次だ。政府関係者じゃない。日本人の医者だ。生存者か?」


『はい。はい! 生存者です! 助けを必要としています! お願いです、助けてください!!』


「落ち着け。まずは状況を教えてほしい。君の名前は?」


『エダ=ファーロングです! 今、ここに子供が14人います!』

 驚いたことに日本人ではなかった。日本人かと思うほど発音は流暢で確かだ。

 だが問題はそこではない。


「子供が14人……だと?」

 祐次は相手の思わぬ状況に息を飲んだ。


「エダ。まずは君たちの状況を教えてくれ」


 そういうと祐次はJOLJUを手招きすると、JOLJUにも聞かせるためスマホの音量を上げ、椅子の上に置いた。





***



 通信は10分ほどだ。


 子供たちは、何も知らなかった。どうやらこの世界で目が覚めて間もないことも分かった。

 かなりショッキングな話をした。

 オブラートに包んだところで、世界が崩壊した事実は変わらない。子供ばかりだろうが知らせなければ死ぬだけだ。

 無線の向こうが静かだったのは、どうやら日本語が分からなかったからのようだ。日本語を喋れるのは応答に出たエダという少女だけのようだ。


 だが、それが幸いしたのかもしれない。普通の人間が聞いたら卒倒しそうな内容だ。

 応答に出たエダという少女は聡明で、理解力もあり、冷静だった。返ってくる質問も報告も的確だ。


「恐らく、あのエダって子がリーダー格なんだろう。14歳で立派だよ。日本の大人たちより」


 正直自分がこの世界の事を初めて知らされたときのほうが余程うろたえたし、話を聞いた挙句精神を病んだ人間もいる。自殺した人間もいた。


 今までいた世界の崩壊、そしてエイリアンの侵略、政府も国家も消滅。こんな素っ頓狂とも思える現実を、彼女は受け止め、自分たちの現状を的確に説明し、その上で自分に救助を求めた。祐次はそれを確約した。知った以上助けるのが同じ人類としての役目だ。

 そして、今の祐次にはそれだけの力がある。


「パニックは困る。あっちの応対はエダに限定しないとな」

 指定するのは簡単だ。英語を喋らなければいい。自然とエダが窓口になる。彼女が子供たちを率いる限りパニックは起きないだろう。


 問題は現在地だ。

 見渡す限り海しか見えない。海鳥すらいない。

 だが多少なりだが、手かがりは掴めた。

 祐次は船内から北米東海岸の地図を持ってくると、それを広げた。


「お前の無線の効果範囲は?」

「大体300kmくらい。<ハビリス>の濃度で多少変わるけど」

「南にズレているはずだ。ならデラウェアかバージニア沖だな。思ったより南に来ている」


 現在当初の目標である中部東海岸沖にいるとすれば無線の範囲外になるし、もっと沿岸に近づけていればNYにいるらしい人々の無線を拾うはずだ。エダたちは昨日目覚めたという話だから、案外もう沿岸は近いかもしれない。ただしかなり南だ。


 安全を取るのであれば、チェザピーク湾の進みワシントンDCを目指すか、デラウェア湾を進みフィラデルフィアに入るのがいい。陸路より海路のほうが安全だ。だが時間はかかるしスピードも出ないし、そこまで船の操舵に自信もない。エンジンがあるとはいえ基本帆船だ。


 陸路のほうが早いが、リッチモンドやワシントンDC、フィラデルフィアといった大都市圏を通る。大都市にはALが群れていて戦闘は避けられない。JOLJUは戦力にならないし土地勘もない。一歩間違えばまったく別の場所に行く可能性もある。


「どうするJO?」

「仕方ない。こうなりゃ当たって砕けろだ。JOLJU、船を真西に向けろ。陸地に当たったら上陸だ。風が止んだらエンジンに切り替える。ガソリンが切れたらそれまでだ」


「おーきーどーきーだJO」


 ぴしっとJOLJUは敬礼すると、すぐに帆の調整に入った。むろんJOLJUだけではどうにもならないから祐次も手伝う。



 しかし到着がいつになるか、そこまでは分からない。

「洋上の男」でした。


意外?wに結構二人は仲良く馬が合ってますw

祐次とJOLJUはセカンド・主人公とサード・主人公の主人公コンビです。

祐次の登場はプロローグ3以来になります。

そして300日タイムスリップしたのもこの出会いがあったからです。

時間系列がぐちゃぐちゃですが、ちゃんとタネがあり後々解明されるので、今は信じてもらえればと思います。実はここに希望の鍵があります。


ということでついに祐次たちもエダを認識しました。

ちなみに10日で大西洋横断というのは豪華客船での話なので、全然アテにはなりません。そもそも無計画に近い素人の二人がとりあえず大きなヨットでやってきたくらいです。なのでいつ祐次たちの救援がつくかは祐次たちにも分かりません。


こうしてエダのほうは情報を得ることが出来ました。

救援も出しました。

しかし相手は大西洋にいる日本人。

色々な謎と困難が目白押しです。


エダたちはどうするか、が次回です。

今回はエダたちの話でないので少し暢気モードでしたが、エダたちはハード・モード突入です。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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