「フォート・レオナード・ウッド」2
「フォート・レオナード・ウッド」2
大佐との雑談。
いくつか分かる、世界の現状。
スコットは、異星人の存在に疑問を抱く。
***
「カリフォルニア、シアトルあたりにも軍の生き残りや民間の生存者がいるらしい。ただ、遠くて確かな情報が取れていない。マイアミとNYには民間の共同体があってそこそこ規模が大きい。特にNYは警官がリーダーをしているしっかりした共同体で、こことも交流がある。二ヶ月に一度はお互い連絡兵を出して情報共有をしたり物資を調達しあったりしている。最近では東部で生存者を見つけたら、NYに行くよう勧めているくらいだ。マイアミとは不定期だが知らん連中ではない。ただ最近リーダーが死んで不安定だと聞いた」
「インターネットも電話も使えない。無線も有効範囲は狭い。鉄道は止まり飛行機も危険となれば、車で24時間以内に回れる範囲が行動範囲です。それには米国は広すぎる国ですよ」
「全くだ。19世紀に逆戻りだな」
「政府は?」
「ワシントンDCや周辺基地に偵察を出したが政府の生き残りは見つけられなかった。ネバダのネリス空軍基地やエリア51にも偵察に行ったが残念ながら銃と弾薬しかなかった。バンカーも使用した形跡はない。空母に避難したのかと思ったんだが、スコット君の話を聞く限りその線もなさそうだ」
海上も陸ほどではないが危険だ。何より補給が困難で自給は出来ず、とてもではないが大人数の生活を維持はできない。食料も、集めるだけでなく作らなければとても足りないし、ガソリンは常に消費し続ける。だが世界が崩壊しガソリンの大規模な補給もままならない。
その苦労は誰よりもスコットがよく知っている。イージス艦ですら維持できなかった。空母などとてもではないが無理だ。
「3億いた米国人が、今では2万か3万ですか。厳しい話ですね」
ひっそりと小規模な家族単位で生き残っている場所もあるだろう。それでも米国最大がこのフォート・レオナード・ウッドだから、多くても3万人ほどだ。元々3億人住んでいたのに。
翻って……あのエイリアンの数はどうだ。倒しても倒しても湧いて現れる。その数は軽く100億を超えているだろう。
世界中同じように侵略を受けているとすれば、一体全世界で人類はどれだけしか残されていないのか……その事を思うと胸が苦しくなる。
「一番困っているのは医者だ。ここには本物の医者がおらん。看護師だった人間や獣医はいるが……中佐の部下に医局兵がいたことが何より助かっている」
「船ですからね。しかし一流とまではいえません。スクールドクターよりマシな程度です」
「NYに一応医者はいるが、歳だし専門は皮膚科らしいからな。出張は無理だな」
ふと、スコットは別の話題を口にした。
「あのエイリアンには母船なり指揮官なりはいるのでしょうか?」
「指揮官?」
「自分の勝手な推測ですよ。あのエイリアンは凶暴で厄介ですが、どう見たって宇宙を旅してくるほど知能や科学があるとは思えません。地球の内側から沸いて出てきたようにも思えません。ならば母船があって、あのエイリアンを使役している高度な知能を持った異星人が他にいる……と考えます」
「そうだな。それはそうだろう」
「本当に戦うべきはその異星人です。ですがそんな知的異星人との交流や情報はないようです。宇宙空間にでも居を構えているのでしょうが、その連中だってずっと宇宙に居続けられるわけではないでしょう。食料や水の補給は必要ではないかと思います。連中の母艦を見つけて交渉ができれば、この悲惨な現状の打開に繋がるかもしれません」
「君はそんな事を考えていたのか」
「自分は船乗りです。だから補給の重要性はわかっています。それに」そういうとスコットはコーヒーを一口啜ってから苦笑した。「自分は元々スターウォーズ派ではなく<トレッカー>でして。SF好きなんですよ」
<トレッカー>とは<スター・トレック>シリーズの熱烈なファンのことをいう。SF好きはファンタジー要素の強いスターウォーズよりスター・トレックを好む。スター・トレックは宇宙冒険者の物語で、作中様々な異星人と遭遇し、異文明に接する。
「自分は、あのエイリアンは<ボーグ>に近い存在ではないかと考えます。集団意識を共有したり末端戦闘用要員に知能がない点など共通点があります。昆虫型社会です」
「成程。面白い仮説だ」
「<ボーグ>にはクイーンがいて、クイーンは人格を持つ支配者です。あのエイリアンにもしそういう特別な存在がいるとすれば、それが我ら地球にとって反撃できる唯一の手であり、地球文明再生の唯一の手です。倒すか、交渉するか」
「今のあのALどもとは対話のしようがないからな」
「AL? Acid Life?」
バーバリー大佐は、ちょっと意味ありげな笑みを浮かべる。
「あのエイリアンの名称だそうだ。我々の発音だと<エー・エル>という発音に近いし、酸性生命体の略といっても通じるからどっちだっていいのだが……一応アレはALというらしい」
「誰が命名したのです? ……いえ、今のお話から察すると……大佐は誰からその説明を聞いたのですか?」
スコットの顔色が変わった。
推測するに……その相手は地球人ではないのではないか?
