「傷だらけの英雄」
「傷だらけの英雄」
帰宅したエダ。
すでに祐次とJOLJUも帰宅していたが
エダは血で染まった祐次の上着を見て凍りつく。
そして、エダの決意……!
***
エダがコロンビア大学から自宅に戻ったのは、午後16時すぎだった。
射撃場から帰ったのは昼過ぎの13時。アリシアと大学内の食堂で昼食を採り、その後構内にある図書館で知り合った子供たちと一緒に読書や勉強をした。話の通り、自分より幼い子供たちが数人集まって勉強会をしていたので参加した。すごく平和で楽しい時間だった。
夕食は祐次と一緒がいいと思い、皆と別れ、購買部で食料を買って帰路についた。
家の前に車が停まっていたので、祐次とJOLJUがすでに帰宅していることが分かった。
「祐次、JOLJU? いる?」
玄関を開けて入ると、JOLJUがリビングで大きな缶に入った業務用プリンを食べながら何か作業をしていた。
「おかえりだJO~」
「祐次は?」
「今お風呂だJO」
「大変だったの?」
エダはキッチンに移動して食材を降ろしながら、ふと顔を上げた。リビングには僅かに湯気がバスルームから漏れ漂っている。
「ま、ボチボチだJO。また二日後いくJO」
「危険なことなかった?」
「ま……一応……エダもプリン食べる? たっぷりあるJO?」
「あとで貰うね」
エダはリビングのソファーの上に置いてある祐次のレザージャケットを見つけ、ハンガーにかけようと手にした。
その時だ。
レザージャケットの背中が三箇所裂け、乾いた血がベッタリとついているのを見つけた。
エダの頭の中が一瞬にして真っ白になった。
「祐次、怪我したの!?」
傷は大きい。そして相当な出血量だ。
「祐次!」
「あ。大丈夫――」
JOLJUが止めるより早く、エダは駆け出すとバスルームのドアを開けた。
「祐次!! 怪我、大丈夫!?」
エダがバスルームに飛び込む。
が、祐次はいたっていつもと変わらず、バスタブに体を沈めていた。
「な、なんだお前!?」
と、祐次のほうが驚く。
だがエダは真剣だ。
「祐次! 怪我、大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だ。ALが思ったよりいて背中を切られただけだ」
「祐次! 病院いかなきゃ! すごい血だよ!?」
「大体600から800ccくらい流れた。が、JOLJUが治した。それより……俺は入浴中なんだが」
その言葉を聞いて、エダは正気に戻った。
一瞬にして耳まで顔を赤面させると、目を祐次の体から逸らす。
下半身は湯船の中で見えないが、筋肉で引き締まった上半身は丸見えだ。
「ご、ごめんなさい!!」
エダは顔を背けながら慌ててバスルームを飛び出した。
3分ばかり……エダは恥ずかしさと祐次の裸を見た興奮で動悸が高鳴り、顔を真赤にして座り込んでいた。
祐次がバスルームから出たのは10分後だった。
腰に大きなバスタオルを巻いて出てきた。
「お前は5時くらいに帰ってくると思っていたからバスローブは部屋に忘れてきた。パンツは穿いているから気にするな」
エダが思春期で、しかも初心な女の子なのは知っている。祐次はさっさと自分の部屋に向かう。
エダは、手で顔を覆いながら……指の隙間から、そっと祐次の背中を見た。
裸が見たかったのではない。傷が見たかった。
それが目に入ったとき、エダはこれまでの羞恥心を忘れ言葉を失った。
背中と腰に生々しい大きな傷があった。傷き塞がっているが、痛々しい。
だけではなかった。他にいくつも傷がある。
全部完治しているが、ALの攻撃で受けた傷だ。
その瞬間、羞恥心や恥ずかしさは消え、戦慄が襲った。
……祐次が……祐次ですら、こんなに怪我をしてきた……。
ベンやアリシアが感心し、このNY共同体の誰よりも強い。その戦闘力がずば抜けている事はエダが一番知っている。自分が知る限り、もっとも強い人間だ。そんな祐次ですらAL相手には無傷ではいられない。
そして、祐次はこんな大怪我をしても、戦う事は辞めないし、戦いを恐れない。
それが怖い。
祐次が怖いのではない。祐次が傷つくのが怖い。
「…………」
しばらくして、祐次は部屋から戻ってきた。ズボンを穿き室内用のラフなTシャツ姿に変わっている。長い髪はまだ乾かずタオルを被っていた。
