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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第一章・エダ編
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「破滅の足音 2」

「破滅の足音 2」



音信不通になった世界。

そんな中、災害アプリが報せた不吉な災害情報。

無線連絡を試みるトビィとエダは、ついに<AL>を目撃する。

世界の破滅が、すぐそこまで来ていた。

***



 女子のいるC棟のリビングには40インチの大型液晶テレビがあり、地震の被害に遭わずテレビ台の上に無事あった。


 トビィの動かした発電機で電気は復旧したが、予想通りテレビは画面は暗いままどのチャンネルも応答はなかった。テレビだけでなく、固定電話も、ラジオも、非常用無線も、全て駄目だ。こんなことは普通考えられない。ラジオや無線は停電でも使えるはずだ。


「それだけ大地震の被害はすごいのかもしれない。他所はもっと凄い被害なのかも」


 しかし、だとしたら余程大規模な災害だ。この周辺だけということはないだろう。恐らく州兵が災害救助のため動き出すはずだ。このキャンプ場に来ている事はロンドベルのルナルド学校側は把握している。


 すごい災害が起きたかも……と分かり、男子も女子も騒然となった。マグニチュード7クラスの地震ともなれば大災害が予想される。自分たちに圧し掛かる不安と恐怖で泣き出す子もいた。思えば停電と外と連絡が取れないだけなのに、教師がいてもその不安をぬぐう事ができない。エダたちが作った朝食を採らせることで、辛うじて恐慌を抑えた。


 エダは、まだ冷静だった。


「そうだ! スマホ!」


 自分のスマホが寝室に置きっぱなしなのを思い出した。ジェシカに断り部屋に戻ると、上着を取った。上着のポケットにスマホが入っているのを確認すると、上着を羽織ってスマホを手に取った。やはり通話もインーネットも出来ないが、アプリは動くものがある。


 そして、「もしかしたら……」と思ったアプリも<途中まで>動いていた。

 それを見たエダは、思わず立ち尽くし、言葉を失った。



 ……えっ……?



 こんなこと、ありえない。



 それにこれがもし本当だったら……本当なら、大災害なんてものじゃないかもしれない。


 エダは手の震えを必死に押さえながら、そのアプリに上がっているデーターを目で追った。そして最後のほうに、探していた一文を見つけた。




『強い地震があった。オトウサンもオカアサンも大丈夫だ。エダ、お前が無事であることを祈――』



「お父さん! お母さん!!」



 間違いない。この伝言アプリに残された日本語の一文……これは両親がエダに向けて残した文章だ。二人は無事だ。多分文章が途切れているのは、この直後インターネットの回線が途切れたのだろう。だが少なくとも地震の被害から免れたことは分かった。


 安堵で涙が零れた。張っていた気が一気に抜けて、その場で大声で泣きたい感情が込み上げてくる。


「泣いちゃ駄目。泣き虫は卒業したでしょ? エダ」


 そう自分に言い聞かせ、何度も深呼吸する。それでも嬉しさで涙は何粒か零れたが。


「エダ? どうしたの?」とジェシカが廊下に顔を出した。

「な、なんでも……なんでもないよ。ジェシカ」

「エダ。怖いならハグしてあげるよ?」

「そんなことより、大変なの!」エダはハンカチで涙を拭うと、駆け出した。そして子供たちをあやしているフィリップとセナリーのところに行く。


「どうしたんだ? エダ」

「先生。ちょっと来てください。お話があります」

「ここでは駄目かね?」

「できれば先生たちと、トビィと、ジェシカだけで」


 まだトビィはリビングに居たトビィも顔を上げる。





***




 そして四人は廊下に集まった。全員が揃ったところで、エダは自分のスマホを全員に見せた。


「重要な事なのでしっかり聞いてください」

「何が分かったんだい?」

「あたしのスマホには、日本の防災アプリが入っています。災害が起きたら自動で起動して災害情報や安否確認ができるんですけど……それで地震の情報が少し分かりました。でも、とても信じられません」


 そういってエダはスマホのアプリを起動させた。すると災害情報がびっしり表示されている。しかし小さい文字の日本語だからエダ以外の人間には何と書いているか全く読めない。


