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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第二章拓編
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「香港」1 第二章拓編短編

「香港」1



真夜中。

香港市に上陸しようとしていた拓たち一行。

だが香港市は完全に閉鎖されていた。

そして行く手にはALの大群が。


それでも拓たちは香港を目指す。

***


「ここどこだよ! ここ!!」



 時宗は叫びながらパイソンのシリンダーを開き撃ち終えた薬莢を捨て、すぐに新しい弾に交換する。

 隣にいた拓はショットガンの弾を込めながら首を横に振る。


「騒ぐなよ。俺が分るわけがないだろう」

「あのね。お前らは英語読めるでしょ? 何で迷うかなぁ……僕や優美はついていくしかないんだから。英語の道案内しっかり見て欲しいね」


 啓吾は汗を拭いながら周囲をライトで照らし眺めている。


 その隣では、優美がM4カービンを構え、搭載したナイトスコープで周囲を警戒している。


「ここがゲートなのは間違いないみたいだけど。でも沢山あるみたいだし」

「ごめんなさい。私、<罗湖口岸(ルオフー)>は利用したことなくて」


 レンが申し訳無さそうに俯く。彼女の手にもSIGP365と懐中電灯が握られている。


「レンちゃんのせいじゃねーよ。俺だって新宿駅や渋谷駅分らねぇーし」


 時宗はパイソンをホルスターに戻すと、ショットガンを担いだ。


 不慣れなだけではない。


 今は真夜中で、施設内には明かり一つない。そしてこの出入国施設イミグレーションは広く大きい。


 <罗湖口岸(ルオフー)>。中国と香港を隔てる最も古くて大きい出入国管理局で、この施設のゲートを越えれば香港に入る。一国二制度を採る香港の警備施設は他の国境より遥かに大きく複雑で、厄介だ。陸の入国管理施設だが、空港並みの設備で通れない場所も多い。


 そして、面白くないことに施設内にはALが多数徘徊していた。

 激しい戦闘と逃走を繰り広げ、なんとかここまで来たところだ。


 全員登山用の大型リュックを背負い、武器と懐中電灯を手に持っている。車は深セン市に置いてきた。置いてこざるを得なかった。この土地を支配する生存者グループ<香港>が香港市の道路を封鎖していて車での上陸は許してくれなかった。仕方なく深セン市の港の倉庫に貯めたガソリンと食料、ハウルと一緒に隠して徒歩で入ることにした。


 拓たちが<香港>の人間と接触したのは三日前。


 そこでいくつか情報を仕入れ、食料とガソリンと宝石類を差し出すことで香港市の滞在権利を買った。入国権は買えたが、入るのは夜、目立たぬようにという注文がついた。何か理由がありそうだが、ただ立ち寄るだけの拓たちは深く詮索しなかった。


 香港市では<香港>の組織の一人、(ヤン) 伊健(イーケン)という男が案内人として迎えに来ているはずだ。約束の時間は午後20時。今午後23時過ぎだから三時間は過ぎた。この様子だとどこかで死んでいるのかもしれない。


