「フォート・レオナード・ウッド」6 外伝END
「フォート・レオナード・ウッド」6 外伝END
米軍編完結。
ALは姿を消した。
米軍と生存者は生き残った。
だが、どうしてそうなったか……それは謎のまま。
米軍は勝ったのではなく、助けられた。
そして、スコットには使命を受け継ぐ。
不可解な世界の謎と、米軍の司令の地位を。
***
「中佐殿。ご無事ですか? 中佐殿」
体を揺り動かされて、スコットは意識を取り戻した。
すでに陽か暮れ、篝火や照明で基地は明るく照らしていた。
ALの姿はなく、兵士や民間人たちが破壊された基地の後始末で動き回っていた。
スコットは起き上がった。奇跡的に怪我はないようだ。
「今、何時だ?」
「午後21時19分です、中佐殿」
「五時間!? 俺はそんなに気を失っていたのか」
「中佐殿だけではありません。我々も同じように気を失っておりました。謎の閃光を受けて全員気を失ったようです。早く意識を取り戻した者でも、一時間ほど前です」
「では全員4時間は意識を失っていた、というわけか」
気がついたものが順次周囲を起こし、15分ほど前ようやく基地全体が目覚めた。
スコットは裏庭で倒れていたので発見が遅れたという事のようだ。
そして衝撃的な報告を受けた。
もう、この基地のどこにもALはいない。その周囲からも、嘘のように姿を消した。
「ALが去った。どういう事だ?」
「中佐殿。皆中佐のご命令を待っております。お体に問題がなければ指示をお願いできますでしょうか?」
「バーバリー大佐は?」
「……戦死なされました。屋上は全滅です」
「なんて事だ」
あの時すでに施設にALが多数侵入していた。大佐はシェルターに入る事が出来なかったのか、勇敢な大佐は逃げる事を恥じ最後まで戦ったのか。
「被害は?」
「まだ全てを把握は出来ておりませんが、兵士150、民間人300ほど。重軽傷者は80名ほどです。あの謎の閃光でALが撤退しなければ被害はその10倍以上になったと思われます」
「あの爆発で……ALが撤退した?」
「見た者はおりませんが、状況から考えて、そういう結論が出ております」
「で……今陸軍は誰が指揮を? バニング少佐か? ウェスバート少佐か?」
「両人とも戦死です、中佐殿」
「なんだって? じゃあ誰が司令代理なんだ?」
「上級士官で生き残ったのは、中佐殿だけのようです」
元々この基地に佐官は少なかった。そして皆優秀で勇敢な前線指揮官だった。優秀で勇敢であったがため、彼らは戦場を最後まで見捨てる事が出来ず、部下を残してシェルターに入る事が出来なかったのだろう。
「中佐殿。貴方が生き残った士官の中で最上位です。この軍基地の司令として、指揮を執っていただきたいのです。減ったとはいえ1000名の軍人と3800人の民間避難民がこの基地にはおります。大尉や中尉の職では基地司令の任は重すぎます。ですが貴方は元艦長で中佐、軍政にも通じ、そして集団の指揮にも通じております。適任かと私も考えます。残った部隊長や司令部も同意見です」
「…………」
報告を聞いたスコットは肩を落とした。これで栄光ある米国合衆国の佐官は、スコットただ一人になってしまった。
大尉や中尉は皆若く、彼らは軍大学を出ておらず、働きが抜群でも規則上佐官にはできない。基地司令の職は無理だ。
スコットしかいなかった。
その重責を思うと、内心体の芯が震える。
だが拒絶はできない。
彼は中佐なのだから。
「君の名前は何だったかな?」
「グレイン=レイス中尉でございます」
「では中尉。悪いが当分自分の副官としてサポートしてくれ。陸軍の事はまだ分らないことが多い。それと……すまないが、陸軍中佐の服と階級章を用意してくれ」
地位に相応しい格好が必要だ、とスコットは思った。そして海軍という彼の拘りと決別するためだ。こんな転進の例はないが、この緊急時にそれをいうほどスコットの頭は固くなかった。
ふと……偶然か、それとも何か感じたのか。
スコットが空を見上げたとき……遥か上空に浮かぶ異様なものを見つけた。
星ではなかった。白い円盤型の飛行物体だ。
「UFO? 異星人の宇宙船か?」
相手も気づいたのか、それとも偶然か……スコットが見つけた瞬間、宇宙船は突如急加速したかと思うと、一瞬にして姿を消した。ワープしたのか、転送か、それは分らない。
今更宇宙船を見ても驚かないが、それでも飛んでいる異星人の船は初めて見た。
……何者かが、我々を助けた。恐らく異星人。そしてALの敵、か……?