 エダは深呼吸して、それを読んだ。


「震度6を確認。東京、横浜、静岡、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡、沖縄。同規模の地震、上海、北京、香港、ニューデリー、シンガポール、ベルリン、パリ、ロンドン……北米、NY、カリフォルニア、ハワイ……他多数地点で確認」


 世界全土だ。それが全て同時刻に発生したことになっている。

 その説明をエダから聞いたとき、教師の二人は事の重大さと異常さに気付いた。地震が世界同時に、しかも同時刻に一斉に起きる事などありえない。


 さらに驚愕すべき事実がまだあった。どの地方も、震源は約1km未満なのだ。表層地震だとしてもこんな数値は出ない。


「浅い地震はない、てコトか?」


とトビィ。トビィとジェシカは、地震とは無縁の北米東海岸の人間だ。ピンと来ない。


「二つしかないわ」

と言ったのはセナリー先生だ。彼女は理科教師だ。知っている。



「核実験、もしくは隕石衝突」


 しかし隕石なら激突地点が最大震源地として記録されるはずだし、見えたはずだ。隕石ではない。


 ということは、残り一つしかない。



「……核戦争が起きた……?」


「でも隕石が落ちたって話も核戦争が起きたって話もありません」


 エダはアプリ内の契約者のカキコミを開いて確認する。皆突然の地震で驚いた事、緊急地震速報が鳴らず突然の揺れに驚いた、というカキコミがある。これが隕石衝突や核爆発なら閃光や爆発を目撃しているはずだ。


 だが昨日の夜、地震の後無数に見えた赤い流れ星は何だったのか? しかしあれが隕石だったとしたら順序が逆でやはり繋がらない。それに隕石であればNASAなり政府なりが探知しているはずだ。


 それでも災害が世界中で起きたという事は確認できた。NYでも震度6ということは、全米が今頃パニックに陥っているだろう。


「ありがとうエダ。こうなると、返ってこのキャンプ場のほうが安全かもしれないな。ロンドベルの町も、フィラデルフィアもきっとパニックが起きている」


 フィリップの結論は正しいだろう。

 災害で恐ろしいのは二次災害や暴徒、衛生面、食料だ。幸いこのキャンプ場は町から離れているし、衛生面や暴徒の心配も当面はない。食料は肉や野菜は心細いが、管理倉庫には多少の缶詰の備蓄がある。


「この話はここだけの話だ。他の子には報せないで」

 セナリーは振り返り言った。この不安だらけの状況下、さらに混乱を増やす事は適切ではない。ストレスで倒れる子供も出てくるだろう。


「バーニィーには報せる。あいつは頼もしい奴だ」

 とトビィはいうと、上着のGジャンを羽織りなおした。


「もう一度管理小屋に行ってくる。無線機を取ってくる。親父と連絡が取れるかもしれない」

「親父? トビィのお父さんって……」

「保安官助手だ。今頃駆け回っているだろうけど、無事を報せたほうがいいだろ? 保安官事務所の周波数もパトカーの周波数も知っている」

 そういうとトビィは教師二人の了解を得る前に外に飛び出した。



「頼もしいけど、さすがに一人は心配なんだが」

「じゃあエダがついていきます」とジェシカ。エダは「え?」と驚く。

「先生たちが姿を消すのはまずいし、私は小さい子の面倒みたいから。ならエダが一番! エダは見かけよりしっかりしているし、災害の事も知ってるから。無線が繋がった時情報提供できると思います」


 今のところ有益な情報はエダのスマホにある災害用アプリの情報だけだが、日本語のアプリで表示は日本語だからエダしか読めない。


 エダは頷くと、すぐにトビィの後を追い外に出た。

 すでに外は小雨が降り始めていた。

 エダは上着のフードを頭から被り、管理小屋までは少し距離がある。A棟とB棟の間だ。このC棟からだと120mほど離れている。



 ……傘があったほうがいいかも……。



 純粋な欧米人はちょっとした雨など気にしないのだが、エダは日本育ちだ。傘を使う習慣がある。それに今着ているアウトドア用スプリング・オーバーは今回のキャンプ用に父が買ってくれた新品で、雑に使いたくはない。エダは一度C棟の寝室に戻り、折り畳み傘を取ると傘を差して管理小屋に向かった。



 その途中……。



「……?……」



 エダは湖面に浮かぶ、不思議な物体を見つけた。

 黒いゼリーのような塊だった。岸から30mほどの浅瀬に浮かんでいて、目算で直径7mくらいはある。結構大きな塊だ。それがプカプカと湖面に浮かんでいた。



 ……昨日はあんなものなかったと思うけど……?