 拓はしっかり閉じられたメインゲートのガラスを叩いた。

 強化ガラスだ。簡単には壊れそうにない。


「ここは無理だな。開きそうにない」

「閉鎖して人の勝手な流入を防いでいるんだろうね。これだけALがいるんだもの。秘密ルートか何かあるんだろうさ」

「そしてその道案内は消えた。10日分の食料とガソリン60Lと一緒に」

「中国人に騙されたってワケね。これだから中国人は」


 やれやれ、と優美は溜息を吐く。


「ごめんなさい」

「別にレンの悪口言ってないよ。私も口が悪かった。ゴメンね」

「しかしどうするよ。今更引き返せねーぞ?」

「戻るのも大変だ。行くしかない」


 そこに、AKMを持った姜が戻ってきた。

 彼女は懐中電灯をAKM本体に括りつけている。そして夜目が利く。


「裏口を見つけた。職員用の通路で香港側のエントランス・ホールまで続いている」

「鍵は?」

「ショットガンがあるだろう?」


 安全に静かに進む……という考えは彼女にはない。

 短絡的なのではない。


 どうせこれだけALと戦闘をすれば銃声は香港市側にも聞こえている。今更隠してもしょうがない。そこは合理的なのだ。


 このままここにいても仕方がない。拓たちは姜に続いて進んだ。


「二、三ドアを抜ければ香港側のゲートだ。ただその先が問題だ」


 姜は先頭を走りながら拓を睨みつける。


「危険を冒す価値があるのか?」

「今更」


 時宗と拓でドアを破壊し、蹴り倒す。


 一同、<罗湖口岸(ルオフー)>の香港側に到達した。まだ職員用の廊下でエントランスではないが、そこからエントランスを見下ろす事が出来た。



「えっ……」



 全員絶句。



 エントランスは、ALで満ちていた。



 拓たちはライトでエントランスを照らす。ALは光では反応しないから問題はない。

 ざっと見ただけで、500はいそうだ。

 タイプ1だけなのが救いだろう。



「うわぁ……いるなぁ」

「<香港人>は普段このゲートで行き来してるんじゃねぇーの?」

「だと思うけど、他にも道はあるだろう」


 しかし元々香港は、本土とは隔離された都市だ。入る方法は限られている。


「この先はどうなっている? レン」

「高速鉄道が近くにある。広場も。大通りは市街に通じているけど、すぐそばに自然公園がある。都市部より自然公園に人は住んでいる」


 レンはこの香港の出身だ。そして矢崎と二人、この町から逃げ出した。生存者はレンの記憶では香港の4地区合わせて推定4000人ほど。この都市圏だと6000人くらいは人がいるだろう。<香港>の組織は広州市や深セン市も支配下においている。組織はあるが、統治しているわけではない。無政府状態だ。



「最後にもう一度だけ確認するが」


 姜はAKMの安全装置を外し、ショルダーホルスターに入れたSIGP226の残弾を確認しながら拓を睨む。


「本当に香港に行く気なのか?」


 船を手に入れるだけならば、別に香港に拘る必要はない。日本に行くために東シナ海を渡るのであれば最悪漁船でも行けなくはない。いきなり本州を目指すのではなく、台湾、沖縄と経由していけばいいし、いい船は台湾や沖縄で手に入れてもいい。ようは最低台湾まで行ければいいのだ。わざわざ人が住んでいる無政府地帯で治安の悪い香港でなくてもいい。勝手に調達するのであればむしろ無人の町のほうが楽だ。



「ああ。行く」



 拓は断固として言った。

 理由はある。

 香港から流れてきた広州市の生存者から、ある情報を聞いた。

 欧州からやってきた日本人がいるらしい。


 最初、それを聞いた拓は祐次のことかと思ったが、すぐに違う事に気づいた。祐次とJOLJUはイタリアから出発して今は北米にいる。それはJOLJUが証言した。


 だが考え直した。


 あの時空連続帯<ハビリス>に飲み込まれた第六班か第八班の生き残りがまだいたのではないか? 途中船内で別れた祐次とJOLJUはイタリアだった。他にも何人かと船内ではぐれた。もし生存者がいたのなら、転送先は欧州だったのかもしれない。北米を目指した祐次とは同行せず、日本を目指すことを選んだのかもしれない。そして香港に辿り着いたのかもしれない。



「武器も香港じゃねーと手に入らなねぇーんだろ? 姐御」

「我が人民の武器でお前たちのものではないがな」



 姜曰く、香港市内に北朝鮮軍が所有する秘密ビルがあり、そこには銃や弾が貯蔵してあるらしい。

 そこは非公式の秘密倉庫だから誰も手をつけていないだろう……というのが姜の意見だ。

 武器は欲しい。

 この中国大陸には思ったより生存者がいて武器の類は大分回収されている。<新世界>を出て11日……銃弾の補給は一度も出来ず、今の手持ちを使えば弾が尽きる。この事があるから、姜も香港行きには反対しなかった。



「出身者がいるところのほうがいいわよ。中国、訳わかんないもん。広いし漢字は違うし」


 優美はレンの頭を撫でながら言う。レンは香港出身だ。正直中国語も英語も分らない優美にとって異国の生活は辛い。それは啓吾も同感だ。


「迷ったときは突き進む。それが第八班精神だしね」


 啓吾も同意する。


「私、行く。皆が行くなら、私も行く」


 レンも頷いた。

 これで全員の意志が確定した。



「ま、突撃しても死ぬだけだし……ちょっと策を考えよう。何も考えないよりはマシだ」



 拓は全員を呼び集めると、作戦を伝えた。

「香港」1でした。


ということで、第二章ラストは拓たち一行の香港上陸編です。

拓たちの目的地は日本ですが、そのためには海を渡らなければならないです。そこで香港にやってきたわけです。

そして、ここで分かった香港に住む日本人の話。

このため、拓たちは香港に来ました。

しかしこの香港は生存者たちが集まり、どうやら一筋縄ではいかない様子。

さらにALもやっぱりいます。

いきなり戦闘となりそうですが、もう武器が少ない。

拓たちはどうなるのか!


ということで外伝の米軍編が終わり、本編です。

挿絵シリーズも復活しました。

この拓編が第二章のラストで、第三章の序章的存在になります。

次回でひとまずこの短編は終わります。香港上陸までの話です。


物語はこれからです。

これからも「AL」をよろしくお願いします。

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