エダは俯き黙っていた。
祐次は冷蔵庫からソーダを二つ取ってくると、一つを開け一口飲むと、もう一つをエダに手渡した。
「なんだかんだALが600くらいいてな。街中ならともかく狭い船内で殺到してきた。この程度の怪我ならマシなほうだ」
「さっきはごめんなさい」
「気にするな。別に見られて減るものじゃないしな」
「二日後、また行くの?」
「ちょっと回収するものがある。あと、調べものが少しな。前言った異星人がこの近くにいることまでは分かった。どうやらベンやアリシアたちは<ラマル・トエルム>を知らないようだが、異星人たちは知っているかもしれない」
「大丈夫? 祐次。無理してない?」
……無理しないで……本当は行ってほしくない……。
その言葉をエダは飲み込んだ。
祐次は行く。行くのだ。
祐次は自分が生きるためだけのため動いているのではない。全人類の希望を見つけるため動いている。そんな義務や責任など祐次にはないのだが、それでも祐次はやめたりはしない。
そして自分も決めた。
祐次の相棒になる、と。
足手まといになってはいけない。
自分にできる事をしよう。サポートと、安らげる場所を作ろう。
エダは思う。
自分が祐次の使命の役に立てる事は何か。
きっと……人類に落胆させないことだと思う。
祐次が命を張る価値がある存在でいることが、きっと祐次の支えになる。
「でも、無茶しちゃ駄目だよ?」
エダは気持ちを落ち着かせ、精一杯気持ちよく微笑んだ。
「分かっているよ。俺だって死にたくはない」
「オイラもついているからモーマンタイだJO~」
「そうだね。JOLJUは祐次の相棒だもの」
「てへへだJO」
エダは大きなため息をついた。そしていつものエダに戻った。
「新しいコートがいるね」
「帰りに小さな店に寄ったが、手頃なレザージャケットがなくてな。折角値段を気にしなくていいんだったらいい物を着たいし、サイズもあるからな」
あの後二人は近くの雑貨屋に入ったが、ロクなものがなかった。NY市内は調達者たちで大分荒らされているようだ。気に入ったレザージャケットは見つからず、日が暮れると面倒なので、トレーナーだけ見つけて帰ってきた。
何でもいいわけではない。防寒だけでなくレザーは丈夫で防御用にもなるし、大きな拳銃を二丁隠し持つからできれば隠せるサイズで動きやすいほうがいい。むろん好みもあるが。
祐次は日本人にしては体格のいい長身で、サイズは日本よりむしろ米国のほうが適合する。
「そんなにいいジャケットなの?」
「アルマーニのラムレザー。牛は重いし豚は質が悪い。薄いやつじゃあ寒いし防御用に向かない。サイズはLか42かBE8かな。コロンビア大学の売店にあればいいんだが」
「じゃあ、今から行こ♪ 晩御飯も美味しいもの食べなきゃ! ステーキとかローストチキンとかバーベキューとか!」
「買い物してきたんじゃなかったのか?」
「うん。でも、祐次はパスタよりご飯がいいでしょ? パスタはいつでも食べられるし、怪我したんだから精がつくものをしっかり食べたほうがいいよ? 今日冷蔵コーナーにお肉があったから。鶏肉と鹿肉があったと思う」
「そりゃあいい。血が足りてないからな」
「オイラも色々働いたからおなかペコペコだJO」
JOLJUもお肉のご馳走大賛成だ。おなかがペコペコと言っているが、雑貨屋で見つけた業務用プリンを一人で食べている最中だ。激甘で祐次は一口でやめた。
「30分くらい休ませてくれ。それから購買部にいこう」
「うん」
「着替えてくる」
そういうと祐次は立ち上がり二階の自室に向かって歩いていった。
「傷だらけの英雄」でした。
まぁ……エダは心配しますよね。
この点祐次は自分に無関心というか気にしない……この点は祐次の欠点ですが。エダとしては堪らない。
帰宅したらすぐに風呂にいくのは入浴好きの祐次らしさです。
これが逆でエダの入浴中に飛び込んだら大騒ぎで大問題でしたが(笑
今回は全部祐次が悪い、ということで。
エダはまだまだ初心で思春期真っ只中の女の子です。
次回、また宇宙船に。今度はエダとアシアも同行します!
そして驚きの展開が!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