バーバリー大佐は意味ありげに微笑むと、部屋の隅にある金庫を指差した。
「私に何かあったら……その時はあの金庫を開け情報を手に入れ有効に使いたまえ。金庫の鍵は私の生年月日だ。知っているのは上級士官だけ。君は中佐だから知る資格がある」
「大佐は……何をご存知なのですか?」
「今は秘密だ」
バーバリー大佐は楽しそうに笑うとコーヒーを傾けた。
その後いくつか他愛もない会話をした後、バーバリー大佐はスコットの軍服を眺めた。
「艦長服は換えがあるまい。陸で活動するなら陸軍の軍服のほうが楽ではないか?」
陸軍の軍服はカーキ系で、海軍は緑系迷彩だが艦長である彼は白の艦長服だ。白色の艦長服は一目で海軍だと分かる。だがスコットは苦笑し「着慣れていますので」と答えた。ここは陸軍でスコットはいわばお客さんだ。それにもしかしたら彼は合衆国最後の米国海軍艦長かもしれない。栄光ある米国海軍を無くしてしまうのは心情として少し抵抗があった。
バーバリー大佐はそんなスコットの見得が嫌いではない。軍人とは詰まるところ見得で生きる職業だ。
ただ基地司令として、一つだけスコットに命じなければならない。
「服は構わんが、それでは銃を携帯できまい。こんなご時勢だ。艦長とはいえ軍人は全員拳銃は携帯してもらう。ALは忽然と敷地内に出没する時もある。拳銃だけはもう個人管理で貸与しているくらいだ。君も拳銃だけは持ちたまえ」
そういうと、バーバリーは自分のデスクの引き出しから一丁の拳銃を取り出した。
それはパールグリップをつけたコルト・GCNMだった。年代物だが手入れが行き届き状態は悪くなく、何より美しい。
「私が特殊部隊のチーフをしていたとき使っていた相棒だ。使い心地は抜群だ。今はキンバーのカスタムを愛用しているから、こいつは趣味用なんだが机の中で肥やしにしていたと仕方がない。君に譲ろう。軍の輜重部に行けば1911系の弾やマガジンやホルスターは用意してくれる。いい銃だぞ?」
「よろしいのですか?」
「使いたまえ。ああ、予備マガジンもちゃんと持つほうがいい。ALは一気に襲ってくる。必ず1つの群れで20ほどの数はいる」
「はい」
バーバリーの好意を素直に受け取るスコット。
バーバリーがスコットに好意を抱いているのはスコットが優秀だからというだけではない。共にアイルランド系白人で、指導者としての苦労も知っている。そして中佐だ。この陸軍基地の生存軍は、元は大隊だったため上級士官は他に陸軍少佐が2人、海軍少佐が1人しかおらず、中佐はスコットだけだ。上級士官同士親しみがあるのだろう。
それから1時間ほど二人は雑談し、別れた。
スコットは指示通り軍の輜重部に行き、45オート用のホルスターと予備弾を受け取った。ホルスターは無骨で実戦的なものではなく、フロントアップタイプのガルコのショルダーホルスターを選んだ。これなら右脇のポウチに予備マガジンが装備できるし、何より頂いたGCNMにはこちらのほうが似合うと思い選んだ。
……どうせ自分が使うことはないだろう。ここには軍がある……。
が、そのスコットの考えは甘かった。
その日の午後15時過ぎ。ALの大群が、このフォート・レオナード・ウッド基地を襲撃した。
この襲撃が、彼らの運命を大きく変えることになる。
「フォート・レオナード・ウッド」2でした。
はい、AL大襲来が始まります!
ぶっちゃけ、米軍vsALがこの外伝本筋ですから。
ということで次回から、戦争開始です。
ちなみに今回、ちょろっと<AL>の名前の由来も出てきました。英語の意味もあるけど、やはり異星人がつけたようです。そしてその異星人は米軍と以前接触していた? それともずっと前から?
と、色々伏線の謎が投げかけられています。
で次回、ついにAL襲撃!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