やはりこの地球には、異星人がやってきている。敵ばかりではないのかもしれない。
こうしてフォート・レオナード・ウッド基地はスコット=ペップ中佐が支配することとなった。彼は柔軟かつ人当たりが良く、部下の意見をよく聞き、そして決断もできる優秀な司令だった。
幸い、その後しばらくALは姿を見せず、基地は無事復旧作業を成し遂げた。
そして後日。
ようやく自分だけの時間を得たスコットは、バーバリーが残した極秘ファイルに目を通した。
そこには現在把握されている生存者の所在と共同体の名前。そしてその主要人物のデーターが記されていた。そしてAL五種類の詳細な特徴のレボートもあった。
それはそれほど重要ではない。
だが、次の記載を見たスコットは、その内容にしばし考え込んだ。
<敵は異星人の神。地球に神はおらず人類が神を倒さなければならない>
<ク・プリ星人、ゲ・エイル星人というものが地球にいる。敵ではないが味方でもない>
<人類にはいずれ救世主が現れる。日本人である。この日本人は全て知っている>
<蒼い髪の若い女。その女が人類存亡の本当の鍵である>
最初の一文は哲学的な意味か、それとも真実か。
いや、真実だとしても米軍にそれほど関係はない。次の一文も今更驚くような事ではない。
問題は次の二文だ。
「日本人の救世主と、蒼い髪の女?」
救世主とは宗教的な意味合いか?
いや、そうは思えない。しかし救世主とはどういう事だ?
歴戦の米軍軍人ですらあの化け物AL相手に戦っても限界がある。人間である以上世界を救うほどの力があるとは思えない。
第一どうして日本人なのだ?
日本人だって日本から出る事は容易ではないはずだ。それが米国に現れるというのだろうか?
わざわざ書き残しているという事は、いずれその日本人はここにやってくるという確信があるのか?
何をしにくる?
だが日本人の救世主という以上の情報はない。それなのに救世主だと何故断言しているのだ?
この日本人は全てを知っているとはどういう意味だ?
そして蒼い髪の女。
当たり前の事実に行き着く。
地球人で髪が蒼い人間などいない。
「異星人……の、人間?」
だとしか思えない。
バーバリー大佐は<蒼い髪の異星人>とは書かなかった。
<人間>……と書いてある。人間なのだ。
ク・プリとゲ・エイルという連中は<星人>とはっきり異星人であると区別している。
つまり、その蒼い髪の女は、少なくとも外見上は地球人と同じで、人間だということだ。
<トレッカー>であるスコットは、宇宙で地球人と同じ人類がいる確率がいかに低いか知っている。人とそっくりな種族はいるが、それは人間とはいえない。
「蒼い髪の女は人間で……味方かもしれない?」
こればかりは、どれだけ考えても答えは出なかった。
ただ、この通信機やこのバーバリー大佐の記録は、もしかしたら異星人の神か救世主か蒼い髪の女と出会い、記録したものかもしれない。通信機を渡し、あの攻撃的エイリアンの名をALだと教えた何者かがいたはずだ。
バーバリー大佐は何か知っていた。何か知っている者と出会っていた。
だがそれが何であったか……それは彼が没したため永遠に分からない。
この事はスコットの胸中深く刻まれた。
いずれは分かるかもしれない。
そして、あの日反応した通信機は、その後反応することはなかった。
軍を維持し、できるだけ民間人を保護し、生存者を確保する。
いつか、日本人の救世主と蒼い髪の女が現れるまで……彼らは生きていくしかない。
「フォート・レオナード・ウッド」6 でした。
この話で外伝米軍編は完結です。
この米軍編でも出てきた謎の日本人英雄の存在。
だけではなく、さまざまな情報。そして謎のUFO……!
実はこのあたりが本編の伏線になります。
拓や祐次たちだけではなかったわけですね。日本人英雄探し。
ちなみに、この話。むろん本編英語ですが、英語にするとある種趣がある演出があったり。
スコットは中佐ですが、海軍なので「Commander」で艦長だからCAPです。
陸軍だとルテナント・カーネルで中佐ですが、職務は司令官に就任するので職務はCommander(コマンダー・司令官)です。彼は結局陸軍に転職しますが、結局呼称はCommander……という言葉遊びになるんですが、日本語だと分かりませんね。尚、一応陸軍と海軍で呼び名が違うので<海軍中佐>とかいていたわけです。
そして異星人の情報。
ちなみにこの米軍編ですが、時系列ですが……現在は秘密にしておきます。
この外伝がいつの頃の話かは、後々本編で明らかになります。
実はよく読んでいる人は気付くかも。NY共同体では米軍のリーダーをスコット中佐だと言っていました。
さて、次からは本編です。
ちょっと短い拓編が入ります。この拓編で第二章は一旦区切られます。
さて、拓たちは今どこにいるのか!?
ということで次回、続きます。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