 まさかあれが隕石なのだろうか? それとも流星で落ちてきたのか? しかしだとしても浮いているというのはどういうことだろう。


 エダは不吉な気配を覚えた。だがそれを見つめていても特に変化はない。


 大鋸屑や藻がガスで膨らんだのかな? 


 この時はそれくらいにしか分からなかった。


 少なくとも生命体には見えない。……今のところは……。




***



 エダが管理小屋に入ったとき、中ではトビィが無線機の操作をしていた。

 エダが入ってきたのを見て、一瞬トビィは驚き、意味ありげに遠いC棟のほうを睨んだが、すぐに無線の操作に戻った。


 エダは入口のドアは閉めず、中に入りトビィの後ろで黙ってその様子を見守る。

 トビィは10分ほど無線を操作していたが、ついに無線機を置いた。


「駄目だ。繋がらねぇー」


 苛立ちながら無線機を叩くトビィ。エダがそっとトビィを覗き込む。


「やっぱり電気が通っていないの?」

「発電機は動かしたし無線機は動いてる。こいつは充電式でバッテリーはある。だがどこも反応がねぇー」

「災害で混線している、とか?」


 災害が起きれば通信過多になり混線する。無線も同じだ。だがトビィは頭を振った。


 混線どころか、どの周波数を試してもどこからも応答がない。全く電波が飛んでいないのだ。緊急用の回線も試したし警察無線も試した。だが全く応答がない。


「どうなってるんだ」

「焦っちゃ駄目だよ、トビィ。トビィは皆のお兄さんなんだからしっかりしないと」

「まるで世界がなくなったみたいだ」


 冗談ぽく言って笑う。だが実際のところトビィは笑える気分じゃなかった。


「こっちから信号だけは出しておくけど……」


 そういって立ち上がったときだ。

 トビィは異様なものを目撃し、固まった。


 これまで冷静さを保ってきたトビィは放心したかのように目を見開き、瞬き一つせずそれを見ていた。



「マジかよ」

「どうしたの? トビィ」

 エダは振り返った。


 そして、エダも<ソレ>を見た。


 湖の岸近く……約40mほど離れたところに、いた。


 濃い緑色をした、大量の粘液に体を包んでいる二足歩行の生命体……。


 腕をダラリと垂らし、口は大きく耳近くまで裂け、大きな目は白目も黒目もなく昆虫のように赤い。人型ではあるが身長は130cmくらいしかないが、長い尻尾がある。



「エ……エイリアン!?」



 エダはそう呟き、それから絶句した。


 そう、それはどこからどうみても、エイリアンというしかいいようのない風貌をもった生命体だった。



 これが、<AL>との、初めての遭遇であった。

「破滅の足音 2」でした。



ということで世界同時大災害。そしてついに<AL>の登場です。


<AL>自体はプロローグ2で登場しています。ただし拓や祐次たちはファースト・コンタクトではないし、エダ編でいろいろ細かい描写をいれたかったのであえて省きました。

<AL>の種類、生態、怖さなんかは、このエダ編で描いていけたらと思います。

その意味では、今回のエピソードが初登場であり、これからがファースト・コンタクトになります。そしてその恐ろしさが分かるのもこのシリーズです。拓や祐次たちは初めから情報を知っているところからスタートしているので。


今回のエピソードでいくつか破滅的な話が出てきました。

でも本当に悲惨になっていくのはこれからです。

そしてそれに立ち向かうのは年端もいかない子供たちです。そこもすでに成人している拓や祐次と違う点です。

これからが本当のパニック作であり、サバイバル作です。

どうぞこれからの展開を楽しみにしていてください。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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